寂しい右耳と夫婦の会話
サブピアスを失くした。2年ほど前に新調した、0.15カラットの一粒ダイヤモンドピアスを。
わたしの耳たぶには3つのピアスホールがある。左右対称に2つ、右耳のはしにもう1つ。このはしのピアスホールにつけるのがサブピアスだ。メインのピアスと調和するものを選んでいて、ダイヤモンドは万能選手として重宝する。
わたしが自分の立ち位置を「サブ的」だと認識してからずいぶん経つ。たとえば10人の人間が集まったとすると、わたしは主役を引き立てる、あるいはサポートするポジションにいることが多い。スポーツをやっていたなら、補欠なんじゃないだろうか(子どもの頃から運動が苦手だったのでその経験はないけれど)。
相対的サブであっても、わたしはわたしの人生の主役である。そんな思いで、0.15カラットの、小さいながらも確かな輝きを放つダイヤモンドのピアスを選んだ。砂場の石ころほどの大きさのピアスを買うのにうんうんうなって悩んでいたから、お店の方にはうっとうしく映ったかもしれないと、今になって思い返している。
そのピアスを失くしてしまった。
夏休みでドタドタバタバタと毎日が過ぎていくなか、外したピアスをキッチンカウンターにホイと置いていたら、見当たらなくなっていた。何日探しても、ない。ないと気づくまでにゴミ収集日があった。もしかしたら生活ゴミの袋にぽとりと落ちてしまったのではないかと思う。
ああー。頭をかきむしりたくなる。前髪が薄くなりそうなほど吟味したピアスを、わたし自身の生き方を投影するつもりで選んだピアスを、失くしてしまった。
そういうわけで、夏休み終盤から落ち込んでいる。金額の多寡にかかわらず、買ったものを失うのは悲しい。
「あーあ、ついてないなあ」とつぶやくわたしに、夫が言った。
「ちっさいやつ? 0.15? じゃあ今度は0.2にすればいいやん」
どういう発想なんだ、と首を傾げた。彼の言うところによると、「こんなことでへこたれないわよ」との思いをこめて0.2カラットにバージョンアップするんだそうだ。わかるようで、よくわからない。
ただ、この人が伴侶でよかったかもしれない、と思う。「なんでもっと大切にしなかったん? 失くしたものは戻ってこないんやで?」とか言われたら、噛みつきたくなっていたかもしれない。
失くしたピアスが気づかせてくれる夫婦の絆もあるんだろうか、と、ちょっと寂しい右耳を触りながら考える。地金が信じられないくらい値上がりしている昨今、似たものを買い直すか諦めるか、悩ましいところである。