夜の高速でぶっとばせ
短いお盆休み、義実家から自宅へ戻るのに高速道路を使った。運転は夫。助手席専門のわたしはのん気に座っているだけ。
もう日が暮れてずいぶん経った夜の時間帯で、あたりは暗く、まわりの車たちのライトが視界に長く尾をひくように映る。
双子の娘たちを連れて車で出かける機会は多いけれど、こんなに遅い時間にまでかかることはほとんどない。後部座席のジュニアシートで、二人はうつらうつらしていた。
彼女たちはまだ7歳になったばかり、21時をまわると眠くなるのだ。ミラーでその表情を窺いながら、わたしはある歌詞を口ずさんだ。
夜の高速道路を走るといつも、キンモクセイの『二人のアカボシ』が頭のなかを流れる。2002年のヒット曲で、当時若かったわたしもよく聴いた。
20代の頃、この曲を好きだという男性に何度かドライブやバーベキューに誘ってもらったことがある。ただ、そこから進展はなかった。モテないわたしの恋愛模様はいつだって微妙なあたりをぐるぐるしていた。
いく度めかのドライブのときに車のなかで流れていたから、わたしにとって『二人のアカボシ』はすっかり高速道路のイメージが定着してしまった。
たしかそのドライブはお昼間だったけれど、夜によく合う曲だと思った。歌詞にも「夜明けの街」という言葉が出てくるし、やや破滅的な世界観は昼には似つかわしくない感じがする。とにかく、暗い路面を連想させるのだ。
(そういえば、そんなデートなんだかなんなんだかよくわからないドライブに出かけたこともあったなあ)
懐かしく思い出していると、夫がバックミラーを見やってにやりと笑った。
「あ、我が家の双子さんたちは寝落ちしたな」
後部座席を振り返ると、しばらく前から目をとろんとさせていた娘たちがヘッドレストに頭をもたせかけて眠っていた。そろって口を薄く開け、世にも気持ちよさそうな寝顔である。わたしにとって、いちばんかわいい顔たちが並んでいた。
みんないろいろあって、いろいろなところにたどりつく。わたしは今のところ、この寝顔を見る時間を手に入れた。もしかしたらほかの目的地だってあったかもしれないけれど、わたしが到達したのはここだった。
「ちょっと音楽かえていい?」
夫にそう尋ね、わたしは『二人のアカボシ』を流した。やはり夜の高速道路に合ういい曲だ。
「いいね、懐かしいね。ユーミンの『中央フリーウェイ』も高速のイメージかな」
「ああ、それもいいよね」
娘たちを起こさないよう、オーディオ音量を落とし、話し声もひそやかに、わたしたちのマイホームに向かって高速道路を走る。そのスピードが昔のあれこれをぶっとばしてくれたような気がした。
わたしの小さな幸せはここにある。