無になる作業の贅沢さ
腕時計の革ベルトを自分で交換した。
いくつか持っている腕時計のうち、主張が控えめで使いやすい「Sur Mesure (シュールメジュール)」のものだ。腕時計ショップ「HIROB」のオリジナルブランドらしくクラシックかつ品のよいルックスで、いろいろな装いに合う。
グレーの革ベルトが気に入っていたのだけれど、いつのまにかかなり傷んでしまっていた。
ということで、替えのベルトを購入した。クロコ調の型押しが施されたもの。今度は黒を選んだ。
必要なのは、
・腕時計
・替えベルト
・Y字工具(バネ棒はずし)
この3つのアイテムでベルトを交換していく。
まずは剣先(ベルト穴のあるほう)側から交換した。バネ棒を押し下げてラグ(ベルトを留めている箇所)から取り外し、新しいベルトを取り付けた。尾錠(金具)側のベルトはグレー、剣先側は黒という、ちぐはぐな状態。
一人で作業しながら写真を撮るのには限界があり、実際の工程が写せないのがもどかしい。
尾錠側のベルトも交換。
これでベルト交換は完了である。しっかりラグの穴にバネ棒がはまっているか、もう一度確認する。
最後に、せっかくなので尾錠も交換した。新品の替えベルトに付属している尾錠ではなく、やっぱり純正品のほうがいいかな、と。純正品かどうかが問われる場面はそうないと思うのだけれど。
ベルトから尾錠を外すと上のようになる。この3点をまた新しいベルトに取り付け直す。
これですべての作業が完了した。手首の丸みに沿ってカーブしていたベルトから、ぴんぴんに伸びたままの新品へと変身を遂げた腕時計。
今までのベルトがグレーだったのと比べると、肌とのコントラストが強い。以前よりは合わせる洋服を選ぶかもしれないが、ずいぶんシックな印象になった。これはこれでよし。
細かな作業はけっこう好きだ。目の前の工程に集中し、思考がほかのことを寄せ付けない状態でいるのが。無の状態って、こういうことを言うのだろうか。
腕時計のベルトを自分で交換することで節約できる費用は、一部の高級メーカー品を除き、1000円~2000円程度だと思う。けれど、自力でのベルト交換は費用以上の価値があるように思う。頭のなかが無になるほど集中を求められる作業は、私にとってあまりない。花壇の手入れくらいだろうか。
15分ほどであっても、ときどきこういう時間をつくりながら生活していきたい。常になにかを考えていなければと追いたてられる生活のなかで、それは贅沢なものに違いないからだ。