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どうしたって、探りにいかない

わりとおめでたい人間だという自覚がある。

何がって、人さまが言ってくださることを真に受けるところが、だ。誰かがわたしのことを少しでも褒めてくれた日には、素直すぎるほど素直に受け取って喜ぶ。

このあいだなんて、お茶した友人が言ってくれた。

「ほら、あなたは上品やからさあ、」

上品。若い頃、チーママというあだ名がついたほど派手好みで、実の母親から「はすっぱな恰好しないで!」と言われたわたしがそんなお言葉をいただけるなんて信じられない。むふむふと内心舞い上がりながら地下鉄に乗り、夜になって夫に自慢したくらいだ。「今日ねえ、○○ちゃんに上品って言われたんだよおー」。

もちろん、自己肯定感が低いわたしなので、ずっとこうだったわけではない。

褒められたら「いえいえ、わたしなんて……」と即答していたし、実際に真に受けることもなかった。その裏には何か意図が隠されているんだろうと疑心暗鬼にもなっていた。

よく言うじゃないですか、「天然だね」との評価をそのまま受け止めてはいけないって。ほんわかしているとか、おっとりしているとか、そういう性格を褒めているのではなく、「あなた空気読めないね」「危なっかしいね」という苦々しさが言外にこめられていることもあるそうだ。

だから褒め言葉はこわいとずっと思っていたのだけれど、あるときふっとひらめいた。褒め言葉、そのまま受け止めちゃえば心は平穏じゃないかと。

とくにきっかけはない。唐突に真理を見つけた気になった。そして、ものすごく心が楽になった。もうええやん、裏は探りにいかなくて。

そのあたりから友人づきあいも楽になった。もしかしたら友人の言葉が、表面上のニュアンスとは違った意味をはらむことがあるかもしれない。でも、探りにいかずにおこうと思った。言葉のままにありがたく受け止めておけばいいんじゃないだろうか。

今も「いえいえ、わたしなんて……」を繰り出してしまうことは多々ある。しかし、お言葉はのまま、胸に留めるようにしている(あいにく、仕事ではそうもいかないことが多いけれど)。

あれこれ探りにいかない。それも一つの賢さだと思うのだ。40年生きてきてやっと得た、ちょっとしたライフハックである。

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