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立田姫を追って「YUMEJI」に会う
あべのハルカス美術館で開催中の【生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界】を観に行ってきた。
岡山県にある「夢二郷土美術館」所蔵品を中心に、竹久夢二の作品が展示されている。竹久夢二は明治末期から昭和前期にかけて活躍した画家で、大正浪漫の代名詞として扱われることもある。
「夢二式美人画」と呼ばれる独特の女性画をお好きな方も多いだろう。
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美術館入口に掲出されたポスターには、関西初公開だという『アマリリス』が使われている。油彩画ならではの重厚さが魅力的だなあ、などと思いながらゲートを通る。
会場に入るとすぐに大正浪漫の世界が迎えてくれた。夢二のポートレートのうしろには、モスグリーンの壁紙。障子を模したパネルは、一見すると単調なようでいてリズム感のある柄で飾られている。「ああ、夢二だ」と思った。
わたしは子どもの頃、何度か夢二郷土美術館に行ったことがある。両親の郷里から電車でそれほど時間のかからない場所に所在しているからだ。それに、母は夢二作品が好きだった。
今回は、昔わたしが出会ったたくさんの夢二美人たちに再会できた。『アマリリス』はもちろん、『女』や『秋のいこい』など、有名な作品たちがずらり。
はじめて観たとき、夢二の描く女性たちはわたしの目に「アンニュイで心もとなげな人」と映った。みんななんだか悲しげだ、と感じたのを憶えている。
それが、今回の展示では女性たちの強さも感じられたのが不思議だった。瞳には控えめながらも光が描かれているものが多いし、なよやかな姿勢はちょっとのことではへこたれないしたたかさを象徴しているように思えた。
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幼かったわたしのなかにもっとも強い印象を残したのが『立田姫』だ。竜田姫とも書く、日本神話に登場する女神を描いた作品である。
今回も「『立田姫』は展示されるかしら?」と思いながら来たので、会えて嬉しかった。
子どもの頃のわたしは、立田姫という女性が泣いているのだと思っていた。
しかしいまは、その華奢すぎるうなじと立ち姿にはひそかながらも確かな強さが宿っているように思えてならない。立田姫(竜田姫)とは秋の女神であると知っただけでなく、作品と向き合うわたしの心も変わったのだろう。
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そうそう、千代紙たちのかわいさよ。当時は洒脱な柄行きと受け止められたのかもしれないが、いまとなってはレトロさが心をくすぐる。これ、永遠に集め続けられそう。
そのほかにも、『少女画報』『婦人グラフ』などの表紙や挿絵、外遊時代に描かれたスケッチなど、夢二の生涯を追いながらさまざまな作品が展示されている。
おそらく白人の少女を描いたと思われるスケッチからは、その鼻筋の細さや瞳の淡さがよく伝わってきた。竹久夢二とは観察力に富んだ、女性を愛する人だったのだろうと勝手に推察している。
グッズも少し購入した。
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ロルバーンのノートには、『ベルリンの公園』が。表紙のパターンは、ほかにも2種類あった。
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ポストカードは何枚かを額に入れて飾ってみようと思う。娘たちも気に入っているものがいくつかあるので、いっしょに選ぶつもりだ。
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今回の展示を鑑賞し終えたいま、平成初期に観た「竹久夢二」と令和の「YUMEJI」が、完全に異なるものとしてわたしのなかに存在している。
絵画鑑賞は、作品と観る者が現在進行形で結びあうのが面白いのだと思う。観るときどきによって絵は印象を変える。
「夢二の絵は観たことあるよ」という方も、ぜひ一度「YUMEJI」に会いにハルカス美術館へ足をお運びになってみてはいかがでしょうか。
あべのハルカス16階には庭園があるので、絵画鑑賞のついでに景色も楽しめます。
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