【初note】研究者から起業してみて、研究者で良かった!と思うこと
はじめに
こんにちは。古谷です。
Co-LABO MAKER(コラボメーカー)という研究設備・ラボのシェアリングサービスをしている東北大学発ベンチャーの代表をしています。
Co-LABO MAKERは、一言でいうと「研究版のAirbnb」です。
やりたい実験があるけど研究設備やラボがない研究者を、研究設備はあるけど資金が必要な研究室や企業をつなげ、ラボや実験機器を一定期間使えるサービスを提供しています。
https://co-labo-maker.com/
同時に、東北大学の社会人ドクターかつ特任准教授でもあるという、不思議な肩書きをもっています。
これまで、noteやろうかなと思いつつ、書けていなかったのですが、コロナで外出も少ないこの機会に始めてみることにしました。
今回は「起業してみて、研究者で良かった!と思うこと」を書いてみようと思います。
私は、今でこそ新しいR&Dエコシステムを作っていく今のミッションに生涯取り組めるほどの価値を感じていますが、実のところ、実際に起業(2017年4月7日)する1年ほど前までは、起業家になろうとは考えていませんでした。むしろ、前職の化学メーカーで大好きな研究をできるだけやり続けたいと考えていました。
会社と家の往復で家族と研究以外のことへの視野が狭くなっていくことへの危機感から趣味でアイデア投稿を始め、それが思いの外結果がでて発展していき、自分が本当に欲しいと思うサービス案の検証過程で天命を感じ、起業に至りました。
詳しくはまた今度書く&過去記事等を参照いただくとして、上記のように、起業を意識して十分な準備をしていたわけではなかったので、我ながら中々大胆な決断をしたものです。
そんな船出でしたが、多くの方々のお力をかりながら、サービスを出し、複数賞もいただきつつ、紆余曲折ありながらも挑戦を続けることができています。
振り返ると、思いの外自然とできたことと、反対に修正に時間がかかり苦労した(苦労している)こととがあるため、これから記していきたいと思います。書いてみると思ったより長くなりそうだったので、複数に分けて書いていきたいと思います。
参考になれば幸いです。
起業してみて、研究者で良かった!と思うこと
1.自然と実験できる
まず、「自然と実験できる」ということが、研究しててよかったなあ、と思うところです。
起業の時に初期のフェーズでは、不確定要素だらけなので短いスパンで柔軟に仮説構築・仮説検証を繰り返していかなければなりません。当然ビジネスの知識も必要ですが、知識以上に実験という行為を自然とできることが強みになっています。
本当に価値のある結果は、多くの失敗の上に築かれるものですが、多数の失敗を繰り返しながらもそこから学びを得て進み続けられる、という人はあまりいません。うまくいくかわからないものに不安を抱えながら取り組むので、そこに対する強い執念や確信がなければすぐ諦めてしまいます。
一方、研究者は、もはや手はないんじゃないかというところからが本番で、認識の外にあったものを捻り出して、数多の失敗を繰り返しながら不可能だと思われていたものを突破していきます。なので、研究者は、失敗(実験結果)の先にゴールがあるということを知っており、そもそもの失敗耐性が高いのではないかと思います。
起業の0→1の場面では、まさにこの実験こそが重要です。
研究とビジネスは全く違う世界だと始める前は思っていたのですが、やってみると、対象がビジネスなのか科学なのかというだけで「研究」と「事業構築」は思いの外似ていました。以下の図のようなイメージです。
研究も事業構築も、何らかのテーマのもと、仮説を立てて実験を繰り返し、行きつ戻りつしながらだんだんと解像度を高めていくお仕事なので、
「試行錯誤しながらこれまで世界になかった新しい価値を生める」という点で研究が大好きだった私としてはとても楽しく、なじむものでした。
(0→1を超えて事業を伸ばすフェーズにいくとまた違ってきます)
なので、ビジネスに対するメンタルブロックを突破しできれば、研究者は起業に向いていると思います。(これが苦労した点なので別記事にて書いていきたいと思っています)
2.学習が苦ではない
次に研究者で良かったと思うことは「学習が苦ではない」というところです。起業、特にスタートアップにおいては、学び続け、レベルアップし続けられるということが最大の競争力になります。
起業して事業を大きくしていくには、0→1のフェーズ、1→10のフェーズ、10→100のフェーズとやることも適切な考え方も大きく変わっていきます。
0→1の新たな事業を構築する段階では、研究者のように実験を繰り返しながら、いくつもの役割をこなしつつ突き進んでいく動きが重要です。その後、PMFを達成してグロースの段階に入ると不確定性は減り、いかに組織を構築して事業を推し進めていくかが重要になります。更にステージが進むと、複数の事業ポートフォリオにどう資源を振り分けて会社全体としてどう経営していくかが重要になり、必要な能力は更に変わっていきます。
0→1(創業期・起業家)⇨ 1→10(成長期・事業家)⇨ 10→100(成熟期・経営者)というようなイメージです。
このように変化が激しく、初期はカバーしなければならない範囲も極めて広いため、最初から全てを持っている人は存在しません。むしろ、圧倒的な強みがある人ほど、それに固執してしまい学習が阻害されがちなので、注意が必要です。
これは研究でも同様で、論文や専門書、現場での指導や実験から学び続けないと価値ある成果は出せません。研究者に高い専門性が必要なのは、これから切り開く新たな地平を見極め、開拓していくために最低限必要だからであって、そこに固執して専門外を拒絶すると、いわゆる「専門バカ」と呼ばれる状態になってしまいます。これはあるべき姿ではありません。
新たな知を生み出すために、専門・専門外ともに学び続けることが宿命づけられた研究者は、学び続ける習慣を持ちやすく、この点では起業に向いていると思われます。
ただ、興味がないことは学ぶ気が起きない、専門に固執しすぎるという弱点も同時に有しているため、そこをどう突破するかが非常に重要になってきます。
3.他に同様の属性の人がほぼいない
3つ目は、必ずしも良いわけではないですが「他に同様の属性の人がほぼいない」というのも私はよかったです。
起業は何をやるか、いつやるか、も重要ですが、誰がやるか、も極めて重要です。それは単純にビジネスの能力が高いということではなく、その人である必然性があるか、ストーリーがあるか、という点で人が極めて重要です。
その課題に取り組む強い理由がないと粘り強く取り組むことは難しいため、立ち上げが困難な事業では、なぜ自分がこの事業をしたいのか、やり続けられるのか、というストーリーがないとすぐ安易な方に流れてしまいます。
なので人、特に創業者が重視されますが、事業によってはそんなストーリーを持ったライバルが多数おり、その中で勝ち抜いていかなければなりません。
研究者の場合は、わざわざ起業しようという人がほとんどおらず、そこで専門がかぶっているとなると更に確率が減るため、かなりレアな存在になることができます。それがいいことかというと一長一短で、先人がおらず大変なところもありますが、独自の価値を出しやすく、激しい競争にも晒されにくいため、私としてはよかったです。
それもあって何とか生き残れていますが、本当に価値あることをするためにはまだまだ戦闘力が足りていないため、「他に同様の属性の人がほぼいない」ことの弱点を補うための修行をしていかなければなりません。
研究者の心を持ちながら怒りによって目覚めたスーパー起業家的な存在となるべく、外にでて貪欲に吸収していきたいと思っています。
終わりに
ここまでお読みいただきありがとうございました!
いかがでしたでしょうか。今回は「起業の際、研究者で良かったこと」を書いてみました。
研究者と起業家は、世間一般のイメージでは180度異なる存在ではないかと思いますし、私も始めはそう思っていましたが、やってみると思っていたよりも似ていました。「これまでなかったものを創造する」という点が同じなので、そうなるとマインドや方法論もある程度似ているのは、思えば当然のことなのかなと思います。
ただし、途中ちらちらと書いている通り、似ている部分がある一方でマインドやスキルを大幅に組み換えなければならない部分もあり、大変なことも多々あります。早いうちに気づけていたらもっとうまくやれたよなあ…と思うことも多々あるので、引き続き元研究者で苦労した点なども書いていきたいと思います。
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