
ひと続きのシュテルン=ゲルラッハの実験④
(3)数珠繋ぎのシュテルン=ゲルラッハの実験装置を通過したビームは壁にどんな模様を描くか。
前回の計算により、例えば加熱炉から出たビームが装置を通過して、$${z}$$軸に対し$${+\theta}$$と$${-\theta}$$方向の上下に50%ずつ2本に分かれたとして、それぞれのビームがちょうど真直ぐ入るように少し角度を傾けた(だけで中身は同じ作りの)装置を後方に置いておくと、2段目の装置を通過したビームは、例えば$${+\theta}$$で入射したビームの大部分は$${\theta+\theta=2\theta}$$の方向へ、残りのほんの少しだけが$${\theta-\theta=0}$$の方向へ飛んでゆくだろう。

初めの装置を通過した後で$${(+1)}$$の固有状態だった時、
$$
\begin{align*}
\sigma_1 | + \rangle =(+1)| +\rangle
\tag{77}
\end{align*}
$$
角度が$${\theta}$$傾いた2番目の装置に対しては、それは
$$
\begin{align*}
|+\rangle=
\begin{pmatrix}
\cos\frac{\theta}{2} \\[2pt]
\sin\frac{\theta}{2}
\end{pmatrix}
\tag{78}
\end{align*}
$$
という重ね合わせの状態なので、2番目の装置を通過後は角度$${2\theta}$$の方向に確率$${\cos^2(\theta/2)}$$、角度$${0}$$の方向に確率$${\sin^2(\theta/2)}$$で後方に飛んでゆくだろう。
では、その(微小な)角度を直角の$${1/90}$$、つまり1°として、つなげる装置を上の方に90個、下の方にも90個設置して、後方に壁を置いた時に、ビームの濃淡は角度によってどのように変化するだろうか?
定数$${\beta}$$を
$$
\begin{align*}
\beta = \sin^2 \left( \frac{\pi}{180} \right)=0.000304586
\tag{79}
\end{align*}
$$
と具体的に定義すると、初めに上の方に分かれた50%のうち、
0°の方向には、50%×$${\beta }$$=0.0015229%
1°の方向には、50%×$${(1-\beta)\beta}$$=0.0015225%
2°の方向には、50%×$${(1-\beta)^2 \beta}$$=0.0015220%
3°の方向には、50%×$${(1-\beta)^3 \beta}$$=0.0015215%
同様に、角度がk度の方向には、50%×$${(1-\beta)^k \beta}$$
89°の方向に、50%×$${(1-\beta)^{89} \beta}$$=0.0014822%
残りは91°の方向に、50%×$${(1-\beta)^{89}(1-\beta) }$$=48.6477737%
以上のように、それぞれの角度にビームは分かれて飛ぶだろう。
ほどんどが$${+90}$$°と$${-90}$$°の2方向のビームに分かれるが、その間の角度にも、広く薄く分布して漏れているのが面白い。