『ホラーが書けない』10.5話 四方山話(3)【Web小説】
第10.5話 足元を駆けぬけるモノの正体はあの妖怪!?
読者は「スネコスリ」って知ってるかな?
ホラーやオカルトにうとい俺はまったく知らなかったんだけど、スネコスリは日本の妖怪で、伝承だと岡山県にいるらしい。インターネットの情報によれば、犬のような見た目をしているとのことだ。
えっ?
「なんで唐突にスネコスリの話をしてるんだ?」って?
それは俺の友人が体験した出来事がスネコスリに似ていたからだよ。
前に「道を歩いてたら変な妖に会ったよ」と話してきたことがあった。体験談を聞いた当初はスネコスリを知らなくてさ、また恐ろしい体験をしているなで終わったんだ。
この奇譚もノートに書き留めていたんだけど忘れていた。でもつい先日、友人が妖怪『袖引き小僧』に会ったかもしれないという疑惑がでてきたから、妖怪のことを調べ始めたんだ。
インターネットを使って調べてみると驚いたよ。妖怪ってたくさんいるんだな。まったく知らない妖怪がどっさりでおもしろかったよ。んで、調べてる最中に『スネコスリ』を見つけたんだ。
スネコスリの概要を読んでいると既視感があってさ、それで奇譚ノートをさがしてみたら、やっぱり似たような体験談があった、という流れなんだ。
友人は遭遇した妖の姿を見ていない。だからスネコスリかどうかはわからないけど、今回はその妖のことを紹介するよ。
遭遇した妖がスネコスリだとしたら、岡山県のスネコスリとはちょっと違うと思うかも。
✿
東京都内で街路を歩いていたら、ナニカが足にからんできた。
ソレは右足のふくらはぎにふわっと触れたら、右足の前を通って股の間をくぐり、そのまま左足のふくらはぎに触れて去っていった。
(なんだ? 妙なやつと遭遇したぞ?)
足に触れたモノは猫ほどのサイズがあって動物のように思えた。ところが辺りを見回しても該当する生き物はいない。歩道に植え込みはなく、離れた位置に街路樹が立っているだけなので隠れる場所はない。
すでに妖と気づいているし、もうそこにはいないとわかっていても足元を見てみた。あるのは自分の足だけでやっぱり何もいなかった。
(ほ――ん。動物の霊体か?)
遭遇した妖は初めてのタイプだ。どんなやつだったのか分析してみる。
まず触れた位置から成猫ほどのサイズで、毛皮の感覚があったから動物に思えた。触れた瞬間は長毛の猫と思ったけど、冷静に思い出すと猫よりも胴体が長かった。胴の長さで考えると、鼬が思い浮かぶが大きさが合わない。
猫にせよ鼬にせよ、妖であることには変わりない。
あの大きさで歩いている人の足の間を、ぶつからずに通り抜ける俊敏な動物はいない。それに厚みがまるでなかった。もし生き物だったのなら物体があるはずだ。
街角で姿の見えないナニカとの交差。
たまたま交わったのか、それともかまってほしくてすり寄ったのか。なんのへんてつもない街路で遭遇した不思議な体験だった。
どうやら東京には、ふわふわな毛皮をもつ俊敏なナニカが生息しているらしい。
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