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『ホラーが書けない』 へんぺん。境界で怪はうごめく【Web小説】
『寝る直前に忍びよる怪異』
昼と夜が入れ替わる逢魔時
こちら側とあちら側をつなぐ橋
境界になるところでは
なにやら怪しげなコトが起きやすいという。
身近なところにある境目でも――
✿
眠りに落ちる直前――意識がぼんやりとしていて幸せな感覚に包まれようとしているときにソレはまぎれてくる。
(どこ…か……少しだけ離れた場所?
階下からテレビの音が聞こえているのか?
……いや、この響き方は電波の受信環境が悪いラジオに近い)
さっきから音が聴こえている。なにかに阻まれてはっきりと聞こえない、くぐもったような音だ。
とても眠たいから体を起こしてまで音源を確認したいとは思わないし、神経を集中させてまで聴きたいとも思わない。
ザッ…ジ――…ガッ…ザザッ…ジッ…ガッ……
ブッ ブツ ブツ ブッ ブツ ブッ
小さな音量で聴こえるノイズと、抑揚のある音はどちらも低音。抑揚のある音はヒトの声のようにも聴こえるが、入り交じっていて聞き取れない。
眠りたいのに耳に入ってきて癇に障る。聴こえている内容に関心はないけど、なんの音なのかは気になる。
(マンションのほかの部屋から音が聞こえているのか?
でもふだんは生活音なんて聞こえないけどな……)
確認したい気持ちはあるが眠気には勝てない。ゆっくりと意識が遠のいていきそうになるなか、耳だけはしっかりと音の正体をさぐろうとしている。意識が保てなくなる直前で気づいた。
(ああ、音はヒトの声だ……
だれかが……遠くで……
ぶつぶつと…話して…い……)
✿
怪異は用心しているときには発生しない
恐怖が薄れて忘れたころに突然やってくる――
✿
眠りに落ちる直前――意識がぼんやりとしていて幸せな感覚に包まれようとしているときにソレは鳴り響く。
ピョ! ピョ! ピョ! ピョ! ピョ!
(階下の……駐車場? それとも…隣家の…車?
どこでもいいから―― 早く音を止めろっ!)
あと少しで眠れそうだったのに防犯ブザーのような音が鳴り出した。突然のことに驚き、眠りを妨げられた。
しばらく経っても音はやまない。とても眠くて体が重いから、わざわざ起きてベランダへ出て確認する気にはなれない。ベッドの中でイラつきながら音が止まるのを待つ。
(これで三日連続じゃないか?)
自分が眠りにつきそうな瞬間から鳴り出した警報は、高音でかなり不快。深夜だからよりうるさく聴こえる。
(これは安眠妨害、近所迷惑だろう?
持ち主、早く音を解除してくれないか!?)
いらいらするけど睡魔には勝てない。音に怒りながら眠りに落ちていく。意識が途切れる前に疑問に思った。
(待てよ……?
自分が眠りそうなときに、いつも音が鳴り始めてないか?)
ピョ! ピヨッ! ピョ! ピョッ!
(そうか……連日警報が鳴っても……
住民から…怒声がないの…は……
ほかの…ひと…には……聞こえ…てな……い…のか……)
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片々(へんぺん):
きれぎれになっているさま。
紫桃のホラー小説『へんぺん。』シリーズより
壱 「電車内の強引なナンパにご注意」
弐 「登場するとき妖は工夫している」
参 「イタズラを仕掛けたのは誰?」
肆 「スマホを見てるときに現れたのは」
伍 「寺には親切な妖がいた」
陸 「丁字路で多発する事故」
漆 「木版に刻まれた謎の文字」
捌 「境界で怪はうごめく」
▼Web小説『ホラーが書けない』をまとめているマガジン