手紙

   
 君の誕生日の一番の思い出はなんだろう。欲しかったプレゼントをもらったりパーティーをしたり…
 これは、誕生日にまつわる一組の親子の話。
 
 一、息子
 
 カレンダーを眺めながら微笑む。僕は明日五歳になる。欲しかった車のおもちゃがようやく手に入るのだ。
「春人、早くお風呂入って寝なさい。」
そう言うのは母だ。
「はーい。」
そう言って風呂に向かった。
 最近はなかなか寝られなかったが今日はもう眠い。
 そして誕生日、いつものように保育園に行き、帰ってきて、夕食を食べた。いつもだったら電気が消えてお父さんがプレゼント、お母さんがホールケーキを持ってくる。でも、今日は違うみたい。お母さんは満面の笑みを浮かべ小さなショートケーキを差し出した。僕は戸惑った。そしてすぐに理解した。いつもとは違う。五歳の僕でもわかる。プレゼントはないんだ。食事の片付けをしてベッドに入る。
 涙が自然とこぼれた。。
 それから、僕は誕生日が楽しみではなくなった。毎年、夕飯の後に小さなショートケーキを二人で食べる。だんだん思春期に入って行った僕は母にお礼も、美味しいも言わなくなった。大好きなケーキ、美味しくないわけではなかった。でも、何かが違った。
 中学生になり、母は働く時間を増やした。僕が起きる時間にはもういない。その分、僕は友達と過ごすことが増えた。誕生日にも友達と過ごすことになった。そのことを母に伝えると
「そう、よかったね。いってらっしゃい」
 と言われた。
 どうせ、今年もいつものご飯と小さなショートケーキだけだ。友達と過ごした方が楽しいに決まってる。僕は友達とパーティーをして、お菓子を食べた。。プレゼントもたくさんもらった。正直家よりも楽しかった。夕方、家に帰り、部屋に入った。母はいろいろ聞いてきたが、楽しかった、とだけ伝えた。しばらくして母が話しかけてきた。
「お母さん、もう寝るね。夕ご飯と、プレゼントリビングに置いておくから。」
「うん。」
 ぶっきらぼうに返事をして少し違和感を覚えた。夕ご飯とプレゼント…プレゼント…そして、ケーキのことだと気がついた。あとでいいや。と思い、しばらく本を読んでいた。しばらくしてお腹が鳴った。よろよろと立ち上がって食卓に向かうといつものご飯とケーキの箱が置いてあった。その隣にには丁寧な字で書かれた手紙があった。
 
 春人へ
 いつも寂しい思いさせてごめんね。これはお母さんからのほんの少しの気持ちです。立派に育ってくれてありがとう。
 
 僕は用意されたものを食べ片付けた。ケーキの箱を開けて食べようとして違和感を感じた。やけに軽かったのだ。
 
 ベッドに入ると涙が自然と溢れた。
 
 二、母
 
 春人の両親は彼には少し前に離婚。母親の美代は毎日働いていたこともあり、春人と遊ぶ時間は減っていた。いつもは、なかなか寝付かない春人が今日はすんなり寝てくれてほっとした。
 春人の誕生日、いつものように保育園に預けて仕事に向かった。そして、帰る前にスーパーで特売だったショートケーキを二つ買った。保育園へ迎えに行きいつものようにご飯を食べた。そしてケーキを出した。
「お母さん、ありがとう!美味しい」
 そう言いながら食べる春人の顔は少し寂しそうに見えた。今までは三人でのパーティーだったのだからしょうがない。自分の収入だけではおもちゃもでさえもろくに買ってあげることができないのだ。それでも、春人が喜んでくれてよかった。
 春人が中学生になり、一人で留守番できるだろうと働く時間を増やした。今年の誕生日にはどうしても買ってあげたいものがあったのだ。誕生日の日の朝、春人は
「今日は友達と遊んで帰ってくるから。」
と言った。きっと、友達が誕生日会をしてくれるのだろう。嬉しかった。春人に優しい友人がいるのだろう。春人は帰ってきた後、部屋に入ってしまった。なかなか出てこない。本当ならば直接渡したかったがしょうがない。プレゼントにちょっとした仕掛けをして置き手紙を隣に置きベッドにはいった。きっと、春人は喜んでくれるだろう。
 
 三、親子
 
 美代が起きると食卓に手紙が置いてあった。
 
 お母さん、プレゼントありがとう。
 いつも迷惑かけてごめんなさい。
 大切に使います。
 PS、手紙交換しませんか。
 
 それからと言うもの美代と春人は毎日置き手紙交換をするようになった。話すことは減ったが書くことは増えていった。
 春人は大学生になった。流石に置き手紙は書かなくなった。そして美代も春人が飲み会などでいない日には、夕飯を食べなくなった。このように、だんだんと生活も変わっていった。春人が二十歳になる誕生日。美代は何をするか迷っていた。欲しいものは自分で買えるだろう。そんなことを考えながら朝ごはんをつくりに向かうと、食卓に置き手紙があった。
 
 お母さんへ
 手紙、久しぶりだね。
 今日は友達とごはんに行くので
 夕飯はいりません。
 帰りは遅くなります。
 
 それならと思い、仕事をいつもより長くして帰った。帰ると、春人の靴があった。急いで部屋に入り何があったのか聞こうとした。すると春人は笑って言った。
「ごはん会は嘘だよ。お母さんのために友達に教えてもらって作ったの。」
 そこには豪華なごはんと不格好なケーキが置いてあった。一緒にタ飯を食べ一緒に片付けた。春人は、寝る前に手紙を書いた。
 
 母さんへ
 あの日のプレゼントはとても嬉しかった
 ケーキの箱にスマホを入れるなんて
 よく思いついたね
 でも、メールだけじゃなくて
 手紙もよかったでしょ
 俺にとって、あの日は最高の日だよ
 母さんにとって
 今日が最高の日になってくれたら嬉しい
 いつも、ありがとう
 母さんの息子に生まれてよかった
 
 春人より
 

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