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[振り返り]8月の仮想通貨市場:マーケット概観、The Merge、Tornado制裁、ペンギンNFT
マーケット概観
仮想通貨市場の時価総額は、8月29日に7月16日以来初めて1兆ドルを下回り、過去6週間積み上げてきた利益が帳消しになりました。6月末の底以降、市場は緩やかな回復を見せていましたが、8月末のジャクソンホール会議にてFRBのパウエル議長がインフレ抑制へ強い姿勢を表し、ハト派的な金融政策への希望を打ち砕いたことで、株式市場と連動する形で今回の大幅下落は始まったのだと考えられます。
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BTC価格は7月14日以来初めて20,000ドルを割り込みました。これは、2週間前の8月15日に記録した直近最高値である25,000ドルからちょうど20%下落したことを意味します。
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ETHの急落はBTC に比べてやや激しく、最近の最高値約2,000ドルから25%近く下落しており、現在は1,500ドル近辺で取引されています。しかし、6月中旬の~900ドルの底値と比較すると、まだ60%以上も上昇していることになります。
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マクロ経済による向かい風を差し置いても、8月の仮想通貨市場は目立った良いニュースは少なく、むしろネガティブな事件が目立っていたといえます。12日のEthereum Goerliテストネットマージ成功を除くと、8月は以下のような出来事がありました。
3AC, Celsius, Voyagerなどの破綻/デフォルト問題の進展
Goerliマージ以降、市場の取引高は大幅に減少しています。8月29日には出来高が500億ドルを割り込んだことさえあり、ここまでの取引高縮小が最後に起きたのは2022年6月5日、その前は2020年11月16日だけです。
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ETH先物の資金調達率は現在、全ての先物取引所で~0.02とマイナスになっています。CryptoQuantのアナリストMaartun氏によると、前回ここまで低くなったのは14ヶ月前だといいます。資金調達率がマイナスになるとはつまり、ショートがロングに支払いをすることで契約の継続させているということです(つまり、市場ではロングよりもショートの方が多くなります)。
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これには2つの説が考えられます。1つは、明らかにトレーダーがETH価格の見通しに弱気になっていることを意味します。そして2つ目は、ETHトレーダーがマージを前にデルタニュートラル戦略を行なっている、つまり現物をロングして先物でヘッジしているという可能性です。どちらにせよ、ショートスクイーズ発生の確率が高まっていると考えられます。
The Merge及びETH PoWの進展
CoinGecko JapanのNote及びCoinGecko Premiumではこれまでも、The Merge及びETH PoWに関する記事を逐一公開してきましたが、The Mergeが直近に迫っているということで、本記事では更なる最新情報について詳細に解説します。
The Merge
8月24日、Ethereum FoundationはThe Mergeに関する新しいブログ記事を公開しました。主な要旨は以下の通りです。
・The Mergeはコンセンサスレイヤー及びエグゼキューションレイヤー両方のクライアントをアップデートすることで完了する
・コンセンサスレイヤー及びエグゼキューションレイヤーのアップグレードは、それぞれBellatrix、Parisと呼ばれる
・9月6日に実装されるBellatrixアップグレードにより、まずBeacon Chain上でThe Mergeがアクティベートされる
・9月10-20日にParisアップグレードにより、エグゼキューションレイヤーを含めたPoWからPoSへの完全移行が完了する
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The Mergeが完了しPoSへ移行すると、エネルギー消費量が99.95%、ETHの新規発行量は約90%減少し、ガス代が7gweiを上回る状況下においてはデフレ通貨になります。この2つは、エネルギー消費量の高いかつインフレ通貨であるBTCに対する大きなアドバンテージになると考えられています。
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ETH PoW
ETHPoWは8月26日に、Icebergと呼ばれる最初のテストネットをローンチしました。エクスプローラーやRPCサーバーなども開発済みであり、現在同チェーンをサポートするパートナー(取引所やマイニングプール、ウォレット、ブリッジ、開発者など)を募集しているといいます。
ETHW 1st Testnet "Iceberg" Released!
— EthereumPoW (ETHW) Official #ETHW #ETHPoW (@EthereumPoW) August 26, 2022
Along with it come the blockchain explorer and RPC servers. We welcome all potential partners in the community (exchanges, pools, wallet providers, bridges, builders and etc.) to join us to build a real PoW-powered Ethereum ecosystem.
1/n pic.twitter.com/jtAFRNH9i0
ETHPoWのIOUトークンは、現在以下の取引所で取引可能で、おおよそ50ドル前後の価格をつけています。日本国内の取引所は、そのほとんどがETHWのサポートに関しては未定で、フォーク後の状況に応じてETHWの付与に関して検討を行うという姿勢を表明しています。
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Tornado Cash制裁
8月8日、米国財務省OFACは、Ethereum上のミキシング・プロトコル「Tornado Cash」に対する制裁措置を発表しました。Tornado Cashは元来、ユーザーの金融プライバシーを向上するために作られたサービスです。しかし本制裁は、Tornado Cashがサイバー犯罪及びマネーロンダリングを支援し、国家安全保障への脅威となっていることを理由に実施されました。
OFACは"国家安全保障への脅威"の例として、北朝鮮に支援を受ける国際サイバー犯罪組織であり、2019年に米国制裁対象となったLazarus Groupの事例を引き合いに出しています。同組織は、これまでTornadoを利用して455万ドル以上の資金洗浄を行ったとされ、Axie Infinityが提供しているRonin Bridgeの600万ドル規模のハッキングにも関与したと考えられています。
Tornado Cashがマネーロンダリング目的で利用されているというのは周知の事実です。直近2~3年でDeFiの流出事件が急増しているのと相関して、ハッカーによる資金洗浄用途でのTornado Cash利用も増加しきたと考えるのが自然でしょう。Chainalysisの推計によれば、Tornado Cashがこれまで受け取った資金のうち、10.5%がDeFiハックなどを通じて盗まれたもので、17.7%が(Lazarus含む)制裁対象アドレスから送られてきているといいます。
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OFACはTornadoが約70億ドル以上の資金洗浄をサポートしたと記述していますが、この数はTornadoにこれまで送られてきた累計のデポジット資産価値と一致します。ただし、Tornado Cashは何もハッカーや犯罪者だけではなく、寄付や開発に際するプライバシー向上の手段として、善意のユーザーや開発者にも利用されてきたという点です。
制裁の実態とその影響
さて、制裁措置発表以降、Tornado Cashのウェブサイトはアクセスができない状態で、またInfura及びAlchemyからのRPC提供が停止されたため、アプリを通したサービス利用は当然不可能です。そして、Tornado Cash及びそのコントリビューターのGithubアカウントは停止されています。
My @GitHub account was just suspended 🤷
— Roman Semenov 🌪️ (@semenov_roman_) August 8, 2022
Is writing an open source code illegal now?
OFACによれば、実質的な制裁措置はTornadoの開発元の企業/人などに対してではなく、前例のない形ではありますがTornadoのスマートコントラクト自体に対し行われたといいます。具体的には、米国人によるTornado Cashの利用は禁止となり、さらにTornadoのスマートコントラクトに関連した45のEthereumアドレスがSDNリスト(≒制裁対象リスト)に追加されました。
以上の発表を受け、USDCを発行するCircle社は、上記アドレスに紐づく合計7万5,000ドル分のUSDCを凍結(ブラックリスト化)しました。また続いて、いくつかのDeFiサービス(Aave, Uniswap, Oasis, Balancerなど)が、TRM LabsのAPIを用いてフロントエンド上で制裁対象アドレスを検知しウェブサイトの利用を制限する処置を取り始めました。
ここで注意すべきは、フロントエンド経由のブロックは、プロトコルレベルでの検閲を意味しない点です。以上のDeFiプロジェクトは、フロントエンドをホストする米国法人を持っており、OFAC制裁に準拠する必要があります。厳密には、別のアプリから又はフロントエンドをローカルでホストすれば利用制限は回避できるため、本質的なDeFiの検閲耐性が失われた訳ではないという点は理解しておくべきでしょう。
ただし結果として、Tornado CashにデポジットされているETHの数は約20万から約10万へと約1/2の大幅減少を見せました。サービス継続ないし今後の成長は困難だと判断されたのか、ガバナンストークンであるTORNは約30ドルから15ドル付近まで急落し、現在は10ドルを割って取引されています。
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さらに、今回の一連の制裁騒動の中で最もコミュニティを震撼させたのは、アムステルダム在住のTornado Cash開発者のAlexey Pertsev氏が、8月12日に突然逮捕されたことです。すでに逮捕から1ヶ月が経とうとしていますが、未だ彼が釈放された様子はありません。
ステーブルコインと検閲耐性
さて、今回の発表を受け主要なステーブルコイン事業者間で対応に関して大きな違いが見られました。驚くべきは、Circle社のアクションとは対照的に、USDT発行主体のTether社は未だTornado Cashへの制裁を実行に移していない点です。
一見その独立的姿勢に好印象を受けますが、同社のブログによれば、その理由は単に当局からまだ正式なリクエストが来ていないからだといいます。つまり今後要請があり次第、制裁を実行に移す可能性は十分にあるということです。実際、Tether社はこれまで制裁には全て準拠しており、USDTのブラックリストアドレスの数はUSDCのそれ以上です。
また、DAI発行主体のMakerDAOも、コミュニティ内で規制リスク及び検閲耐性に関する議論が白熱しています。最も顕著だったのは、創業者のRune Christensen氏が言及したUSDC担保の除外と米ドルからのデペッグに関する議論です。
背景として、現在のDAIは担保資産の約35%以上(執筆時点:330億ドル)がUSDCで占められており、かつPSM(Peg Stability Module)を通してUSDCがDAIの1ドルペッグを強く支えているという事実があります。今回の事件によって、"仮に何らかの理由でUSDC(ないし検閲リスクのあるその他の担保資産)を抱えるMakerのアドレスが凍結されたら"という非現実的だと思えていた懸念が、一気に現実味を帯びることとなりました。
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もし仮にPSM USDCが凍結された場合、DAIはすぐさま担保割れするためそのダメージの規模は計り知れません。そのため、Rune氏はUSDCをシステムから除外し、変動通貨へ移行する可能性について真剣に考え始めるべきだと主張し始めました。一時はMakerが35億ドルの担保USDCを一度にETHへと変換するのではという過激な噂も流れましたが、同氏はその可能性を否定し、実際には規制動向とそのリスクを鑑みながら、ドルコスト平均法で徐々にETHへと転換する方が望ましいと述べています。
さて、検閲・規制リスクの観点で、DAIより優れているステーブルコインも存在します。LiquityのLUSDは、担保資産はETHのみでさらに改変不可のスマートコントラクトで管理されている、現状最も検閲耐性のあるステーブルコインだといえます。MAIの発行主体であるQiDAOも、Makerと同様に様々な担保資産を受け入れていますが、中央集権的ステーブルコインのリスクを限りなく減らしたモデルを採用しています(ごく僅か、DAI/3CRV担保を通してUSDT/USDCへのエクスポージャーを持つ)。
一方、RAIは純粋なクリプト・ネイティブの道を選び、ETHを担保にしていますが、そもそも法定通貨にはペッグされていません。 ただし上記3つのオルタナティブがDAIと比較して著しく不安定であることは明らかで、ボラティリティは頻繁に±2%(又はそれ以上)を超えています。
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NFTの冬はPenguinsの季節
OpenSeaは未だ高い優位を保ち続けています。X2Y2の取引高はOpenSeaの約16%程度に過ぎず、Looksrareはトップ5から脱落し7番手にまで後退しました。しかし、FlowのネイティブNFTプラットフォームであるBloctoBayという新たな競合が台頭してきています。
Flowはこれまで、NBA Top ShotやUFC Strikeといったコレクター向けスポーツNFTを筆頭にした専用マーケットプレイスを展開するチェーンでしたが、一般的マーケットプレイスであるBloctoBayは、より幅広く快適なNFT探索を可能にし、Top Shotの販売高の7倍の二次販売を記録しています。
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BloctoBayの8月の取引高は約350%成長し4位に浮上してきている一方、MagicEdenは3位で踏ん張りを見せているものの、Solanaエコシステム上のSlope wallet流出事件の煽りを受けたか、取引高は-12.78%で勢いを失っています。
8月のNFTフロア価格は、仮想通貨市場の下落トレンドに逆らうことはできず、緩やかな下降線を辿りました。特筆すべきニュースといえば、月末にCryptoPunksのフロア価格がBAYCを一瞬だけ抜いたことです。冬相場が継続する場合、本格的なFlippening(反転)が生じる可能性もあるでしょう。
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そんな中、7月後半以降から8月現在にかけてのNFTの希望の光は、Pudgy Penguinsと呼ばれるEthereumのコレクションで、弱気の潮流に直面しながらも何とか復活を遂げました。
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Pudgyのフロア価格は1ヶ月の間に+74%も上昇しました。これはひとえに、以下に述べられている最近の一連の強気ニュースのおかげです。
Non-Fungible Filmsと提携し、伝説と宇宙のナラティブを形成。
子供向け書籍のパートナーシップ締結
Pudgy Toysのラインナップ発表
Pudgy Marketplace(パディーマーケットプレイス)の開設
Alex Svanevik (Nansen CEO)やJordan Sterling (Meta Venture Capital パートナーシップチームリード ) などの新しいアドバイザー陣を発表
以上はPudgyがテイクオフには十分すぎるほどの材料です。実際、最も希少で唯一の左向きのPudgy Penguinは、今週月曜日に400ETH(630,780ドル)という驚異的な価格で販売されたばかりです。派生プロジェクトであるLil Pudgys(フロア価格74%増)とPudgy Rods(フロア価格39%増)も同様にブームに乗っています。
Penguin 6873 bought for 400ETH ($630780.00) by 0x304A97 from 0x4C4A54 https://t.co/uQYXSrPofX
— Pudgy Penguin Sales Bot (@pudgypenguinbot) August 22, 2022
お知らせ
新機能のお知らせです。Coingeckoウェブサイトの各コインページ(現状100銘柄)に新しくTokenomicsタブが追加されました。 トークン分配、供給スケジュール、ロックアップ期間、仕組みなどのデータおよび分析を提供します。
🎉NEW FEATURE ALERT 🎉
— CoinGecko (@coingecko) August 15, 2022
1/ The journey to becoming a crypto degen ain’t easy, so we’ve introduced our new #Tokenomics tab!
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