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時価総額10兆円のビジネスモデル【1】コインベースのIPOが意味するもの

 コインベースは3月にも、仮想通貨・ブロックチェーン専業の企業として初めて、米ナスダック株式市場へ直接上場(ダイレクトリスティング)する見通しです。これにはどんな意味があるのでしょうか。

 インターネット上で価値を移転する手段であるビットコインは、"デジタルゴールド(※1)"と呼ばれています。非中央集権型の決済手段のため、法定通貨を司る国・政府とは当然相性が悪く、またテロ資金などアングラマネーのマネーロンダリングなどに利用されるといった課題もありました。

 しかし、米国では新型コロナ問題や低金利・財政出動によって法定通貨が減価したとして20年春頃からZ世代(※2)、ファミリーオフィス等中心にこの”非中央集権型資産”のビットコインを買い求める動きが広がっています。コインベースのIPOはこの仮想通貨・ブロックチェーン業が表舞台に立つことを意味し、機関投資家の参入、デジタルアセットの利用拡大など一層の社会適用が広がることが期待されています。

 コインベースは元エアビーアンドビーのエンジニアだったBrian Armstrongが11年に設立しました。Brianが米SECへの開示資料(S-1)に添付したレターには「コインベースは、すべての人とビジネスに経済的な自由を創造する、との野心的なビジョンを掲げている企業です。もし世界経済が、どの企業や国にも操作されない共通の基準に基づいて運営されていたら、世界はより公平で自由な場所になり、人類の進歩は加速するでしょう。私は2010年に初めてビットコインのホワイトペーパーを読んだとき、このコンピューター・サイエンスの画期的な進歩が、この未来のビジョンを解き放つ鍵になるかもしれないと気づきました」との思いを記しています。シリコンバレーに多い”テック×ヒッピー・カルチャー”を背景に持つ上場企業がもう一つ誕生するとも言え、ビットコインなどを売買する若い世代の共感を呼びそうです。

 初期サービスのローンチ後、12年に元ゴールドマン・サックスのFred Ehrsamが加わり、デジタルアセットの金融総合サービスの形を整えてきました。今やCoinbaseやCoinbaseProといった仮想通貨取引プラットフォームから、ウォレット、機関投資家向けのカストディサービス(デジタルアセットの保管・管理)まで幅広く手掛けています。その実態はこれまで謎に包まれていましたが、上場企業となることで今後公開情報が増え、ビジネスモデルやプロダクト毎の業績、顧客動向などが明らかになることが期待されています。ビジネスチャンスが見て取れれば、仮想通貨市場の機関化(機関投資家の参入)も加速するでしょう。

    課題は多いと思います。まず、何といっても業績が仮想通貨市況に大きく左右されるということ。今やコインベースのプラットフォームには、100カ国以上の約4,300万人の個人投資家、7,000の機関投資家、115,000のエコシステムパートナー(カストディなど各種サービスの利用者)が参加しています。ただ、仮想通貨には法定通貨や株式と違って裏付けとなる国の経済状態(税収)、企業の業績(配当)といったものがなく、価格は大きく変動しがちです。コインベースの売上の9割超は取引手数料。いったん下落基調に転じ、運用成績が悪化すると、個人投資家等は大きな損失を抱えることになり、コインベースも途端に業績が悪化する可能性があります。

 さて、時価総額はいくらになるのでしょうか。米専門メディア、コインデスクは2月21日、ナスダックプライベート市場で一株303㌦(時価総額770億㌦、1㌦105円換算で約8兆円)で取引されたと報じています。前評判では上場後の時価総額は1000億㌦との声もあるようです。これは既存の大手取引所CMEグループ(720億㌦)やICE(620億㌦、傘下に仮想通貨先物取引所bakktを持つ)を大幅に上回ります。日本だとネット証券やFX取引所と比較されそうですが、ちょっと目線が違うようです。未上場株取引のため流動性が低く高値が付いた可能性もありますが、これを割り引いても評価額100億㌦を超える「デカコーン企業」になるのは間違いないとみられています。


※1.Goldman Sachsのコモディティ・アナリストは2016年ごろの調査リポートで”Crypto Commodity”と呼んでいたことがあります

※2.GenZ、1996年から2012年に生まれた世代で米総消費の40%を占めます。開示資料(S-1)には「私たちの目標は、世界約35億人のスマートフォンを持つすべての人に、仮想通貨ベースの金融サービスを提供することです」との考えを示しています。


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