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時価総額10兆円のビジネスモデル【4】コインベース創業者からの手紙

 コインベースの創業者・CEOのBrian ArmstrongのS-1に添付した投資家向けレターが秀逸です。クリプトエコノミーの実現により、世界の経済的自由を実現するとの考えを改めて強調しています。まだまだ世間に馴染みのない言葉や考え方が頻出しますが、コインベースの上場をきっかけにこの世界観が広く受け止められるようになり、近い将来クリプトエコノミー内の様々なサービス(コンセプト)が当たり前のものになるかもしれません。以下、全文翻訳してみました。

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経済的自由(Economic Freedom)

 コインベースは、すべての人とビジネスに経済的な自由を創造する、との野心的なビジョンを掲げている企業です。誰もが、自身や家族のより良い生活を実現することができる金融サービスを利用する権利がありますが、今日このビジョンからは程遠い状況にあります。
 現在の金融システムは、高額な手数料、遅延、不平等なアクセス、イノベーションに対する障壁であふれています。多くの国で市民は、健全な資金、機能する信用システム、基本的な財産権にアクセスできていません。もし世界経済が、どの企業や国にも操作されない共通の基準に基づいて運営されていたら、世界はより公平で自由な場所になり、人類の進歩は加速するでしょう。
 私は2010年に初めてビットコインのホワイトペーパーを読んだとき、このコンピューター・サイエンスの画期的な進歩が、未来のビジョンを解き放つ鍵になるかもしれないと思いました。すべての支払いは、電子メールを送信するのと同じくらい速く、安く、グローバルなものになるかもしれません。仮想通貨は、誰にでも経済的自由の核心(core tenets、財産権、健全なマネー、自由貿易、 経済的自由、彼らが望む方法・場所で働く能力)を提供することができます。十分ではないにしても、人間の進歩のために必要な条件です。経済的自由度が高い社会は、平均寿命が長く、GDPの成長率が高く、戦争や汚職が少なく、環境に注意を払い、社会の最貧困層の10%の人々の所得が高いといえます。経済的自由度が高いことは、私たちが目指す社会のあり方と相関関係があります。コインベースでの我々の仕事は、このような未来を現実のものにすることにあります。

クリプトエコノミー(The Cryptoeconomy)

 ビットコインから始まったことが、数え切れないほどの異なるブロックチェーンやトークンを持つ業界を生み出しました。現在では、ステーブルコイン(法定通貨リンク・コイン)、プライバシーコイン(匿名コイン)、セキュリティトークン(ブロックチェーン上の証券化商品)、リワードトークン(トークンエコノミーを回すための報酬が与えられるトークン)、ガバナンストークン(分散型プロトコルの運営について、ユーザーをはじめとする関係者が投票するためのトークン)、スマートコントラクトなどがあります。私たちは、クリプトエコノミーと呼ばれる新しい経済の中で、あらゆる種類の価値のデジタル化を見ています。
 取引や投機は、インターネットの初期に人々が急いでドメイン名を購入したように、仮想通貨では最初の主要なユースケースでした。しかし、私たちは今、仮想通貨がもっと重要なものに進化しているのを見ています。人々は仮想通貨を使って、稼いだり、使ったり、貯めたり、投資したり、借りたり、貸したり、投票したり、他の多くの種類の経済活動を行っています。企業は資金を調達し、初期の顧客を獲得し、最終的には株式を公開しますが、これらはすべてブロックチェーン上で行われます。クリプトエコノミーはまだ始まったばかりです。それは伝統的な経済を置き換えることを意図したものではなく、電子メールと紙の郵便物のように、それを補完するものです。クリプトエコノミーは、従来の経済に代わる、よりグローバルで、自由で、公正な代替手段をインターネット上で提供します。

安全で信頼され、使いやすいプラットフォーム

 コインベースは、クリプトエコノミーを支えるインフラを構築し、この新しいテクノロジーの恩恵を世界にもたらす手助けをしています。今日では、コインベースのプロダクトは、安全で使いやすいプラットフォームとして、仮想通貨の売買、保管、貯蓄、利用などができると考えているかもしれません。しかし、多くの顧客は、単にコインベースをクリプトエコノミーにおける主要な金融口座(Primary financial account)と捉えています。コインベースは、この金融口座に接続する様々なプロダクトやサービスのポートフォリオを構築しており、サードパーティのプロダクトやサービスも同様に接続できるようにしています。私たちは、すべてのプロダクトやサービスを業界で最も信頼され、使いやすいものにすることを目指しています。
 お金を貯める上で、信頼は非常に重要です。初期の頃から、私たちはコンプライアンスに焦点をあて、規制当局に教育資源になるよう積極的に働きかけ、必要とされる前からライセンス(ビットライセンスなど)を追求することを決めていました。サイバーセキュリティに多大な投資を行い、斬新な(ウォレットの)鍵保管メカニズムを構築し、(ハッキング被害に備えて)サイバー犯罪保険にも加入しました。私たちは、顧客自身が仮想通貨を安全に保管する方法も開発しました。何よりも重要なのは、近道をせず、手っ取り早く儲けようとしない文化を築いたことです。
 使い勝手の良さは、私たちがフォーカスするもう一つの重点分野です。仮想通貨は、一般の人にとってはまだ使いにくいものです。人々がTCP/IPがどのように動作するかを理解せずにインターネットにアクセスしたり、電気がどのように動作するかを理解せずにスイッチをオンにすることができるのと同じように、根本的な複雑さを理解しないでも仮想通貨を使用することができるようにする必要があります。私たちは、プロダクトをシンプルにする方法を継続的して探し出し、使いやすさを向上させ業界の新しい標準を推進することで、これを達成していきます。
 信頼と使いやすさを追い求めることに関しては、10年後も終わらないでしょう。私たちは常に最速で動いたり、最低価格を提供したりするわけではないかもしれませんが、最も信頼され、最も使いやすいという目標を達成すれば、顧客は今も将来も私たちの製品やサービスを選び続けることでしょう。

長期的な視点での構築(Building for the Long Term)

 この業界はまだ黎明期であり、コインベースは常に長期的な視点を持っています。私たちは、顧客に最高の仮想通貨体験(the best crypto experience)を提供することに真正面から取り組んでいます。今日、私たちは成長への投資を行っていますが、それは私たちのビジネスモデルの可能性を達成するためには規模の大きさが重要だと考えているからです。
 仮想通貨業界の価格サイクルを考えると、コインベースの財務状況は変動することが予想されます。常に長期的な視点で仮想通貨に関する業務に取り組んできたので、この点は心配していません。収益が高いときには利益を得ることができ、収益が低いときには損失を被ることがありますが、私たちの目標は、当面の間、損益分岐点(ブレークイーブン)のあたりで会社を運営することです。私たちは、自身の使命を信じ、価格サイクルを理解して保持する長期投資家を探しています。
 私たちの目標は、効率的な資本配分でプロダクトやサービスのポートフォリオを構築し、イノベーションを実証することです。これまでにも、初期のプロダクトやサービスから利益を得て、将来のビジョンを加速させるために役立つと信じている新プロダクトやサービスに再投資してきました。今後も、市場でリーダーシップを獲得できる可能性が十分にあると判断した場合には、新プロダクトやサービスへの投資を継続していきます。これらの投資の中には、成果が出るものもあれば、出ないものもあります。私たちは、プロダクトやサービス、および投資の効果を分析的に測定し、期待されるリターンが得られないプロダクトやサービスは停止します。私たちは、成功や失敗から学び、その学びを将来の意思決定に役立てます。このような視点を持つことで、この業界の本格的な展開を目の当たりにしたときに、長期的にはより収益性の高いものになることを願っています。

ありがとうございました。
ブライアン・アームストロング
コインベースCEO

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