プロローグ 旅の途で/露店の店主から
がらがらと車輪を転がし、少女は歩きます。
小さな体の倍はありそうな棺桶を後ろに連れて、木の車輪をがたがたと鳴らしながら、少女は歩きます。
くりっとした大きな銀色の瞳を真っ直ぐ前に向け、歩きにくそうなドレスの裾を引きずって、少女は歩きます。
毛先の跳ねた長い金色の髪を揺らし、手にはしっかりと棺桶を引くための紐を握り締め、少女は歩きます。
行く先々の町で、少女は好奇の目に晒されました。
しかし、少女はそんなものは気にしません。ただ前を向き、ひたすらに歩きます。棺桶を後ろに連れて。
あるとき、ある街で、少女に声をかける者がいました。
「やぁ、嬢ちゃん。車輪が付いた棺桶だなんて、面白いもんを持ってるねぇ」
少女は歩くのをやめ、声のした方へ顔を向けました。
「ちょっと寄っていきなよ。美味しいよ」
露店の主が手招きしています。露店には子供が好きそうなお菓子がたくさん並んでいました。
ぱちぱちと瞬きをした少女は、手招かれるままに露店へ近寄っていきました。
「お嬢ちゃん。何だって、そんな棺桶連れて歩いてるんだい?」
並べられたお菓子を眺める少女に、店主は尋ねます。
少女はお菓子に目を落として答えました。
「秘密よ」
店主は笑いました。
「あっはっは。そうかい。秘密かい。じゃあ、その棺桶には何が入ってるんだい?」
顔を上げた少女は、店主を見つめて言いました。
「棺桶に入るのは、ヒトに決まってるじゃない」
店主は笑いました。
「あっはっは。そりゃそうだ。違いない」
笑う店主にコインを突き出し、棒付きキャンディを指差して、少女は言います。
「これを頂戴」
「あいよ」
キャンディで頬を膨らませ、少女はまた歩き出しました。