徹底した子育て支援はリッチな都市でしか実現できない?明石市長が覆した政治家の常識
今自分の中で最高にイケてるまちのひとつ、兵庫県明石市。
関西に馴染みのない人はピンとこないかもしれませんが、兵庫県の南に位置していて、淡路島のすぐ北。なんとあの源氏物語の舞台でもある歴史あるまちです。
なにがイケてるって、一般的には「票にならない」と言われている子育て支援(※)を街づくりの核にして次々と独自の施策を打ち出し、そして見事に子育て世帯をまちに集めて人口を右肩上がりで増加させているところ。合計特殊出生率も回復しています!
それは、2011年に泉房穂氏が市長に就任してからのことです。実際に人口推移をみてみると就任前後でその効果は一目瞭然ですね。
もちろん、人口増に合わせて税収も増えています。
そこにシビれる!あこがれるゥ!
※ 子どもには投票権がなく子育て世代は高齢者層と比べて投票にいかないので子育て支援策を頑張っても票につながらない、と一般的に言われている
先日、そんな明石市の大改革を断行中の泉市長から光栄にも直接お話を伺う機会がありました。その中で泉市長が繰り返していたフレーズは「明石市でやれていることが、他でできないわけないんです!」でした。
ということで、今回のエントリーでは明石市が取り組んでいることが本当に他の市区町村でもやれることなのか、考えてみました。
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明石市はそもそもどんな取り組みをしているの?
本題に入るまえに、まず明石市が実際に行っている子ども支援の取り組みについてざっとみてみましょう!
まず最近話題なのが児童虐待対策です。こちらについてはボス(駒崎さん)がブログにまとめてくださってますので、是非ご覧ください!
今回私が聞かせて頂いた泉市長のお話もこの児童虐待対策がメインでした。
ブログの中にもありますが、中核市では他にほとんど事例がない児童相談所の設置(都道府県、政令市は児相の設置が義務付けられているが、特別区や中核市は努力義務規定があるのみ)にとどまらず、
その児童相談所には国基準の2倍超の児童福祉司を配置。
同時に、常勤弁護士を含む専門スタッフの確保、育成環境を整えています。
予算がかかることだけではなく、市職員に子どもを会わせない保護者には児童手当を振込から現金支給に切り替え窓口等で直接受け渡しをする等、知恵を絞った工夫もたくさんみられます。
(これは今すぐ日本全国の自治体でやれるよねっ!やらない理由はないよね!?)
児童虐待対策の他にも、様々な先進的な施策を実施されています。本当はひとつひとつ細かくその必要性と先進性を記載していきたいのですがそれをやるととんでもない文章量になってしまうので泣く泣く箇条書きでいきます!
● 中学生までの医療費無料(所得制限なし)
● 第二子以降の保育料無料(所得制限なし)
● 市営施設の子どもの利用料無料(所得制限なし)
● 全国初の里親休暇の導入(明石市は親元で暮らせない市内の未就学児の里親委託率100%を目指している。なお、国の努力目標は75%)
● 離婚したひとり親世帯に養育費確保の支援事業(調停などの法的手続き支援等)
● 児童扶養手当の毎月支給(国の制度では年3回のまとめ支給となっている← これがそもそも「は?」って思うけど)
● 無戸籍の子の支援(親が出生届を出さなかった子どものこと。2015年に全国で確認されているだけで639人。兵庫県で31人。明石市では4人)
● 犯罪被害者への賠償金建て替え制度
● 小学校区全てに「子ども食堂」を開設(予定)
こんな「子どもファースト」な施策を矢継ぎ早に行った結果、子育て世帯が増えすぎて待機児童が増えてしまうという問題が発生しました…!なんと2016年、2017年で関西ワースト1位。そこで下記の対策を行っています。
● 認可保育園の定員を1,000人規模で毎年拡大中
● 新たに明石市で働く保育士には最大30万円の一時金支給
● 保育士の家賃や給料の補助
● 認可外保育所の利用者に2万円/月の助成
● 待機児童を在宅で育てる世帯に1万円/月の助成
…等々。
明石市が取り組む子育て支援施策を一部ご紹介しました。すごいですよね。正直、子育て世代としてはこんなまちが首都圏にあるなら引っ越したいです。
いや、絶対に引っ越すだろうなぁ。
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率直な疑問。なんでこんなことできるの?
って、私はすぐに思いました。だって、先に箇条書きで書いた施策って絶対に全部やった方がいいじゃないですか。でも、それが日本の都市の殆どでやれてないわけです。ということは何か理由があるはず。
何かっていうか、まず思いつくのはお金ですよね。
明石市ってきっと日本でも屈指のお金持ちシティなんだろうなぁ。
と、思ったら
まったくそんなことはないのです。参考として、平成30年の歳入(一般会計)をチェックしてみました。
人口が同規模(約30万人)のまちと比べると… うーん、びっくりするほど普通ですね。いや、むしろ少ない。
じゃ、じゃああれか!
びっくりするほど奇跡的に、市議会議員の皆様が泉市長の方針に賛同してくれた、とか…?
これもそんなわけはなくて、泉市長就任当初、子ども支援を軸にした予算案に市議会議員総勢30名全員が100%反対し、市長に猛省を促すことで一致したらしいです(苦笑
では、いったいどうしてこんなことができたのか?
お金があるわけでもない。議員の賛同が得られているわけでもない。いったいどうやって…?
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泉市長 「金がないという思い込みは間違いでした。金はある。別のところにあるだけ」
その答えを端的にいうと、泉市長の覚悟でした。
どこの自治体でも予算に余裕のあるところなど絶対にありません。そして何か新しい予算をつけるということは、別のところから予算を持ってくるしかない。
しかし、別のところに予算を使っているということはすなわち、そのお金で助かっている人や得をしている人がいるわけで、100%抵抗にあいます。
泉市長もその例外ではなく、最初はまったくうまく行かなかったそうです。
下記、朝日新聞の泉市長のインタビュー記事(2017年12月6日)がその点を書いてくれています。
市長になった当初は、高齢者から子どもに予算を回そうと考え、地域に出向いては高齢者に訴えかけました。(中略)甘かった。総スカンでした。高齢者も将来不安で余裕がなく、公の無駄の削減から始めなければ理解は得られない、と気づきました。市役所の組織再編などで職員の数を1割、200人減らすことにし、給与も一律4%減らしました。また公共事業を減らし、下水道整備計画に基づく予算総額を600億円から150億円に削減するなどして予算を捻出しました。
ファーーーーーーーーーーーーwww
サラっと言ってますけど、飛んでもないことしてますね!!www
下水道整備計画に基づく予算総額を600億円から150億円って!職員の給料4%削減って!
う〜ん、これは市議会議員全員から反対されるのも頷ける(笑
自分なんかでは想像もつかない壮絶な抵抗にあったことは間違いないと思います。
でもそれを断固やりきることで、人口増とそれに伴う住宅需要増、そして地域経済の活性化によって税収も毎年増を実現。誰の目にも明らかな結果をだすことで周囲も徐々に理解してくれたとのこと。
事実、初当選の時は69票差という辛勝だったのに2期目は大勝!
凄まじすぎる。
組織のトップの覚悟ひとつでここまでまちが変わるなんて…
泉市長はおっしゃっていました「私はやさしい社会をつくりたいだけなんです」と。
そうはいうものの、この他を圧倒する強烈な思いの源泉はいったいなんなのか。これも先の朝日新聞に記載があったのでちょっと長いですが引用させて頂きます。
原点は弟と過ごした子ども時代です。4歳下の弟は生まれつきの障害で歩けませんでした。
5歳でやっと歩けるようになりましたが、自治体からは遠くの養護学校に行くように言われました。両親の懸命の交渉で私と同じ地元の小学校への通学が認められました。
でも、条件がついた。
何があっても学校を訴えないことと、兄である私が登下校に責任をもつこと。2人分の教科書をランドセルに詰め、冷たい視線の中を弟と一緒に毎日通学しました。
なんて冷たい社会なんだと、世の中の理不尽さを子ども心に憎みました。
運動会のことです。小学校2年生の弟が「50メートル走に出たい」と言い出しました。
「迷惑をかける」と両親も私も止めましたが、弟は聞きません。
当日、同級生からずいぶん遅れて、でも、うれしそうにゴールする姿を見て、涙が止まりませんでした。
弟が笑われたらかわいそうと言いながら、本当は自分が笑われたくなかったのだと気づきました。
幸せを決めるのは本人であり、それを支えるのが周りの役割なのだとも。
その思いは、今も変わっていません。
「子ども支援をもっとなんとかしてくれ…」と政治家にお願いすると、彼/彼女らはしばしばできない理由を並べたてます。
でも、それはハッキリ言って言い訳に過ぎなくて、彼/彼女らの本音は「それをやると抵抗にあうし、それを突破するのは面倒くさい…」っていうだけなんですよね。
人間の思いひとつで社会は変えられる。
そのことを泉市長のお話を伺い、改めて確信することができました。
子どもを軸に据えた明石市政について、その分析や魅力を他の記事でも書いてますが、そのエッセンスを著作でまとめています(全6章のうち、1章まるまる割きました)。全体のテーマは、「パパの家庭進出」です。現代の家族のあり方について、実体験を軸にしつつ、政治、経済、歴史など、様々な視点から考えてみました。ぜひ、ご笑覧ください。