kiss
高校2年のとき、好きな男子と同じクラスになりました。Aくん、とします。
1年生の頃からAくんの存在は知っていて、2年になって一緒のクラスになったときは、とても嬉しかったです。
でも、秘めた恋心でした。友だちにも打ち明けないで、ひっそりと静かに想っていました。
友だちに話したのは、期末テストの前でした。
友だちは私よりも積極的で、そして興奮気味で、押せ押せでした。
「告白する前に、何か軽いプレゼントをしよう」と提案されて、相手にとってあまり負担にならないような金額のアイテムを選びました。(友だちも一緒に選んでくれました。)
いざ、渡す段になって、どうしようか、とまた考えました。
放課後、学校で渡すのは人目があって、少し恥ずかしい気がしました。(なんて内気だったの、あの頃の私。)
私がそう話すと、友だちは「じゃあ、夕方から夜の間に、Aくんの家の近くに呼び出そう」と考えてくれました。
友だちはAくんの家の割と近くに住んでいて、地理がわかる子でした。
「呼ぶならこの辺りがいいと思うよ」と良さげなポイントを教えてくれました。
当時はケータイなんて無くて、家の電話しかありませんでした。電話をかければ、ほぼお母さんが出るだろうと思われました。高い壁でした。
でも、越えるしかありません。
友だちも付き添ってくれて、公衆電話からAくんの家に電話をかけました。
たぶん、相当緊張していたのでしょう、そのときの通話内容を憶えていません。
恐らく、お母さんが出て、そして、とりあえずAくんと話せて、お呼び出しポイントに出て来てもらうよう、お願いしました。
プチプレゼントを渡した記憶も、飛んでいます。
でも、渡せたようです。
後日聞いた話では、Aくんは私の電話が来るまで、テスト勉強をしていたそうです。
そして電話に応じて外に出て、プレゼントを受け取ってくれて、「俺、その後、勉強手につかなくなっちゃったんだよね」との事でした。
修学旅行の夜に、最強の女子が味方してくれて、「Aくんに告白しなよ」と言って、男子部屋に行ってAくんを呼んでくれました。
「ずっと好きでした」的な、短い告白をしました。Aくんは「ありがとう」と言ってくれました。
後々聞いた話では、Aくんは私のことを気にかけて、見ていてくれたらしいです。おとなしい女の子がいいなと思っていて、私がおとなしい様子を見て、「良いぞ」と思ってくれていたそうです。
告白を終えて、私が戻って来たら、部屋中の女子が歓声を上げて出迎えてくれました。
なんとなく、付き合うことになって、でも田舎の純な男子と女子は、何にもしませんでした。
一度、デートしました。映画を観に行きました。
二人で選んだ映画でしたが、途中でまさかのエロティックな場面に遭遇して、私は動揺して「Aくん、どう思ってるかな」と思いました。Aくんも緊張している雰囲気が伝わってきました。
映画のあと、お昼ご飯を一緒に食べました。
食べながら映画の話とかしたかったけど、エロティックな場面のことが浮かんできて、話がうまく出てこなくて、二人ともほぼ無言でご飯を終えて、帰って来ました。
Aくんと私は手を繋ぐこともなく、その後、自然消滅していきました。
3年生になってクラスが別になって、少しほっとした部分もありました。
時が流れて、20代の半ば頃に、Aくんの友だちグループと私の友だちグループで飲み会をしたことがありました。
お互いに高校時代から知っているメンバーだったので、緩く、のんびりした飲み会でした。
私はお酒が飲めないので、ウーロン茶とかを飲んでいました。
Aくんは「あの頃は何もしてあげられなかった。俺が悪かった」と言って、私を気遣ってくれました。
相変わらずの眼鏡ハンサムで、Aくんモテるだろうな、と思いました。
帰るとき、Aくんが「車で送るよ」と言って乗せてくれました。(立派な飲酒運転です。)
もう1人、女の子が同乗していたのですが、その子を先に送り届けて、遠回りな私を最後に送ってくれました。
車から降りる際、Aくんの手が私の肩を引き寄せて、そのままキスをしました。
唇が離れてから、私は「おやすみなさい」と言って車を降りました。
Aくんも、引き留めることはしませんでした。
Aくんは車道ではない細い私道を、酔った勢いで走ったらしくて、後日、「なんかミラーとか凄い擦ってるんだけど」と言っていたそうです。
覚えてないのかな?キスしたのは覚えてる?
Aくんとのキスは、なんていうか、『あの頃できなかったこと』を、今、再現してしているみたいな、そういうキスでした。
遠い約束を今、果たしている、みたいな。
でもお互い大人になっているので、ちゃんと舌を絡ませました。
「Aくんも、舌入れたりするんだなぁ」と、流れた月日を、しっとりと受けとめました。
それからAくんには会っていません。
同窓会とかも無かったので、会う機会はありませんでした。
同い年だから、当然53歳になっているだろうし、もしかしたら、早ければ、もう孫とかいるかもしれません。Aくんに孫なんて、考えられないな。
幸せに生きて、素敵に年齢を重ねていってくれてたらいいな、と思っています。
では、また明日。
読んでくださって、ありがとうございました。
おやすみなさい。