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だから私は映画を観たい2023

映画館が好きだ。
ささやかなお給料から、お得な日を狙って観たい映画の為に映画館へ足を運ぶ。同じものをみんなで共有する喜び。どこの誰とも知らない人、もう二度と会わないかもしれない、この映画を観よう、と、心のどこかで惹かれるものを感じた、という1点以外は、共通点など何もない人々。

幼い私に、映画館での映画は特別なものだった。田舎住まいの私には敷居が高く、車でどこへでも行けるような状況が整うまでは、まず地理的に行くことさえ叶わなかった。大人になってからも、たくさんの映画館が閉じてしまい、昔よりも敷居が高くなってしまった気さえする。今はオールで映画を観る、なんてそういうイベントでなければ無理だもの。
でも、映画館で観たい映画、というのは、ある。だから、それが叶うようになった今、私は遠くとも映画館まで足を運んで映画を観る。色んな状況で観れなかったものは、このコロナ禍で買いそろえた安い投影機で見る。安いからそれなりだけど、ちょっとでも映画館っぽくなればいい。

これは映画館で観たもの、家で観たものをネタバレをガンガン盛り込みながら、好きなように書いたものです。個人的な健忘録のようなもの。
お読みになる場合は、ネタバレがあるものとしてお読みください。

THE FIRST SLAM DUNK

 まず、OPがかっこよい。終わってからも、ずーっとOPのイメージが頭の中から抜けなかった。The birthdayってしばらくわかんなくて、聞いたことのある声がする……と思っていて。EDの10-FEETもめちゃくちゃかっこよかったけれども、OPのイラストと一体になってる感覚にちょっとぞわっとしたの。

 この映画の一番すごいところは、試合を実際に見ている感覚にさせるところ、だと思っていて。映画館で観ている観客を、物語の出演者にさせる何かがある気がする。呼吸すら阻まれるようなあの静寂が、一気に映画の中へと引き込んでいく。映画館で観るからこそ、だと思うので、本当にそこは行ってよかった。

 原作の細かいところまで覚えているわけじゃなかったけど、見ているうちに色々思い出しちゃう不思議。少し知ってる方が、より楽しめるのかなぁという印象ではあるかな……。彩子さんとリョータの関係性とかね。
 映画を観た知人たちの感想を聞くと、声優さんが違っていたから、という話も聞いたけど、私は正直気にならなくて。あえて違う声優さんを使っているようだし、フラットな気持ちで見たのもよかったのかも。secondがあるとして、きっとがっつり作りこんでこられることがわかるのできっと観に行くと思うな。

トゥモロー・モーニング

 離婚前夜、結婚前夜、と時間軸がころころ移動して描かれる映画。サマンサ・バークスの歌声に、レミゼで圧倒されて大好きになった身としては、行かなくては…!!!という気持ちで観に行った作品。

 前述のとおり、時間軸が移動するんだけどそのことについて毎回注釈が入るわけでもなく、お化粧や雰囲気も結構違っていて同じ人物だと理解するまでに時間かかっちゃって、これは…??と思うことも何度か。内容に関しては、結局どっちも悪くて、自分の事しか見えていなくて、でも人生ってそんなもんだよね…自分の心が一番大事だもの。同じように、相手の心を大事に思っていても、話してくれないことまで理解はできないから…。と、ずっと思っていました。口にするには容易いけど、実行に移すには難しいやつです。
 あと、母親が子どもと直接対話したり、二人で出かけたり、というシーンが無かった?少ない?(あったらごめん)気がして、それがなんかちょっと気になったり。そういう母親だよ、っていう表現かもしれないけど、こんなんじゃ父親っ子になってあたりまえでは?子どもは正直お母さんのことどう思ってんの?って考えてしまった…。

 これだけころころ時間軸が変わるなら、ミュージカルだとどんな風に演出されてるのか気になるところ。あと、ミュージカル映画ならではの大勢で踊るシーンがもうちょっと欲しかったなー。結婚式のあたりだけだったのでは?夫婦二人の掛け合いの歌が多かったイメージでした。

ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り

元のゲームの事なんてまったく知らずに見たけれど、わかりやすくファンタジーでちょっと笑えてシリアスに偏りすぎることもない、楽しく観れる映画でした。

最初、エドがあんまりにも胡散臭くて、話も全部疑ってかかってたんだけど、詐欺師は別にいるわけで。まぁ、フォージみたいなタイプならなんだかんだいいつつあんなに協力して向き合うことはできないよね。

キャラクターもみんなかわいい。それぞれ過ちを犯してきた経験があるけれど、それと折り合いをつけながら生きている。その向き合い方が、愛おしいし、可愛い。エドとホルガの関係性もなんとも言えずいいのよね…。最後の最後の、家族、という関係が、ぴったりくる。

あともう、何といってもゼンクでしょう。セクシーパラディン、レゲ=ジャン・ペイジ。最後にフォージの前に現れるところとかも、なんともいえないんだよねぇ。かっこよい。007の次の主役候補の一人とか言われてるんだとか。彼がボンド役になるなら、今まで見たことないけど007観に行くだろうな、私。セクシーパラディンっていう単語が、本人に補足されてるのもふふってなっちゃう。

TAR

観終えて、一晩経った今も、頭の中からこの映画の様々な場面が消えない。権力の物語、と至る所で聞くけれど、こういう世界では上手(演奏だけではなく立ち回りなども含めて)な人間が勝ち上がっていくもの、と思っていて。フランチェスカも仕事上で切られただけではなく、リディアを好きな気持ちが残っていてそれを無下にされたこと(副指揮者の件以前に鍵を返しにくるシーンがあるけれど、以前は持っていても良いと思える間柄だったと思うので)、危険とみなされたこと、リディアのクリスタへ対する扱いの不信感、そして自分もこのままクリスタのようになってしまうのではということ、様々な要因の複合があっての裏切りとリークだと私は感じた。セバスチャンがリディアとフランチェスカの間を仄めかすようなことを言わなければ、先行きは違っていたのかも、とも思うし……。
フランチェスカのことも、オルガのことも、性的な目線が0であるとは言わないけれど、その能力や技術が確かなものだからこそリディアは傍に置きたいと望んだのだと思うんだよね…。できる人間が好きなだけかもしれないけど。そもそも、シャロンとのパートナー関係があり、そこからの専任指揮者という流れがあるわけで。最初にそこにそういう色眼鏡があってリディアを見るから、彼女の選ぶ全てが、お気に入りとか、独断だとか、そういう風に見えてしまう。もちろん、そういう事実があったことも仄めかされているから、単に色眼鏡で見てるだけというわけじゃないけど。でも、オルガの動画の演奏、めちゃくちゃ素晴らしかったもの。リディアが惹きこまれていくのがわかる。演奏だけでいうなら、そのうちメンバーにちゃんと入っていたと思う。演奏だけでいうなら。

オルガがメンバーに入れていたかどうか、という点で、演奏だけなら、となぜ思うから。それは、シャロンが彼女を良く思っていないから。
コンサートマスターであり、専任指揮者のパートナー。そして、リディアをその専任指揮者まで持ち上げたのも、シャロン。コンマスと指揮者の関係って他のメンバーとはやっぱり違っていて、でも、コンマスとオケのメンバーとの関係も、指揮者とオケの関係とまた違う。オケのメンバーが信頼を置いていたのは、指揮者のリディアではなく、コンマスのシャロンだったのだと思う。シャロンが自分で言っていたけれど、リディアが勘違いを起こさず、始めの頃のように彼女に全てを相談して指示を仰いでいたのなら、こんな最後にはなっていなかったはず。真綿で首を絞めるように自宅でリディアの時間を乱していたのは、シャロンだと思うし。

講義の場面で、リディアが言っていることは間違ってないと思うんだよなぁ…。指導の仕方や、発言が適切なものであったかどうかは置いておく。指揮者を目指すのなら、個人の趣味嗜好や主義を問わず、学ぶべきであって。この作曲家の曲は知らない、学ぶつもりもない、聴きたくない、そんな指揮者をどこが雇うかな?作曲家を知り、その時代背景を知り、楽譜に書いてある意図を読み取り、演奏という対話をしていくのが音楽だと思う。その学びの中で人によって解釈や考え方が違ってくるからこそ、同一の楽譜と楽団なのに指揮者によって全然違う音楽が生まれるのだもの。そこに、正解も不正解もなくて、何かが生まれるのだとしたら、それは聴衆の心の中にこそある。
彼の選んだ音楽や主義の否定や拒否とは私は思わなくて、リディアにとっての指揮者のあるべき姿を彼女は説いているのだから、彼女の講義を受けよう、教授してもらおう、という気持ちで参加したのなら、聞く耳が無いのは受ける側の問題のようにも思うな。

…と、つらつら長々書いてしまったけれど、別にリディアを擁護したいわけじゃなくて。彼女の傲慢さを良く表してるのは、アルバムを床にばらまいて、足で選別するあのシーンだと思う。全ての指揮者の解釈よりも、自分のそれが上を行っているのだという自意識の表れ。シャロンに専任になるためにはどうすればよいかを仰いだこと、彼女のおかげで専任指揮者でいられること、フランチェスカがいるからこそ仕事に専念できること、それら全てを塞ぎ、全部自分の実力と価値で勝ち取ったものと信じて疑っていないのが彼女の過ち。

書きたい事だけばーっと書いたけど、もう一度観たらきっと解像度が上がると思うので、もう一度観たい。リディアの精神状態を表すように、日常音とは異なるものが微かに聞こえていたり、思考を遮る音なんかもとても効果的に使われてるから、これは映画館で観て本当に良かった。オーケストラもなかなか聴きに行けていないから、そういう意味でも映画館で上質な音をあびれて幸せだった。

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