【コギトの本棚・エッセイ】 「いながききよたか通信 五月号」
とうとう2014年も、6月を目前に控えましたね。
皆さん、ワールドカップへの準備は、万端でしょうか。
ワールドカップも楽しみですが、
同時に、こちらにも食指を伸ばしていただけると、嬉しいです。
どうぞ、よろしくお願いします!
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(高城亜樹主演『SAVEPOINT』テレビ東京6月5日より放映)
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さて、告知も終えた所で、
久しぶりに『コギトの本棚』の原稿をしたためております。
忙しさにかまけ、執筆がおざなりになってしまいましたが、
これからがんがん書きますので、
お付き合いのほど、お願いいたします。
そうです、どうして忙しかったのかと言えば、
ドラマの撮影です。
そう、『SAVEPOINT』の撮影。
今回の撮影は、とにかく準備時間の不足がたたり、
人手の確保が難しかったようで、
私、何年かぶりに、現場へGOしてきました。
前半戦は屋内だったので
「若干寒いなぁ」くらいだったのですが、
後半戦はずっと屋外。
普段、暗い室内でしこしこキーボードを打ってるもんだから、
太陽がまぶしすぎてまぶしすぎて、
ものの10数時間で顔も腕も
真っ赤っかに焦げついてしまいました。
実は、映画やドラマを制作する上で、
撮影そのものは、約六割を占めているにすぎません。
他にもいっぱいやることがあるのです。
企画立案、お金集め、キャスティング、シナリオ作り、
スタッフィング、ロケ準備までが、
いわゆるプリプロダクション。
そして撮影を経て、
編集に係るもろもろのポストプロダクションへと
突入するのです。
そのどれもが、撮影と同じくらい重要なものです。
そして、我らが『SAVEPOINT』も、
現在ポストプロダクション真っ最中、
さて、どんなドラマに仕上がるか、今から楽しみですねぇ。
とはいえ、やはり、撮影は、ドラマの醍醐味です。
いい大人がよってたかって、ほんの数分の映像のために、
一日がかりで、あーだこーだするのです。
もはやお祭りです。
楽しいです。
九日間の撮影がすべて終わったその瞬間、
「ああ、これで、終わりか」などと、
非常にさびしい気持ちに襲われたりしました。
明日からは早起きしなくていいんだという安堵感より、
このクルーで撮影することはもう二度とないんだな
という郷愁が先立ってしまうのです。
しかしながら、本来、シナリオライターは、
このお祭りに参加はしません。
一本の作品において、シナリオライターは、
実は、誰よりも早くスタッフィングされます。
もしかしたら、監督やプロデューサーよりも早く、です。
一つの例をお話しましょう。
ある晩、とあるシナリオライターが
プロデューサーとお酒を共にしていたとしましょう。
酒飲み話で、「最近、こんな面白いことがあってさ」
となります。
で、それをプロデューサーから聞いたシナリオライターは、
ある依頼を受けます。
「来週までに、今の話、あらすじにしてみてよ」
はい、これで、企画が一つ出来上がり、
ディスイズ企画の萌芽です。
他にも、いろんなケースが存在するでしょう。
監督自身が人知れず温めているおはなしを夜な夜なしたため、
しかるべきときを見計らい陽の目を見させたり、
プロデューサーの熱意で奔走し、
自分自身で企画を成立させたり、
そのありようは様々。
ただ、プロデューサーも監督も、企画立案から、
皆様のお目に触れる場所へと作品を届けるまでが
お仕事だとすると、
シナリオライターは、
まさにシナリオを書き終わったところが
仕事の到達点となります。
その時、まだ撮影は始まっていません。
プリプロダクションの時点でお役御免となるわけです。
だから、非常にさびしい思いをしたりします。
仕事上付き合う人と言えば、プロデューサー、監督、
あとかろうじてキャストの方々。
どてらい照明部さんにも、
繊細な録音部さんにも、
ハイセンスな美術部さんにも、会うことなく、
人知れず、戦場を後にするのです。
だから、打ち上げのときなどは、
非常に肩身が狭かったりします。
お店の隅で、ちびちびビールを傾けながら、
無論知っている顔など限られているので、
ただ独り、みんなの動向をうかがっているくらい。
たまに、気の利いたメイクさんなどが
話しかけてくれたりすると、
色めきだつわりに、
普段コミュニケーションブレークダウンなので、
すぐに会話が途切れ、また気づくと一人ぼっち……。
これが、シナリオライターあるあるです。
だから、今回のように、撮影の手伝いなどすると、
人一倍、終わった時の寂しさから来る郷愁が
湧き立つのではないかと、自己分析する次第。
さて、今回の『SAVEPOINT』のことに
話を移しましょう。
これは完全に、内輪の話ですが、
実はシナリオを脱稿したのは、
丁度一ヶ月前の4月29日、
そして書き始めたのはさかのぼることその6日前の23日。
なんなら初めてお話をいただいたのは、その4日前の19日。
このスケジュール感は、比較的、というより、
ものすごく急を要するということになります。
シナリオに限って言えば、
30分ドラマを4本、6日間で書くという経験は、
ほぼないことと思われます。
(僕が経験不足なだけかもしれませんが……)
しかし、仕事は仕事、
引き受けた以上、良し悪しに一切の言い訳は効きません。
いわんや、時間が少ないとか、予算が云々は論外、
三年かけて書いたシナリオも、
一週間で仕上げたシナリオも、
手を離れたら、同じ土俵に上げられます。
作家はその結果のすべてを
背負わねばならないのです、バーン!!!
とか、なんとか、
かっこいいことがずばっと言えたらいいなぁと思いながらも、
今回は、本当に苦労しました。
ただ、その苦労は、実は楽しみでもあります。
三文文士にとって、書けることは最上の喜び、
いかなる苦労も、仕上げた瞬間、報われるというもの。
本当に書く場を与えてくれる方々に感謝です。
実際、今回、執筆に与えられた時間は、
物理的には短い物でした。
ですが、実は、シナリオにとって、
執筆している時間というのは、案外短いもの。
どんな文章でも、書いてみればわかるのですが、
筆を動かしている時間というのは思ったより短いと
感じた事はありませんか?
それよりも、どちらかというと、
なにを書こう、どう書こうと思案している時間の方が
長くなったりしないでしょうか。
それは、必然的なことで、
シナリオでも何でも文章を書こうとすれば、
なにを書くか、あらかじめ決まっていないと
書けないものです。
逆説的に言えば、書こうとするその瞬間は、
なにを書くか決まっている、と、こういうことになるのです。
シナリオを書いていて、
最近ようやくわかりかけてきたことがあります。
それは、準備がいかに大事かということです。
映画・ドラマを作る上で撮影がすべてではないように、
シナリオも執筆がすべてではありません。
ネタ探し、取材、キャラクター造形、
シノプシス作り、プロット作り、ハコ作成、
これらを踏まえようやく脚本を書くに至ります。
一旦書いたとしても、
そこから改訂作業が始まります。
まあいかに映画・ドラマを作る過程に似ていることか。
というか、
これはすべての『仕事』について言えることかもしれません。
派手な作業は仕事のほんの一部、
あとは地味で地道な作業がほとんどだと。
そして、その地味な作業をおろそかにしては、
大体いい仕事には結びつかないのではないでしょうか。
加えて、僕のような三文文士にとっては、
発注されてから準備していては遅い
ということが往々にしてあります。
今回のように、6日間で上に書いたような準備のすべてを
成し遂げることは到底無理なことです。
となれば、普段、日常生活の中で、
その都度、なにがしかシナリオに役立つようなネタ探しや
勉強をしておかねばいざという時、
せっかく仕事をいただいたのに、
断らざるを得なくなります。
もったいない!
なにか、エラソーな自分語りになってしまいそうですが、
これは経験からくる一つの危惧のようなものに近いのです。
かつて僕は、映像に関する勉強が大嫌いでした。
映画は好きでしたが、
よっぽど欲する時以外は、
ゲームや睡眠を優先するような極端に怠惰な人間でした。
(もちろん、今も怠惰なことに変わりはありませんが)、
そうこうしているうちに、
同年代のシナリオライターや監督が、
どんどん活躍し始めたのです。
そしてそんな彼らと付き合ってみると、
一様にものすごく勉強家なのです。
ものすごく焦りを感じたことを覚えています。
『このままだと、取り残される……』
そうしてようやく、
「普段から、どれだけ映像のイメージができているか」
という危惧を持ちあわすことが出来たのでした。
同時代に活躍するシナリオライターや監督たちに感謝です。
とはいえ、6日間とは、いかにも短い。
その締切を前に、
4月23日の時点で僕は呆然としておりました。
そのお話は、次回に回すことにいたしましょう。
いながききよたか【Archive】2014.05.29