【コギトの本棚・エッセイ】 「地質班」
先日、上野の科学博物館へ行ってきました。
東京の中でも上野公園は、お気に入りの場所です。美術館に博物
館に動物園、人文系、自然系問わず、知が結集している場所でも
あります。
ところで、国立科学博物館には、分室があること、ご存知でした
か?最近、つくばの方に移転したようですが、かつては新大久保
にありました。
実は、今から、25年くらい前でしょうか、中学生のころ、僕は、
新大久保にあったこの科博新宿分室に訪れたことがありました。
なぜなら、僕が、地質っ子だったからです。
僕は、中高一貫校に通っていました。そして、所属していた部活
は、正式名称『理科部地質班』。
都合、6年間、僕はこの「地質班」に所属していたことになりま
す。
しかし、聞きなれない名称ではないでしょうか。おそらく、全国
的にも、同名称の部を持つ学校はかなり少ないと思います。
部活動の内容はというと、主に、『化石を掘る』こと。(地質と
は名ばかりの古生物研究班ですね)
「化石を掘る? なんじゃそりゃ」
他の部に比べると、おそろしくマイナーで、はっきり言って怪し
い部活です。だいたい、部活として成り立つのかどうかもよくわ
かりません。
もちろん、平日、学校があるときは、化石堀りになんていけませ
ん。でも、ちゃんと部活動はあります。なにをしていたかという
と、もっぱら、中庭でテニスボール野球です。あとは、部室でト
ランプかマンガ。
構成部員たちは、文化部の名に紛うことなきオタクたちです。ま
あ、イケてません。ブサメンの掃きだめです。
しかし、「化石を掘る」ことにかけては、体育部よりもスパルタ
でした。
まず、入部すると、そろえさせられるものがあります。玄翁(げ
んのう)と鏨(たがね)とチスです。できれば、大型のリュック
サックもあると望ましいのですが……。
(こんな感じ)
他の部の同級生たちが楽し気にスポーツ用品を買いに行く中、我
々はこれらのマストウェポンをそろえるため近くにあった「地質
班」御用達の金物屋へ行くわけです。モテませんねぇ。
で、週末になると、在来線に揺られ、岐阜県や三重県まで遠征で
す。
普通、化石が出る場所なんて、皆目見当つきませんが、一応我々
はポイントを押さえていまして、その化石発掘ポイントまで、玄
翁、鏨、チスの3点セットが入った空のリュックをぶらぶら背負
っていきます。
さあ、発掘の始まりです。何をするかというと、ただひたすら地
面を掘ります。ただ、やみくもに掘るのもいただけません。ベス
トは、できるだけ、残土がボロボロにならないよう、まとまって
地面をはがす感覚です。チスを何本も地面に打ち込み、ガバっと
地面を引きはがします。すると、運がよければ、化石が出土しま
す。しかし、だいたい、めぼしいものなんて出てきません。
しかし、化石が出ようと出まいと、掘り起こした、いかにも化石
が詰まっていそうな岩や土を、空で持ってきたリュックにしこた
ま詰めて、帰りの電車に乗ります。
まあ、重量にしておそらく50キロくらいになるでしょうか、新
品のリュックは、数度の遠征でボロボロになってしまいます。
そして帰宅し、庭でトントン金づちで残土を細かくしながら、化
石を見つけるのです。当時、我が家の庭は、岐阜や三重の石がご
ろごろしていました。
ちなみに、この掘り出した化石、なんに使うかというと、うーん、
なんの役にも立ちません。どうせ、僕が掘り出す化石は、学術的
にはなんの価値もありませんし、ただ眺めて、ほー、うん千万年
前に、こいつ、生きていたのかぁ、ほんでもって、うん千万年後、
僕の手の中に納まる運命だったのかぁなんて、ほくほくするくら
いが関の山です。
で、だいたい、すぐに忘れられて、最終的には庭にほっぽり出さ
れてしまいます。でも、別にいいんです、どのみち最初はほっぽ
り出されていたような石なんですから。
だから、まあ、もしかしたら実家の庭を掘り出したら、結構化石
ができてきたりして。
地質班の部員ですが、こんなことを毎週繰り返すわけですから、
体力的には、体育部をしのぐ勢いでした。
その証拠に、学年の腕相撲チャンピオンは、軒並み、我が地質班
から排出されていたくらいです。いわゆる、パワー系オタクブサ
メン集団ですね。
こんなちゃらんぽらんな集団だったのですが、一応、化石として
出土するような古生物にロマンを馳せていたのも事実、きちんと
研究もしていました。
そんな折、うちの、一切文化的学究的素養に興味がない陶工だっ
た父が、「あ、そうだ、忘れとった、同級生で、エラい人がおる」
と、ある人を紹介してくれました。その人こそ、父の小学校の時
の同級生だった当時の科博新宿分室の副館長さんだったのです。
そんなわけで、僕は、先輩を伴って、新大久保までやってきたの
でした。
その時のことを、詳細に覚えているわけではありませんが、極度
に緊張したことと感動したことを覚えています。おそらく、所蔵
室に入らせてもらったのでしょう。かずかずの化石を見せてもら
いました。中には、恐竜の化石も。まさに垂涎ものです。
というのも、我々化石堀りのあこがれは、言わずもがな、恐竜な
のですが、日本ではほとんど恐竜が出土しないからです。
(理由はいろいろ考えられるみたいですが、ひとえに、地形的な
ことが関係していると思われます。日本には、恐竜が生きていた
時代の地層が地表面に露出している場所が少ないというのが、主
な理由でしょうか)
さて、今では、めっきり化石なんて堀りにいかなくなった僕です
が、しかし、やっぱり古生物に対するロマンの残滓みたいなもの
は、確実にくすぶっています。
我々人類の祖先をたどっていくと、確実に、あんな奇妙極まりな
い、いにしえの生物に行き当たります。けれど、じつはその生態
は、限りなく謎です。化石を掘ったり、DNAを解析したりする
ことで、ほんの少し謎が解けたりするのですが、いまだに、いや
未来永劫解けないかもしれない謎なんて山のようにあります。
(そんな状態ですから、逆に言えば、想像するのは、自由なわけ
です)
例えば、恐竜の皮膚の色なんていうのは、おそらく、極限的にわ
からないものですし、同時に、まったくわからないだろうもので
ありながら、もしかしたら、科学技術の発達によって、解析でき
るかもしれないというところが、まさにロマンです。
それに、知っていましたか?普段、僕たちは、なにげなく「恐竜」
のことを考えているのですが、だいたい恐竜が地球に君臨してい
た時間を、年数で表すと、およそ一億年にもなります。一億年も
のあいだ、恐竜の時代が続いていたと考えると、途方もない感じ
がしますね。 かたや、ホモ・サピエンス・サピエンス(=我々)
が地球に現れ、わがもの顔し始めて、ほんの(諸説ありますが)
7万年です。
年収に直してみましょうか。
一億円プレーヤーの大富豪対年収7万円の超ニート。愕然の差で
す。
別に、だから恐竜の方がエライとかそんな話じゃないんですけど、
こういう夢想に身をゆだねていると。「人間ちっさ」って感じる
んですよね。昨今、殊更重大そうに扱われてるニュースも、地球
のしわぶきにもならんなぁと、少し心が休まるんです。
ああ、また化石掘り行こうかな。どなたか、東京近郊で、グッド
な化石発掘ポイント、知りませんか?
いながききよたか【Archive】2015.10.01