【コギトの本棚・エッセイ】 「青春」


明けましておめでとうございます。
本年も、ゆるゆるやっていきますので、
お付き合いのほどどうぞよろしくお願いいたします。

さて、年末年始は郷里に帰省しておりました。
実家好きとしては、年末年始、
何がなんでも実家で過ごしたいのです。
が、よく考えれば、帰省する必然性ってあまりありませんよね、
昨今は特に……。
でもいいのです。おじさんになってようやく、
よくわからない恣意的行事に何も考えずライドオンするのも
それはそれでアリ!という考えに至りました。
というわけで、なんにも考えず渋滞に飲み込まれながら、
東名高速を西へ西へと走りましたよ。

でも、いかん、あれ、寒い、悪寒がする、体調ヤバい、
と感じたのは大みそかのお昼くらい、
あれよあれよという間に熱が上がっていきました。
俺的年末年始の風物詩、インフルエンザ罹患です。
今年こそは回避したい!
と僕なりに気をつけてはいたのですが、
やっちまいました。
ここ五年くらい連続で、
年末から年始にかけて体調を崩しています。
なぜなんでしょうか、
やっと仕事も納めて、年に数度とない長期休暇に
なぜ僕の体調はもろくも崩れるのでしょうか。
誰か教えてほしいです。
というわけで、年越しは布団の中、
悪夢にうなされながらうんうん唸っておりました。
実に39度以上の熱です。
カウントダウンもなにもあったもんじゃありません。
こんな調子じゃ、2015年も先が思いやられますね。

さてさて、熱がでる直前のこと、
身体の中でインフルエンザウィルスが爆発的増殖を
しつつあるまさにその時、
僕は髪を切りに行こうと本山
(駅で言えば、東山公園の隣ですよ)
まで車を飛ばしていました。
かつて20年前、バイト先へと向かう通い慣れた道です。
「あ、れ?」
街は変わりゆくものですね。
油断して見落としてしまいそうになったのですが、
かつて通っていたバイト先が、
看板替えしているではありませんか。
そのバイト先とは、今や数少ないサブカルけん引ショップ
(なのかどうかわかりませんが)、
ヴィレッジ・ヴァンガードです。
僕が働いていたそこは、
まだ今ほど爆発的増殖をする前の、
正しく本屋の異端児として存在していたヴィレッジ、
確か直営五軒目のパパ店という店舗でした。
(昨今、ヴィレヴァンと略すようですが、
正しくはヴィレッジですからね、覚えて帰ってくださいね)
僕は、車を止めて、しばし見入りました。
ヴィレッジ・パパ店は、よくわからない
アパレルアウトレットショップに姿を変えています。
パルプフィクションとイージーライダーの
特大ポスターももうありません。
感慨に耽るよりも、なんだか妙に納得して、
僕は再び車を発進させました。

僕がヴィレッジ・パパ店に勤務していたのは
1996年のこと。
改めて考えると、もう20年も前のことになるんですねぇ。
96年はなんといっても、エヴァンゲリオンで幕が開きました。
ヴィレッジに集うへんてこお兄さんたちもこぞって録画を楽しみ、
エヴァを肴に無理して哲学的な話をしたものです。
今考えればバカみたいな話ですが、仕方ありません、
それまでアニメなど見向きもしなかったような
意識高い系の男子たちには
ああいう思わせぶりアニメに対しての免疫が
皆無だったんですねぇ。
とにかく、サブカルにアニメが
怒涛のように流れ込み始めた時代でした。
同時に90年代半ばは音楽の分野でも
百花繚乱期でありました。
洋楽と言えばビートルズな十代の僕は、
音楽キチガイ店員たちから厳しい調教を施されたものです。
特にジャズの素養を教えてくれた先輩方には
感謝するところです。
「あ、別にジャズってお洒落な音楽じゃねえんだな」
ってことに気づかされただけでも、儲けものでした。
他にもいろいろ悪いことを覚えました。
このヴィレッジを中心にして、
ここには書けないような、
あんなことも、こんなことも……。
それに、当時のヴィレッジは、
カウンターより内側が女人禁制でした。
女性店員を採用しなかったのです。
今じゃ考えられません。
でも、ある意味、一定の平穏さは保たれていたような
気がします。変に色恋を気にしなくていい訳ですから、
気が楽です。
結局、女性を採用しない理由はよくわかりませんでしたが、
きっとめんどくさいからとかそんなとこでしょう。
確かに、男なら男一色、女なら女一色の方が、
よかった気がします。
タバコだって、自由でした。
さすがにくわえタバコでは接客しませんでしたが、
お客さんがレジに来てもタバコの火は消しませんでした。
それで、誰も文句を言わなかったのです。
こうして僕はヴィレッジで音楽を覚え、
文学を覚え、精神世界を学び、マンガの知識を深め、
カウンターカルチャーにどっぷりつかりました。
知識の深い大人がかっこいいと思い、
そういう大人になろうとした時期でもあります。
つまり、一言で言えば、「青春」でしょうか。

青春、なんて言うと、すごくおもはゆくて、
気恥かしくて、歯切れが悪くて、
もうどうにもいかんともしがたいわけなんですけど、
でも、最近、もう時効かななんて思います。
この言葉を使ってもいい時効が近づいてきている気がします。
で、気づいたら、この青春の地が霧散していたというわけです。
これは、別に、郷愁の念に駆られたりするわけじゃなくて、
あはははと照れ笑いしたい気分なのです。
「そうだよな、別におかしくないよな、
当然だよな、よく考えれば、
青春なんていい時代でもないしな、
あー、青春が終わってよかったなー」
これが、今の僕の本音です。

その後、僕はヴィレッジを辞め、
イギリスに留学し、
青春の引き延ばし工作に追われているうちに、
気づけば、ぽつんと社会の厄介者になっていました。
さあ、それに気づいた後は、
泥水をすすらなくてはならなくなるのですが、
そんな話はまた別の機会にゆずるとして……、
イギリス留学を終え、帰国してから今までの僕は
ヴィレッジにあまり立ち寄らなくなりました。
なんだか必要性を感じなくなったし、
なにより、そこへ立ち入った途端、
なんとなく、どっと疲れがやってくるからです。
でも、遠目でそっとその変貌と行く末を
見守っているような気もします。
ヴィレッジも変わりました。
かつてアメリカン・インダストリアル風を気どった
郊外倉庫型店舗もいまや
すっかりショッピング・モール化した感があります。
成人コミックも廃止したと聞きますし、
女性店員も導入していますよね。
これは、「日和った」という見方もできますが、
一方で、時代が均質化を強要するようになった
証左でもあるような気がします。
「昔はよかった」なんて
悦に浸るような気持ちもさらさらないし、
「とうとう揺らぎのない世界がやってきた」と
虚無に浸る準備もまだ出来ていませんが、
青春が終わったとは断言できるような気がします。
僕の?
いえいえ、日本の青春が、です。

いながききよたか【Archive】2015.01.08

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