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映画『若武者』Dryden Theatre(N.Y.)ティーチイン

5/28(火)19:30〜 (日本時間 5/29(水 ) 8:30〜)、ニューヨーク州ロチェスターにあるDryden Theatreで『若武者』が北米プレミア上映されました。

Dryden Theatre(出展:https://www.eastman.org/)

Dryden Theatreは、ニューヨーク州ロチェスターにある、世界最古の写真博物館「George Eastman Museum」に併設された映画館です。座席数、実に500席・・・!

昨年10月の『枝葉のこと』上映に続き、二ノ宮隆太郎監督作品の上映は2度目となります。

上映後、N.Y.とオンラインを繋いでティーチインを行ないました。

ティーチインでお寄せいただいたQ&Aと感想をレポートします!

オンライン・ティーチインの様子

【Q1】映画のタイトルは「若武者」ですが、英語が母国語の人々にとっては「Young Warrior」と訳されるようです。この言葉は歴史的な背景ではどのような意味を持ち、映画に関連してどのような意味を持たせていますか?

【二ノ宮監督】ー「Young Samurai」という意味ですが、確かに「Warrior」でもありますね。戦争と平和な日常が実は紙一重であるということは、本作において伝えたいことのひとつでした。世界のどこかでは戦争が起きている中で、まだ死ぬ確率が少ない若者たちの人生を描きたいと考えていました。


Dryden Theatreの司会進行はCurator of Film Exhibitions のJared Caseさん

【Q2】前回の映画では、主に一人の若者に焦点を当てていましたが、今回は異なる性格を持つ三人の反抗的な若者を描いています。彼らは社会の異なる側面を表しているのですか?

【二ノ宮監督】ー社会の異なる側面と共に、どこにでもある日常を描きたかったことが主な衝動でした。
それぞれ違った個性を持った若者たちが、人生に疑問を抱きながらも互いに影響し合い、どのように生きていくのかということを映画にしたいと思いました。


【Q3】映画の中で、渉は「I'm full of prejudices. So much I hate myself」(自分は…偏見だらけの人間なんです…本当に嫌になります)と言います。自己嫌悪に陥ったキャラクターをどのように共感できるように描くのですか?

【二ノ宮監督】ー偏見はどこにでも、誰にでも存在するものだと考えていて、それを物語の最初に提示したいと思いました。映画を作る上で、とにかく綺麗事にはしたくないということは強く意識しています。

渉役 坂東龍汰さん Copyright 2023”若武者” New Counter Films LLC.

【Q4】後半で、英治は「Misery is dramatic」(不幸ってドラマになるからよ)と言います。ストーリーテラーとして、キャラクターに「悲惨さ」を求めるのはドラマティックな道具としてですか?

【二ノ宮監督】ーどの映画もドラマも、物語を「不幸」や「悲劇」によって駆動させているものばかりで、それが現実であるということを、フィクションの中で提示してみたいと思いました。

英治 役 髙橋里恩さん Copyright 2023”若武者” New Counter Films LLC.

【Q5】この映画では、多くのショットがアイレベルから離れ、低い角度や高い角度、またはキャラクターを背景が圧倒するようなスペースを多く残して撮影されています。映画を撮影する際のショット選択の戦略を教えてください。

【二ノ宮監督】ー自分のキャリア初期の長編作品では、主にリアリズムの観点からハンディでのワンシーン・ワンカット撮影を選択してきましたが、今回はカメラが切り取ったフィックス中心のフレーム・空間の中で、人物が動いていく世界観でこの物語を成立させたいと考えました。それは脚本を書く一文字目から決めていたことです。

光則 役 清水尚弥さん Copyright 2023”若武者” New Counter Films LLC.

【Q6】映画の終盤で、渉が喫茶店の店主に人がお互いに与える影響について話します。渉はそれを恐ろしいと感じ、店主はそれに慰めを感じます。この議論について、監督自身はどう思いますか?もう少し詳しく教えてください。

【二ノ宮監督】ー分かり合っているようで分かり合えない、分かり合えないようで、分かり合う。非常に曖昧ではありますが、人生そんなものだと思っていて、この作品の中で1番描きたかったシーンです。


【Q7】自然と人工物、都市と河原、さらにどこか懐かしくも聴こえるゲーム音楽など、時代や場所の設定が混在していたようにも感じるのですが、このようなコントラストはあえて構築し、シーンを構成しているのでしょうか?

【二ノ宮監督】ーコントラストを敢えて意識はしていませんでしたが、どの時代にも場所にも通ずる物語にしたいとは考えていました。どこにでもいる人間のどこにでもある日常の中に普遍的なテーマを見出すということは、自分が映画を作る上で大切にしていることのひとつかもしれません。


【Q8】どのようにキャスティングをしたのですか? 
あのキャラクターはどこから生まれたものなのですか?

【二ノ宮監督】ー渉役の坂東さんとは、初めて会った瞬間に「この俳優で物語を描きたい」と思ったのがきっかけでした。英治役の髙橋里恩さんは、自分が俳優として舞台に出演した時の共演者であり、光則役の清水尚弥さんはオーディションで選びました。
キャラクターに関しては自分の「闇」の部分をそれぞれの役柄に三分割して作り上げたので、全て自分自身から生まれたキャラクターです。

Dryden Theatre Instagramより

【Q9】何故あの墓場をローケーションとして選んだのですか?
またあの行き交う電車のタイミングは狙って撮ったものですか?

【二ノ宮監督】ーあの墓場は江戸時代の処刑場跡地で、何十万人という罪人を刀で斬首してきた場所です。
この物語の重要なモチーフに「首」があり、それを象徴するロケ地として、最初にあの墓場を選びました。絶え間なく通行する電車は、重要な会話に被らないちょうどいいタイミングで通過することを計算して撮影を行いました。生と死の狭間を描く上で、この上ないロケーションだったと思います。

墓地のシーン Copyright 2023”若武者” New Counter Films LLC.

【Q10】アスペクトについて。スタンダードサイズを選択することは、誰か4番目の若武者が見ているといった表現なのでしょうか?

【二ノ宮監督】ースタンダードサイズについては、小津安二郎監督や黒澤明監督、敬愛する成瀬巳喜男監督などが選択されていたもので、日本映画の伝統的なその画面サイズで、新たな表現に挑戦したいと考えていました。


【感想】セリフや、シーンの構成、全てにおいて素晴らしい作品を観させていただきました。誰しもが持っている闇ということに納得がいき、自分もそうであると認識しました。この映画をみて、自分の持っている陰と陽、二面性を改めて見つめるということが自分にとって良いターニングポイントになるのではと感じました。ありがとうございます。


現地時刻21:00過ぎから始まったティーチインは1時間を越え大盛りあがり。主人公3人の人物造形(監督の分身)や「影響を与え合う」という本作品の根底に流れるテーマ性に触れる芯をついた質問から、画角(アスペクト比)、ロケ地についてなど、N.Y.のシネフィルの皆様の感度の高さに感動し、世界同時期公開の手応えを感じたティーチインでした。


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