【戯曲】コンビニの面接に来たソリョーヌイ
劇団劇作家「劇読み!2024」(2024年1月20日@第Q藝術)で上演される、私の戯曲「短編集『覧古考新』」の中の、「チェーホフ『三人姉妹』より」に於いて、上演時間の都合でカットしたパートを公開します。
本来は第6場にあたる部分です。
「チェーホフ『三人姉妹』より」
作・木内コギト
■第5.5場
曽良縫偉(そりょうぬい)が、コンビニの面接に来た。
曽良「よろしくお願いしまっすー。あ、履歴書?…これ。…そりょう。そりょう・ぬいです。はっ、よく言われるんすけどね、日本人。100%、完全な日本人です。…あーいや、コンビニは経験ないっすね。…はぁ、まぁそこにも書いたんですけど。近所だし。募集の張り紙見たんで。ええまぁ。わりと来てます。いや、今は、他の仕事とかないすね。なんで、まぁ、いつでも入れるっちゃあ入れますよ。あ、でも自分の時間とかはいるんで。そんな毎日とかって、無理ですけど。…あー。詩。詩ですよ詩。詩を書いてて。はい。はっポエムって。まぁ短歌とかもやりますけど、散文詩が主ですかね。いや知らないと思いますけど。最近はレールモントフとかハマってて。ロシアの、最期決闘で死んじゃうんすけどね。バイロンとか、ユーゴ―とか、そっちの系統っていうか。は、知らないすよね。…土日?まぁ、別にいいすけど。時給変わるんですか。…そうすかぁ。え?まぁちょっと人間関係というか。や配送の仕事だったんですけど、店長が代わって、こいつが頭おかしくて。それで。…具体的?やみんな言ってましたけどね。経費削減か知らんけど、ドライアイスの量減らせって言ってきたり、あと労働時間も詰めろって言って、早く帰らされたりとか。で結局伝票整理とか、作業焦ってやらせるから、ミスとか出ちゃうじゃないすか。それで文句言われても知らねーよっていう。バカなんすよ。…まぁそゆ感じっす。あ、てか、土日時給同じっておかしくないすか?…ふーん。ちっ(舌打ち)そうすか。…え、研修時給?…あー。は、3日から5日って、決まってないんすか。…ちっ。そうすか。…あ、いや、舌打じゃなくて。これ癖で。癖っつーか。ちっ、なんか、鳴っちゃうんすよ。口が。これマジです。ちっちっちっ。…気にしないでください。…あー、じゃ一個いいすか。結構外人の人多いと思うんすけど、時給とかって変わるんですか。や、店員の話。…あ、へぇ。いやぶっちゃけ、時給変わんないなら、日本人のほうがよくないすか。…は、マジすか。前の職場だと、仕分けにはいたけど、お客さんとこ配達には行ってないんすよ。あんま印象良くなくないすか。…だって日本人のほうが、常識通じるし、言葉も通じるし、お店のイメージもいいでしょ。あいつら目離したらすぐサボるし。…いや差別とかじゃなくて。ガチで。…多様性~(笑)。でも、人手が足りないってだけでしょ。実際。まぁまぁ、そらしょうがないすけど、それで日本人の仕事減るのは本末転倒っていうか。まぁ普通に、俺が入ったほうが、店にとってもアドだと思うんすよね。…アド。爆アドっしょ。…あそうですか。…はい。(立ち上がる)…え、結果っていつぐらいに…。…。(去りかけるが)え、電話とか?…(まだ何か言いたそうだが、言うことが見つからず)…じゃあ。失礼しまーす。
(帰りかけたが、立ち止まる)
…ああぁぁーーー。…ちっちっちっちっ…。
(戻ってくる)
…すみません。あの、僕は、さっき、いささか不躾なことを言いました。すいませんでした。
あの、僕は本来、大人しい、争いを好まない人間です。真面目で、礼儀を重んじてます。それでもなんでか、面接とかってなると急に、我を見失って、おかしな方向に走ってしまうんです。…僕は日本を愛しています。日本人であることに誇りを持っています。仕事の上ではお客さんにきちんと接することができます。
コンビニの面接も、もう何件か落ちてて。そんな、多様性とかって、みんな本気で思ってるんですか。外国人の人権とか、そりゃ自分の飯の心配しなくていい人が、呑気に考えてることでしょ。あ、いや…そうじゃなくて。例えば、今戦争になったら、誰がこの国を守るんだろう、て考えるんですよ。日本人でしょう。だったら、日本人をまず優先するのは当たり前じゃないですか。
この国のことを本気で思うからこそ、おかしなことには、きちんと声をあげなきゃ、って。コンビニに行っても牛丼屋に行っても、店員が外人ばっかりって、ヘンなことじゃないですか。
いや、だから…。コンビニにいるのは、留学生とかでしょ。週28時間までしか働いちゃ駄目で。卒業したら働く資格もなくなる。それだったら、僕に働かせてくれよ、って。ちゃんとやりますよ。土日も必要なら出ます。それに…どうかしました?…調べたんです。仕事用の在留資格とか、技能実習生は、コンビニみたいな単純労働はできない。ですよね。…え?いや、詩は、別に、空いた時間に書けばいいし。…待ってください、もしかして、資格のない外人を不法に雇ってるんですか。…はぁ。ありえないですよね。雇ってる側も罪に問われますもんね。
(様子を見て少し考えていたが)…店長さん。
僕は本当に、戦争になればいいと思うんです。このクソみたいな世界で、なんのために生きてるかも分からず、飯を食うために汲々としてるより、もう一回ガチャを引くほうがよっぽどいい。そう思いません?それでインテリや金持ちがひっくり返ればいい。…だけどそうならないなら、社会の中で、法を守って生きていくしかない。…僕はここで働きたいです。もちろん押し売りはできません。ただ、僕が働けなくて、もし不法に働いている人がいるとしたら、それは、許せないかもしれない。…「さあれ、叛乱の子は嵐を求む、嵐のなかに安らぎありと」レールモントフ。
…じゃあ、連絡お待ちしてます。
…え。…それは、もちろん。仲良くっつっても、仕事だし。友だちにはなりませんけど。あ、土日は、できれば、外してもらえたほうが…あ、まぁ、必要なら、なるべく、出ますけど。
…そうだ。あと一個、これ前から思ってたんすけど、レジ係って、椅子に座っててよくないすか。
了。