7人の女侍 8話 ”美人で、気立てが良くて、盲目(!)Pt.2”

前回の下の投稿の続きです。

40代中盤ながら、整った顔立ちと大きなお目々を武器に、職場で「美人」としての役割を完ぺきにこなす女性事務員。

彼女を「母親になった橋本環奈」に例えて「マカナ」と呼びました。

そのマカナは「私の可愛さに触れたいのね。いいわよ」とばかりに来るもの皆に愛想を振りまきます。

一方、ある領域以内には決して入り込ませない、不可侵のバリアもまとっています。まるでATフィールドのようなそれに、何人の男が跳ね返されてきたことでしょう。

きっと、若いときからずっとちやほやされてきて、それを100%活かす方法も、面倒を回避する方法も、心得ているのでしょう。

もはや「職業:美人」です。


そんな彼女は「対人」に関してとても細かいところまで注意が回ります。

前回、私がクリーニングのタグつけっぱなしをよく注意されると書きましたが、そんな例の枚挙にはいとまがありません。


ある日私は、襟と袖が白で身体の部分は薄いピンクのYシャツを着て、タイを締め、その上からニットを着ていました。

Vゾーンから少し見えるピンクが遊びの差し色ですが、それがマカナの大きな瞳に止まったようです。

「○○さん、中にピンクのTシャツ着てるの?シャツに色が透けてるわよ」

元々こういう色のシャツです、と答えるとマカナは

「ホントだぁ!ウフフッ🧡」

うざっ・・と一瞬思いましたが、とにかく人を細々と観察しています。

なんでもウフフアハハでごまかせると思うなよ。
(私が美人に厳しめなのは前回のとおりです)


また、マカナは、その注意が及ぶ空間範囲も広いのです。

ある休日、車で信号待ちしていると、どこからともなくマカナの声が。
幻聴かと思いましたが、私の車を見つけて呼びかけたようです。

一時停止したすぐ横が偶然マカナの実家で、たまたま実家に帰っていたようです。「面白いの発見!」とばかりにニヤニヤとこちらを見ています。

しかし、信号待ちしている知人の車を見かけたとて、わざわざ大声で呼びかけるでしょうか?

私はプライベートを職場の人に目撃されたくないほうです。
こちらから見つけたら、むしろひっそりと身を隠してやり過ごすほどです。

プライベートは完全にオフの顔しているし、ましてやスーパーで「おつとめ品」コーナーを漁っている姿など見られた日には、会社でアレコレと面白おかしくイジられるに違いありません。

自分の名誉のために言い訳すれば、おつとめ品を買うのはフードロス削減のためです。

・・・そんなことはどうでもよいとして、とにかくプライベートの姿が雑談ネタとして女子会ランチのおかずにされるなぞ、まっぴらごめんです。夜のオカズにされるなら光栄ですが。

そのときは、わざわざ呼びかけた割にたいした話もないし、車中と軒下の間で気まずい空気が流れます。
そのときの信号待ち時間は、開かずの踏切並に長く感じたものです。


しかしそんなマカナの注意力、視野の広さは一目置かれています。
事務職として正確な仕事遂行の上ではそれが活かされるので、社員からの信頼も厚いのです。


しかし、彼女には決定的な問題があります。

仕事中の私語が、ものすごく多いのです。

誰からの会話も受け入れ、愛想よく話を続ける振る舞いが、裏目に出ています。

まだ紹介していませんが、マカナの後ろの席には、とにかくおしゃべりな女性が座っています。

この二人は仕事の手際が良いのか暇な時間が多いようで、しょっちゅう「おしゃべりタイム」が始まるのです。


「仕事をちゃんとやっているなら問題ないんじゃない?」

または

「注意してだまらせたら良いだけでは?」

と感じたのであれば、そのとおりです。
しかし、それが簡単にできないのです。


まず看過してはいけない理由は、マカナが私語に勤しんでいる間、必死で働いている他の社員がいるためです。

もとはといえば会社の業務マネジメントが悪いのですが、部門によって業務の偏りが酷いのです。

そのため、

「こっちは忙しいのに暇そうにしやがって、頭に来るよ」

と私に告げてくる社員が後を絶ちません。

しかし、その怒りが直接マカナに向けられることはありません。

なぜなら、美人だからです。

そして皆にちょっとづつ気を持たせているため、男たるや何かが起こる可能性がゼロでない限りは、美人には嫌われたくないのです。


更に深刻なのは、激務に追われる「他の女性社員」への影響です。

忙しければ、同僚や上司に少しでもサポートしてもらいたいものです。

しかしその上司が、わざわざ離れたマカナの席まで出歩いて、その瞬間日本で行われている会話の中でワースト10に入るであろうくらいどうでもいい話をしているわけです。

いくらその上司を男として見ていなくても、おもしろくない感情があるはずです。

「私のことなんてちっとも気にしてくれないのに、マカナさんには夢中なのね。」

というわけです。
女性は、普段はキモいとか言っている相手でも、自分に有利になる部分は男としての振る舞いを期待するのです。


これは私の単なる妄想ではありません。

実際に、マカナの私語がイライラしてやってられないということを理由の一つとして辞めていった女性社員がいるからです。


この問題を語り尽くすにはまだスペースが必要です。


〜完結編へ続く


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