「やりたい事がない」と言う子供にかける言葉がない
以前の記事でも書いたのだが、私は比較的早い時期に結婚をした。なので子供はもう大きく、次男は高校卒業を間近に控えている。そんな次男に進路についての希望を聞いてみても「分からない。特にやりたい事もない」という返答しか得られないまま時は過ぎて現在に至っている。自らきちんと考えて、たとえ仮決定でも構わないから何かしらの答えを出さなければならない時期だと思うのだが、残念ながら未だに回答は得られないままだ。私はそんな次男にどんな言葉をかけるのが適切なのか分からずに悩んでいる。
何しろ「やりたい事がない」というのは本当に良く分かるのだ。私も若い頃には同じようにやりたい事なんてなかったから。事実、幼少の頃から将来の夢を聞かれても「特にない」という返答しかしてこなかった。そんな私を両親は「夢のない子だ」なんて評していたが、それは正しい評価ではなかったように思う。私はお世辞にも勉強が出来る子供ではなかったが、かと言って愚かな子供でもなかったので大人が子供に将来の夢を問うている時は「どんな職業に就きたいと考えているか」を問うているのだと理解していた。そんな時に突拍子もない事を言ってみたり自身に適正のない職業を挙げるのは正答ではないと考えていたから、結果的に「特にない」という回答を選択していたに過ぎない。要するに私は夢のない子供ではなく、子供らしからぬリアリストだったというだけで、実際には「好きな人と結婚して幸せな家庭を築く」という平和で漠然とした夢を持っていた。それに勝るような夢を「職業ラインナップ」というジャンル違いな選択肢の中から見つけ出す事が出来なかったというだけなのだ。
近年の「小学生の将来なりたい職業ランキング」では男子児童ではスポーツ選手やYoutuberが、女子児童では保育士や教師などが人気らしく、医師や看護師といった医療系の仕事は男女問わず人気のようだ。時代によって多少の移り変わりはあるのだろうが、こういう回答をしていれば私も両親から夢のない子呼ばわりをされずに済んだのだろう。しかし、考えてみればこんな回答を夢があると評するのもどうかと思う。子供の夢なのにどうして労働を前提とした職業選択を夢として語らなくてはならないのだろうか。子供なのだから、それこそ叶うハズもないような壮大な夢を持っていても良いのではないか。それこそ「仮面ライダー」とか「プリキュア」とか、或いは「海賊王」とか「鬼殺隊」なんて答えた方がよっぽど夢があると思うし、方法論を一切すっ飛ばして「大富豪」とか「大地主」になりたいなんて答える方がより一層子供らしいように思える。ちなみにうちの長男は小学校低学年の時、学校で配られた将来の夢を書く欄に「ポケモンマスター」と書いていた。言うまでもなく成就し得ない夢ではあるが、子供らしさで言えば100点満点の回答なんじゃないかと思う。
人は誰しも働くために産まれてきたワケでも、働くために生きているワケでもないハズだ。幸せの形は人それぞれだとしても皆自分なりの幸せを求めて生きている。故に働く事は手段に過ぎず、働くという行為自体が人生の目的になってしまうのは好ましくないように思う。誇りを消失してしまうような仕事は論外だが、内容と得られる金額に折り合いが付きさえすれば仕事なんて別に何だって良いのではないだろうか。現に私がやっている仕事だって、ずっと続けていきたいなんて微塵も感じた事はなく、もっと楽で尚且つもっと多くの金額を得られる仕事があるのであれば、いつだって乗り換えてやりたいと考えていた。残念ながらそういう虫の良い話がそこら辺に転がっているような事はなかったので今の仕事をずっと続けてきてしまったが…。
恥ずかしながら、こういった自分の考え方が果たして正しいのか、それとも間違っているのかすらも私には分からない。けれども、世間からは偏屈な考え方と評されるのではないかという予感だけはある。だから私は次男にどういう言葉をかけるのが適切なのかが分からないのだ。「仕事なんて手段に過ぎないんだから何でも良いんだよ」なんて屈折した事を10代の青年に伝えて良いのかと考えると何かが違う気がするし「やりたい事がないならとりあえず進学したら?」なんて問題の先送りをするように勧めるのも、やっぱり何か違うような気がする。
子供の頃の私は、自分の親が立派な人間だと思っていたが「親も所詮はただの人に過ぎない」という事実に気付き、それを許容出来るようになった時ほど自分が大人になったと実感出来た瞬間はなかった。大人になるというのはそういう事なんだと思う。私が次男にかける適切な言葉すら見つけられずにいる駄目な親であるという事実に、次男は自ら気付いて大人の階段を一歩上ってくれるだろうか。それとも私が適切な言葉を見つけ出す方が先だろうか。こうしている間にもタイムアップは刻一刻と近づいている…。
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