内臓痛と関連痛のおはなし
鍼灸は内臓の病気に対しても用いられます。その対象となるのは主に慢性疾患です。急激かつ激しい痛みの場合、すぐに病院に行ってください。
鍼灸院に来院される患者さんは、腹痛はそれほど強くない(もしくはない)が、膨満感、食欲不振、便秘など、多くの症状を訴える傾向があります。
内臓痛と関連痛についてのおはなし。内臓には痛覚があまりありません。あっても、そこから脳に痛みを知らせるための神経線維はC線維(交感神経)ですから、いわゆる純粋な内臓痛は「鈍痛」となります。鈍痛以外にも交感神経の反応として、皮膚のざらつき、冷え、発汗などが見られます。
上部消化器(胃、十二指腸、すい臓など)病変は、どの臓器であっても、初期症状として腹部の正中線上のみぞおちの辺り(ツボでいえば巨闕・上脘・中脘)が痛みます。これはこの部位の深部にある腹腔神経叢が、まとめて痛みを伝達するためです。
この内臓痛がひどくなると関連痛が現れます。関連痛とは、内臓の病変が脊髄神経側にあふれたために起こる痛みのことで、伝達神経は脊髄神経のAδ線維ですから、純粋な内臓痛に比べると鋭く痛み、筋性防御といって局所の筋肉が硬くなる(コリ、硬結)などがみられます。
痛む部位によっておおよそ障害の部位を判断することが可能です。例えば、ボアス点(背中左10~12胸椎側点、挟脊穴または脾兪・胃兪)であれば胃潰瘍、モーバン点(小野寺胆石圧痛点-右背部)なら胆石、沢田G点や小野寺胆のう点(腹部右季肋部)は肝臓や胆のう・胆道疾患、プグリシィーアレグラ点(左季肋部)なら胃潰瘍や胃炎といった具合です。内臓痛から関連痛が生ずるということですから、関連痛が生じた場合慢性疾患に移行していることが考えられます。これらの部位に表出した痛みは、そこを圧したり皮膚をつまんだりすることで、より明確になるため圧痛点(もしくは撮痛点)といいます。
・ボアス点(脾兪・胃兪) → 背中左10~12胸椎側点 → 胃潰瘍
・モーバン点(胃倉) → 右背部 → 胆石
・沢田G点(期門近辺) → 右季肋部 → 肝臓、胆のう、胆道疾患
・プア点 → 左季肋部→ 胃潰瘍、胃炎
これらは病変を表すと同時に治療点ともなり、鍼灸は内臓痛・関連痛どちらに対しても有効です。皮膚ー内臓反射といって、治療点に鍼や灸によって加えられた刺激は、皮膚から神経を通じて内臓へと働きかけます。東洋医学的に表現すれば、「経穴刺激により経絡を通る気血の流れを改善し、臓腑の虚実を補瀉する」となります。
上腹部の病変の際の症状には痛み以外にも、食欲不振、悪心嘔吐、吐血、黄疸といったものがあり、病気や症状の要因として、過食や精神的ストレスなどが挙げられます。消化器病変を改善させることが目的であったとしても、慢性症状緩和のためには、冷えを取り、しっかりと眠れるようにして、体を疲労から回復させ、治癒力を向上させなければなりません。そのためには体質に働きかけることが非常に大切であり、鍼灸を行う際には、それを念頭に置き治療を進めていきます。
読んでくれてありがとうございます。治療の効果を上げ、根治に近づけるためには、過食やストレスなどの要因をできるだけ排除する必要があります。