マイペース過ぎるぜ、母上様
久しぶりに夢で会えた父に、叱られてしまった。夢の話の内容は全く覚えていないけど、後ろめたさみたいなものに心当たりはある。
最近、ゆっくり母の話を聞いてあげてない。
パタパタしているとか、忙しいとかは言い訳だと自覚しているが、どうも週末の予定の最優先が「母」とはならないのだ。
「子どもたちが会いに来ないし、誰もゆっくり私の話を聞いてくれない」と母がすねているのもよくわかっている。
気持ちにゆとりがあればゆっくり話相手をするんだけど、何かと忙しい時期には、週末にちょっと実家へ行って、母と10分ほど会話するのが限界で、話半分で「用があるから」と理由を付けて帰ってきてしまう。
しかし、亡くなった父が母を心配しているんだろうなぁって思って、母をショッピングセンターへ連れ出してみることにした。
買い物好きな母は、足が痛いはずなのに、足取りも軽やかに、ショッピングカートを押しながら自由に店内を動き出した。
当然、母の興味がある店ばかりに立ち寄る。
私が見たい店は「私は足が痛いから、あんたはまたひとりでゆっくり見にきたら?」と言うので、母の行きたいようにさせてあげた。
ニトリに迷わず入って行った母は、「枕が欲しいわ。」と言い出した。
「どんなやつ?」って聞いたら、「テレビで観たんだけど、わからんから店員さんに聞くわ!」と、スタスタと店員さんを呼びに行ってしまった。
店員さんに聞くのが大好きなお年頃だ。
「小泉幸太郎さんがテレビですごくいい!って買っていた枕が欲しいんですど、どこにあります?」
店員さんはすぐにわかったようで、母の言う商品のある場所へ連れて行ってくれた。しかし、品切れで置いてなかった。
母のように、テレビの影響で買いに来る人がたくさんいるんだろうなと思った。
「取り寄せましょうか?」という店員さんに、
「ここにいつ来られるかもわからないから、もういいわ。でも、テレビで小泉孝太郎さんと一緒に買い物してた俳優さんが買った〇〇って商品はあるかしら?」
と、完全に情報番組に感化されて、いろんなものを買いたくなっているようだった。
ラッキーなことにそれも品切れだった。
私はキッチン用品をゆっくり見たかったのに、母のニトリへの興味がすっかり失せたので、ニトリを出ることになった。
母さん、めちゃくちゃやりたい放題だな。
次に母は、運動靴が欲しいと言い出した。若者が買いそうな靴屋さんに入ると、またすぐに母は店員さんを呼ぶ。
「私、靴の幅が広くないとダメなんだけど、幅が広くて、紫色の靴ってあります?」
む、むらさきかぁ!
見たらわかる。
そんなものはない。
それでも店員さんは優しく母に話しながら、それっぽいコーナーへ誘導してくれた。店内唯一の紫色の靴だが、キャピキャピした雰囲気の靴で、当然、幅はあまり広くない。
母は、「もういいわ。デパートに行くから。」と、いらん一言を放ってスタスタと店を出た。
母との買い物は、店員さんに失礼なことを言いそうでいつもヒヤヒヤする。
私は店員さんに「ありがとうございました。」と言って、丁寧に頭を下げて店を出た。
おいおい、自由過ぎだよ、母さん。
そして母は、今度はカバンも見たいと言い出した。
きっと母が気に入るものはないだろうと思った。それでも、カバンの店に付き合ってみた。
少し離れて、私も品物を見ていたら、
「琲音〜、琲音〜、ちょっときて!」
と私の名前を大声で呼ぶので、「名前で呼ぶのは勘弁してくれ~!」って思いながら、呼ばれるたびに走って母のところまで行き、母が気になるバックに感想を述べた。
バックを肩に下げた自分を長い鏡に映しながら「ちょっと〇〇だから、これはあかんわ。」と、結局、ダメ出しするだけの母。
それを繰り返した後、「デパートで買うからいいわ、もう家に帰ろっか!」って思ったままを母が言うので、食材だけを買ってすんなり帰ることにした。
子どもの頃の母は、すごくしっかりした常識的な大人に見えていたんだけど、いつの間にか、母は子どもみたいになってしまって、やっぱりちょっと寂しく思う。
バックミラー越しに見える後部座席の母は、ご機嫌な顔をして前のめりでおしゃべりしている。
「楽しかったね、また行こうね。」
って言われて、やれやれと思いながら車を走らせた。
母を実家に送り届け、車から降りた母が
「あんたも大変なのにね。自由な時間があんまりないのにね。旦那さんにも申し訳なかったわ。よろしく言ってね。ごめんね。」
と言うので、やっぱり母親だな、とも思った。
母と別れた後、「父さん、もう夢で私を叱らないでよね」って心で呟きながら、母がたくさん歩けたので、まぁ、よかったのかなと思うことにした。
次はデパートに母を連れて行こうかな。
ただし、あのやんちゃな母は一人では手に負えないので、できれば妹も一緒がいいなぁ。