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50代女子の、ハレの日の洋服選び

華やかな場へのお誘いはとっても嬉しい。でも初老真っ盛りの私は、何を着て行こうかと激しく悩む。

私くらいの年齢の女性にはどんな洋服がその場にふさわしいのか、それがよくわからない。

若い頃ならこんな時は、色鮮やかなパンツスーツも、袖がないワンピースも、なんの戸惑いもなく着ていたし、何を着ようかを考えるのもすごく楽しかった。

でも50代も半ばになっちゃうと、体は重力に負けてタレタレしてくるし、タルンタルンな二の腕も出せなくなるし。
加齢ってヤツはどうにもならない。



来月、ある式典に出席することになった。
そして春には、昔、中学校に勤務していた頃の教え子たちの同窓会にも招待されている。

どちらも立派なホテルで開催されるので、ドレスコードを設けていなくても、そこそこ場をわきまえた正装をしなくてはならない。

すごく行きたいのだけれど、洋服のことを考えると、ちょっと気が重くなってしまっていた。

普段の私は、今の季節なら上はパーカ、夏なら前開きのシャツ。
下は綿パンかデニムのパンツ。
この数年は特に、ガシガシ洗えて作業に最適な楽ちんウェアばかりを着るようになっている。

もちろん、子どもたちの入学式や何らかのセレモニーなどではきちんとそれなりの服は着ていた。
ただほとんどを、簡素なデザインの、グレーや紺色、黒系のパンツスーツで済ませてしまったので、華やかな色のおしゃれな正装を持ち合わせていない。

式典で着るなら、そんなひと昔前に着ていたちょっときれいめママスタイルでも良さそうだけど、数年も前に着ていたタンスの肥やしたちは時代遅れ感が強過ぎて、なんだか今さら着られない。



せっかくの機会だし、久しぶりに私に訪れたハレの日だから、思い切って服を新調したくなった。

礼服のようにフォーマル過ぎないけれど、上品で清楚さに華やかさもプラスしたコーディネートを「セミフォーマル」と表現するらしい。

なるほどなるほど。

早速スマホで、「50代女性 セミフォーマル おしゃれ」で検索してみた。

なんとなくどの写真も50代とは思えないようなスタイル抜群の若い方が着こなしていて、頭の上をハテナ?が飛んだ。自分が着ているイメージがイマイチわかない。

変に若作りしてイタイのは嫌だし、かといって、リクルートスーツ並みのカチカチな正装は嫌だし。

高級なブランド品は、この先あまり着ないだろうからもったいないし、かといって、あまりに安っぽい感じの洋服はテンションが下がるし。

スマホをビュンビュンスクロールしていて、私と同世代っぽい女性が着ている「長めのワンピース&やや長めのジャケット」姿の写真を見つけ、「あら、これならいいかも」と、じっくり見入った。

苦手なワンピースでも裾が長ければ足はなるべく隠れるし、ジャケットでお尻辺りまで隠れていれば、気持ち的に落ち着く気がする。

あれこれ隠れる感じで着れば、なんとなくいいんじゃないのか!

ただし、ネットで買うのは失敗しそうで怖いので、妄想をパンパンに膨らませて、正月明けにぶらりと買い物へ出かけてみた。



あの写真のイメージに似たものを探すため、とりあえずそれっぽい雰囲気の店をちらちらと覗く。

私の買い物はいつも、最初だけやる気が出てワクワクしている。
でもあれこれ商品を見ているうちに、だんだん全部が一緒に見えて来て、考えることに飽きて来て、最後は「もう、これでいいわ!」って、半ばヤケクソでそこにあるものを買ってしまいがちだ。

だから、いい感じだと思った店をまずは見つけて、クリアな頭で服を選ぼうと思っていた。


10分ほど歩いて、ある店に飾ってあったディスプレイのマネキン人形に目が留まった。

オフホワイトが強めのグレンチェック柄。ノーカラーで切りっぱなしみたいなフリーカットのジャケットが、カチカチ過ぎず、カジュアル過ぎず、わりとゆったりとしていて品があり、いいなと思った。

店の奥には、落ち着いた雰囲気の長めのワンピースが数点並んでいる。

くすんだ色目のピンクやグリーン、ベージュや黒、紺、といった落ち着いた色のワンピースの中から、私の好きな紺を手にとってしまう。
色の冒険はやっぱりできそうにない。

素材もしっかりしていてラインもきれいで、何よりデザインがシンプルで良いと思った。
もちろん、ノースリーブではない。

ジャケットと合わせてみたら色合いもぐっと華やかになり、ますますいいと思えてきた。


ドキドキしながらワンピースとジャケットを手に持ち、「試着したいんですけど」と店員さんにこちらから声をかけてみた。

ザ、ワンピースみたいなワンピースを着るのは何年ぶりだろう。

上から被るのか、下から履きながら着るのか、久しぶり過ぎていったん迷う。
破らないようにどうにか着てみて、鏡の私に「あら、可愛い!いや、恥ずっ!」とか呟いてしまった。

ジャケットを羽織ると腰のあたりまで隠れて、包まれるような安心感でいっぱいになった。

恐る恐る、試着室のカーテンを開けると、

「わぁ、素敵ですね!サイズもピッタリだし、すごくお似合いです!」

という店員さんの決まり文句が飛び込んできた。お世辞だとわかっていても、ちょっと嬉しくなる。

黒いパンプスをお借りして試着室から出て、鏡であらためて全身を見た。

なんというか、華美ではないが華があって、ガンガン主張しないけど時代遅れ感はなく、スマホで見たあの写真にわりと近い。

何より、着ていて安心感があるのがいいと思った。

店員の彼女に「50代でも大丈夫ですか?」とか、「キチンとした式典で着るのですが、こんな感じで大丈夫ですか?」とか質問し、わかりきった答えをもらって、この二点を購入することにした。

私にしては思い切った買い物をしたが、着ていて気分が上がるような洋服に出逢えたことに満足した。



ご機嫌に帰宅して、すぐに夫に洋服をジャーンって見せたら、彼から

「なんか、議員さんみたいだな。」

と言われて、着る気を失うほどガッカリしてしまった。
議員さんかぁ、た、たしかに…。
悔しいけど上手いこと言うやん!って笑いたい自分もいる。

絶句している私をフォローしようと、夫がさらに、「まぁ、気にしなくても、誰もお前を見てないって!」っていう失言を重ねてきたが、スルーした。

50代でも女子なんだからそれはないでしょ!って思って、万年ジャージおじさんに洋服を見せたことを深く後悔した。


華やかな場に不慣れな、ローカル50代女子が着る一張羅は、こんなもんでしょ。

せっかくのハレの日なので、胸を張って、この際思いっきり議員さんになりきってみようかな。



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