フジロック17回目で楽しみ方を再確認する。
今年もフジロックへ行ってきた。
2022年からは3年連続、1997年の第一回目から数えれば17回目の参加だ。
色んなところで公言しているが、僕は台風直撃の1997年から2008年まで12回連続で行き続けた。
第一回目の頃が20歳だったので、僕の20代はフジロックと共にあった、と言っても過言ではない。
その頃、フジロックを共に楽しんだ(当時の)会社の同僚とは今ではすっかり疎遠になっているが、年一回くらいで会っても僕らは昨日ぶりの再会のように話をする。今でも大事な友だちだ。
僕が30代に差し掛かった2000年代中頃には、当時隆盛を誇っていた国産SNS・ミクシイのコミュニティを通じて、東海地方のフジロッカーとも知り合うことができた。そんな年齢で新たな出会いに恵まれることなんて、滅多にあるものじゃない。フジロックのおかげだ。
そういう様々なバックグラウンドを持った人々との出会いを経て、僕自身も音楽イベントを始めたりアウトドアに夢中になったりと、新しい扉を開いてきた。
家具職人の修行で2009年に就職した町工場では個人的理由での長期休暇が取得できなかったので、フジロックは10年ほどおあずけとなったが、離職した翌年の2018年(念願のボブ・ディラン出演!)からまた行き出した。
その頃には、同僚を含む昔の仲間たちは皆家庭の人となっていて、相変わらず一人身の僕だけがフジロックに帰還したようだった。
そこから2019年・2022年・2023年・今年と、5回のフジロックはずっとソロでの参加だ。
正直、ひとりフジロックは非常に楽しい。
やはり、誰に気兼ねすることなく自分のペースで動けることが大きいし、昔と違ってネットワークが発達した今は情報の取得も感動の共有も容易い。
親しい間での馬鹿騒ぎが楽しかった20代の頃には考えられなかったが、ある程度精神が成熟した、というのもあるのかも知れない。
今年は、キャンプサイト券と7/28(日)の一日券を購入して参加した。
もちろん、会場への滞在は例年通り前夜祭を含めた4日間だ。
費用的に通し券を購入する余裕がなかった、というのもあるけど、キャンプサイト券だけでどこまで楽しめるか?という実験の意味合いもあった。
目論見としては、入場無料の前夜祭、キャンプサイト内にあるピラミッド・ガーデン、入場ゲート手前にある深夜帯ライブエリアのパレス・オブ・ワンダーで楽しむ、といった具合だ。
結論から言えば、非常に楽しめた。
前夜祭である木曜18:00からのゲート・オープンは、入場無料だ。
屋台が立ち並ぶオアシスエリアで盆踊り~打ち上げ花火のあと、会場内唯一の屋根付きステージのレッド・マーキーで20:00から、4時間の前夜祭ライブが始まる。
当日にラインナップが発表されるとはいえ、一年間フジロックを渇望してきたオーディエンスのテンションは異常に高く、このなんとも言えない高揚感が僕は大好きだ。
ライブのセットチェンジにおける DJ MAMEZUKA のフジロッカーの期待に的確に答える選曲も信頼度が高い。
本当の意味でのフジロックの楽しさを理解するには、前夜祭への参加は不可欠だと僕は思う。
キャンプサイト入口から見ると、入場ゲートの真逆方向である苗場プリンスホテルの裏手に位置するのが、アーティストのキャンドル・ジュンがプロデュースするピラミッド・ガーデン。
広い芝生にアウトドア・ロッキングチェアやハンモック、焚き火台が常設され、一番奥にステージがある。
午前中は毎朝8:30にヨガ講座が開かれ、そのあとにライブ2本。
夕方にはDJによるゆったりとした音楽が流れ、会場内でのライブが終演する時間帯にまた緩めのライブ2本。
場内の喧騒とは異なる時間が流れているような、フジロック随一のリラクゼーション・エリアだ。
近年思うことは、此処こそがフジロックにおける本当の"ヘブン"であり"オアシス"じゃないだろうか?ということだ。
たとえば、フジロックのメインであるグリーン・ステージ後方にいる「ウェ~イ」な人達が(それはそれで良い楽しみ方)此処では基本的に見られない代わりに、遊具があるので子供達が駆け回る。
僕のような、マイペースでフジロックを楽しむソロ派の人達もよく見かける気がする。
位置する場所が場所だけに、ラインナップ目当てでフジロックを訪れる人達はまずここまで足を運ばないのだろう。
もちろん、フードやドリンクも充実していて、アウトドアグッズなんかも売っていたり。
特に、雑貨の販売ではフジロック内で此処が最も充実しているんじゃないだろうか?
晴天時に日差しを避ける場所がないことだけが難点だけど、そこに目を瞑れば此処ほど快適なエリアは、ドラゴンドラ頂上の DAY DREAMING and SILENT BREEZE だけだろう。
無料(キャンプサイト券は必要だけど)であれば、言わずもがな。
来年からはリニューアルする、という話だけど、どう変わるのか今からとても楽しみだ。
入場ゲートの手前に場外屋台エリアのイエロークリフ、そのまた手前にあるのがフジロック深夜のアミューズメントパークであるパレス・オブ・ワンダーだ。
此処には、木造クラブハウスのクリスタル・パレス・テント、フジロック厳選のインディーズ・バンドがしのぎを削るルーキー・ア・ゴーゴー、そしてサーカスやバーなど、ピラミッド・ガーデンとは打って変わって非常に賑やかな場所だ。
特に、前述のクリスタル・パレス・テントは、ヴィンテージ・レコードのDJとバンドで一晩中盛り上がるクラブイベントの趣で、深夜のレッド・マーキーのようなテクノ中心のダンスエリアとは一線を画す雰囲気。
音楽性で言えば、僕の敬愛するザ・クラッシュの「ロンドン・コーリング」を思わせるスカ、ソウル、ブルースやロカビリーが入り交じる、大人の不良的なダンスホールといった具合のカッコいい空間だ。
非常に僕好みなエリアながら22:30~5:00というド深夜時間帯の営業なので、一日中会場内をうろつきまわった後に此処で踊り明かすなど、流石に無理な相談である。
だが、今年は違う。金曜・土曜は昼間に充分に睡眠を取ったうえで、この魅惑のクラブハウスをたっぷりと堪能することができた。
此処をじっくりと楽しむことが入場券を買わなかった理由の一つでもあり、僕にとっての今年のメインエリアと言っても過言ではない。
実際、此処での夜は非常に楽しかった。
フジロックでは創成期の頃からお馴染みのギャズ・メイオールと、彼の仲間たちによるDJも最高の選曲だったし、日中は主にフィールド・オブ・ヘブンなどに出演するルーツ色の濃いバンド達も、当然ながら非常にクオリティの高いライブを観せてくれる。
DJとバンドによるイベントの最高峰のような、極上の夜だった。
その他にも、ひとたび外に出ればアクロバティックなサーカスのパフォーマンスも観覧でき、ちょっと奥に行くと街のライブハウスを思わせるルーキー・ア・ゴーゴーで生きの良い音で飛び跳ねることができる。
ただ、このエリアでのパフォーマンスが始まる頃は、ちょうどグリーン・ステージのヘッドライナーのライブがはねた時間帯で、大半の人はそのまま素通りしてしまう。
体力的な問題であれば仕方ないとはいえ、こんなに盛り沢山なエリアなのにもったいないな、と思ってしまう。
「メンツが弱い」と言われた今年のフジロック。
個人的な思い出としては、レイジ、レッチリ、フー・ファイターズ、グリーン・デイ、プロディジー、ベックなど、錚々たる名前が並んだ第一回目のフジロックに心がときめき、即座に行く手続きを整えた20歳の頃は遠い昔。
その頃の僕に、今年のメンツを見せて心がときめくか?と問われれば、如何せん言葉が出ない。
ただ、僕もフジロックもそれなりに成熟した今、個人的にはメンツの良し悪しなど些末なことに過ぎなくなった。
前夜祭を含めた4日間で観たライブはいずれも初見のグループばかり(というか殆どが初出演)だったが、つまらないライブなど一つも無かった。
つまり、フジロックに出演するグループはたとえ無名であっても、いずれも一定水準のクオリティを持っているということ。
フジロック出演という時点で、既に信頼度が高いのだ。
(むしろ有名なミュージシャンやバンドのほうがマズいライブをすることがあったり...)
お目当てのバンドやミュージシャン以外に用はない、という人には何も言うことはないけど、あらゆる角度にアンテナを立てている生粋の音楽好き(僕だ)にとっては、これほど楽しい空間は無い。
僕が今回主に楽しんだ前夜祭もピラミッド・ガーデンもパレス・オブ・ワンダーも、乱暴に言ってしまえばメインアクトに付随するフジロックのオマケみたいなものだ。"余白部分"とでも言おうか。
しかし、その余白だけでも楽しみ方を構築するのは充分に可能だ。
そのフジロックの自由度の高さが、僕を惹きつけてやまない。
キャンプサイトから眺める夏山。夜のボードウォークに輝くミラーボール。ところ天国の川べりで涼をとる人達。アヴァロン・フィールドの丘にそよぐ風。そして、ステージ間の途上に遠く響く音楽と歓声。
それらの余白も、実際に現地に行かなければ感じることができない素晴らしい瞬間であり、配信では絶対に伝わらないフジロックの魅力なのだ。
1999年の苗場開催から今年で25年。
思えば、その頃からフジロックには"余白"があったように思う。
サマーソニックがまだ開催されず、ブラー、レイジ、ケミカル・ブラザーズ、アンダーワールド、ブラック・クロウズなどのビッグネームがラインナップされた裏で、当時日本ではほぼ無名だった PHISH が3日間出演するフィールド・オブ・ヘブンは、その最たるものだ。
若者が洋楽を聴かなくなり、メンツの豪華さではすっかりサマーソニックにお株を奪われてしまっているフジロックが今後どうなっていくのかはまだわからないが、僕はこれからもその時々で楽しみ方を構築し、参加し続けるだろう。
来年も楽しみだ!
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