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STEMを活用した探究学習とは
最近関東の高校で、「STEM教育の一環としての探究学習」の授業サポートをさせてもらえる機会があり、その際に「STEM」と「STEMを使った探究学習」についての私見がまとまったので文章にしてみようと思います。
おまえはだれ
コンサルタント・エンジニアとして企業のDXの手伝いと、小中学生向けのSTEM教室の開催及び教材作成、宇宙サイエンスメディアの運営を生業にしています。
大学では理論宇宙物理学で博士号を取り、その後ゲームプログラマを経て自動車業界で自動運転システムの開発や研究に携わってきました。STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)の全ての領域で残業多めで働いてきたので、現場からの視点として少しは理解があるつもりです。
STEMってなに
本題に入る前に、「STEMとは何か」をもう一度整理してみます。
STEMという言葉は、教育政策やビジネスの文脈でよく耳にしますが、その中身はもうご存知でしょという前提で話が進むことが多く、なんとなく「重要」な概念だと、理解が曖昧なままでいる人も少なくないのではないでしょうか。
STEMが何かを考える前に、Science, Technology, Engineering, Mathematicsそれぞれの単語が何を意味しているのかと、その関係性を知っておく必要があります。
大学時代は理論物理学、その後はソフトウェア開発、そして自動運転技術と、私はこれら4つの要素すべてに日常的に触れる道のりを歩んできました。
しかし、最初STEMと聞いたときは正直ピンとこず、調べてみても「これら4つのの単語をまとめた新しい概念だ」だとか、「変化の激しい時代に必要なスキルだ」だとか抽象的な説明しかなく、腹落ちする説明をなかなか発見できずにいました。
そもそも、Science, Technology, Engineering, Mathematicsと聞いて、ScienceやMathematicsはなんとなくイメージがつくものの、TechnologyとEngineeringに関してはこの2つの違いがよくわかりません。
現にこの違いを腹落ちするような説明もネット上にはほとんどないなという印象でした。
ですので、この説明が、学校の先生方に理解され、授業に落とし込むための一助になれば幸いです。
STEM
![](https://assets.st-note.com/img/1734419088-Bt8GCgRjnbF4yx65kHc3DfYP.png?width=1200)
これが、単語の意味と関係性をまとめた図です(私個人がもつイメージです)。
自然界に存在するルール(法則)を、どのように我々人間の生活へ伝わり、利用されるに至るかの流れとして描いています。
各単語は、自然界と人間の間にある「境界」の橋渡しをするイメージです。
S: Science
Science(科学)は、この宇宙や世界がどんなルールで動いているかを知るための学問です。
ものは高いところから低いところに落ちるとか、塩酸と水酸化ナトリウムが混ざると食塩水ができるとか、人間の意思や意図に関わらず働く自然のルールを、できるだけ多く知りたいというのが大きな方向性です。
ここでは、まだ「人間にとって都合が良いかどうか」という観点ではなく、純粋に「自然とは何か?」を突き詰める段階です。
T: Technology
Technology(技術)は、この科学で明らかにした自然のルールを、人間にとって都合よく使うための方法を取り扱う分野です。
自然のルール自体は人間にとっての都合よく出来ているわけではないですが、テクノロジーは自然のルールを組み合わせたり操作することによって、人間に都合のいい結果をもたらすことを目的にします。
例えば、コイルに電流を流すと右ネジの法則に従って軸を貫く磁場ができるという自然のルールを使って、永久磁石と組み合わせることで、回転運動が得られ、これをいろんな機械に応用できるモーターが作れるといった具合です。
E: Engineering
Engineering(工学)は、テクノロジーで見つけ出した自然法則の活用方法を、実際に人間が使えるものに落とし込み、物として作り出すことを指します。
モーターが効率よく回るためにどういう形にしたらいいかとか、どんなギアを組み合わせればより力が引き出せるかなどです。
作った物は人間が使うことが前提なので、STEMの中で最も人間的な部分の影響を受けやすい領域だといえます。
M: Mathematics
Mathematics(数学)は、自然のルールを定式化し、矛盾のない形で予測・検証するための言語・道具です。
例えば科学の発見により、何かの方程式が導けたとしても、それを解いて将来の物体の運動が予測できなければ意味がありません。
数学を使えば、例えば打ち上げた人工衛星が何年後に落ちてきそうかだとか、自動車のハンドルを何度傾けると車がどれくらい曲がるかなどが、実際に人工衛星を飛ばして落ちるのを待ったり、自動車に乗って試さなくても計算で求めることができてしまいます。
探究学習とSTEM
今、学校教育では、生徒が自ら課題を設定し、情報収集・整理、分析、そしてまとめ・表現のプロセスを通じて問題解決を図る「探究学習」が求められています。文部科学省の提言にも「総合的な探究の時間」を重視する記述があり、これはすなわち、生徒たちが自分なりの問いを立て、未知の問題を解明していく力を育むことを期待している証拠です。
学校教育においては,生徒自らが課題を設定し,情報の収集,整理・分析,まとめ・表現といった探究のプロセスを通して,問題の解決を図る学習活動が一層求められている。
私が最近サポートした関東の高校でも、STEM教育の一環として探究学習に取り組む姿がありました。
生徒たちは自身の取り組むスポーツに関するものや、大学で勉強したい文学のこと、また、環境問題やエネルギー問題など、社会で実際に起きている課題に目を向け、独自の視点で深めようとしていました。
しかし、問題の深掘りや仮説の立て方、また検証の方法など、「正解のない問い」に立ち向かう方法がわからず調べ学習で終わってしまいそうな生徒たちがたくさんいました。
探究学習で鍵となるのが、STEMが本質的にもっている「再現性」という性質を知り、活用することだと思っています。
この性質を使って、「問いを立て」→「仮説を立て」→「実験をし」→実験結果を「検証」する。検証結果によって仮説を立て直す。
このサイクルを回すことこそ探究学習であり、ここで得られる知識以上に、この経験は将来のどんな場面でも役立つスキルになるはずです。
この探究学習サイクルについてはまた詳しく書こうと思います。