【考察】2020年バズった曲が何故バズったのかを考えてみる【香水/夜に駆ける/夜永唄】
好きなバンドは絶対売れると思って応援していることに対し、今流行ってる音楽がなぜ売れてるのかわからないことが多いことに疑問を感じ、今バズってる音楽が何故バスってるのか知りたくなった。
今回のピックアップするのは主にTikTok発のティーン世代から絶大な支持を受ける3曲を解剖。
香水/瑛人
2020年のNo.1バズ曲。紅白出場おめでとうございます!
テレビでの歌唱も22歳とルーキーでライブ実績の少なさに対して、堂々と歌っていてとても好感触。
1.曲がシンプル
ギターと歌だけのシンプルな曲。現在シンプルライフやミニマリストなど流行っているから、音楽もこういうシンプルな曲も流行って当然かなと思う。
サビのメロディもシンプルで、覚えやすいのもポイント。
2.楽器初心者でもコピーしやすい
これはステイホームが影響していると思う。
高校生になったら軽音楽部に入ってバンド組もうと思ってたのに、そもそも学校に行けなくなってしまったとかほとんどの子がそうだと思う。
バンドなら大体3〜5人で組んで「課題曲決める→個人練習→バンドで合わせる」の行程は絶対外せない。ソロで弾き語りの人気としてはあいみょんや米津玄師が人気上位を占めているけれど、ほとんどがバンドセットの曲である。
対して「香水」は一人でギター1本で曲が弾ける。
このいい意味での手軽さが、手をつけやすかったのかなと思う。
カバーするにも「香水」の素材は歌とギターだけだから、アレンジでベースを加えてもよし、ピアノにしてもよし、ドラム入れてみてもよし。
「Less is more(少ない方が豊かである)」という言葉があるように、”シンプルさ”は想像以上に無限大である。
3.チョコレートプラネットの再現MV
何回間違えて再生したことか(笑)もはや説明不要。
人気実力派芸人のチョコプラが再現動画を投稿したことが一番のバズの要因。
4.ココリコ遠藤×狩野英孝のクセアレンジ
続けてお笑い芸人さんから「ドルガバ!ドルガバ!」が頭から離れないココリコ遠藤と狩野英孝のクセが強いアレンジ。
「チョコプラの香水を見る→本家(瑛人)確認→クセのある香水を聴く→本家(瑛人)確認」の無限ループで怒涛のトルネードバズ。
夜永唄/神はサイコロを振らない
LINE MUSICでは数々の超人気アーティストを抑えて1位に輝いた福岡出身ロックバンド、神はサイコロを振らないの「夜永唄」。
神サイに関してはファーストシングルの頃から応援している地味に古参でございます。
1.孤独に寄り添う共感バラード
2020年は突然一人の時間が増えた上に、著名人の突然の永遠の別れも多く、寂しさを感じることも多かった。
特に1人は寂しいと思いがちなティーン世代が、友達や恋人と会えない孤独な時間を過ごし、そのセンチメンタルな思春期の孤独に寄り添う歌詞と、切ないバラードで強い共感を得たのだと思う。
”こうして心ごと閉じ込めて
あなたが弱り切った僕から離れていかないように”
”枯れ果てたはずの涙がまた零れて”
”秋が終わり消えていったあなた”
生きていても、星になってしまっても、大切な人を失った悲しみはどれだけ歳を重ねても痛いほど染みる。
2.「THE FIRST TAKE」チャンネル「THE HOME TAKE」への出演
人気チャンネル「THE FIRST TAKE」シリーズである宅録バージョンの「THE HOME TAKE」に出演。
ピアノバラードでのスペシャルアレンジで、柳田の表現豊かな歌声でオリジナル曲とはまた違った曲の魅力を引き出し、再生回数は300万回を突破。
3.リスナーの口コミをきっかけにMVを制作
寄せられたリスナーのコメントを元にMVを制作するという、1曲でMVの制作は2つと異例の展開。
俳優はドラマ「MIU404」のREC役で脚光を浴びたイケメン若手俳優・渡邊圭祐さんがご出演。
人気若手俳優である渡邊圭祐さんの出演はもちろん、”リスナーのコメントをきっかけに制作”したことが1番のキモで、実体験や等身大のエピソードを音楽や芝居に落とし込むことで、共感をさらに呼ぶ。
4.TikTokでのバズ
ボーカル柳田本人もTikTokをやっていることもあり、TikTokでのバズが一番の決定打。では何故TikTokでバズったのか?個人的な見解で考えてみた。
理由①印象的な歌い出し
「YouTubeの動画を最後まで再生するのは最初の5秒で決まる」なんてデータもあるぐらいで、YouTubeがメインコンテンツとなった今は5秒も見ないひとの方が多いかも。
この理論と同じく、膨大な音楽があるなか最後まで聴いてもらうには、一番最初にメインのサビや歌い出しのAメロを持ってくることで印象付け、最初から”絶対にいい曲だ”と思わせる効果が期待できます。
「夜永唄」は「どうして心ごと〜」が印象的な歌い出しのAメロから始まり、サビの盛り上がりからそのままAメロと同じ歌詞とメロディで終わるので、曲構成的にはリスナーの耳を掴みやすかったのかなと思う。
イントロが歌い出しの名バラードといえば、ドラマ「流星の絆」の主題歌の中島美嘉の「orion」と、米津玄師の「アイネクライネ」が代表的ですかね。
アイネクライネ/米津玄師
「orion」はサビはじまり&歌い出しという秘儀のダブルコンボ。
理由②ギターコードが簡単
「香水」同様、「夜永唄」はバンドサウンドですが弾き語りのコードがとても簡単。いくつかギターコードを掲載しているサイトはありますが、どれも簡単なんです。
ギター初心者向けと言われるのは、最難関の「Fコード」が使われていないこと。
これがFコードですね。家にギターがないので、写真をネットで拾ってきました。
ミュージシャンは難なくギターを弾きながら歌っているけれど、ギター始めたばかりの方ってこのように指が開かない上に、人差し指で弦全体を抑えることがすぐに出来ない。だから最初はFコードが抑えられなくて当たり前なのです。
だけどこのFコードの壁が越えられなくてギター自体挫折したり、ドラムに移行したりする人もよくいます。
このFコードが使われていないだけでギターへのハードルがグッと低くなり、歌も一般人も歌いやすいキーだからこそ、様々な人がコピーやカバー出来やすく、バイラルヒットに繋がったのかなと思う。
理由③季語を用いた日本語の歌詞
”金木犀の香りが薄れていくように”
ここが一番印象的なフレーズかなと思うのだけど、季語を用いることで”エモさ”を演出。フィルムカメラや喫茶店など、レトロなものが流行っている令和の若者にとって”エモさ”は必須の感受性。
特に金木犀の香りは万人共通で懐かしさと、秋の情緒を感じる香り。残暑の寂しさと、だんだんと冬に近づく儚い秋の感傷さを”花の香り”で表現した歌詞が、日本人が美しいと感じる日本語の奥ゆかしさに打たれたのかなと思う。
5.神木隆之介様が聴いている
日本の宝である俳優・神木隆之介様が聴いてくださっているを超えて、カラオケの十八番だそう。
Q2. ひとりカラオケがお好きと聞きましたが、十八番は?
神はサイコロを振らないというバンドが好きで、最近よく「夜永唄」を歌いますね。
MVにイケメン俳優の渡邊圭祐さんの出演でさえありがたいのに、天下の神木隆之介様が聴いてくださっているとは、なんて尊い世界なんだ。
ありがとうございます。ちなみに神木隆之介さんの出演作品で好きな役は「SPEC」のニノマエです。
夜に駆ける/YOASOBI
ラストは2020年バズ曲を語るには絶対に外せない、小説を歌にするユニットYOASOBIの「夜に駆ける」。CD未発売アーティストとして異例の紅白出場決定!おめでとうございます。
「香水」「夜永唄」のシンプルさや、カバーのしやすさと対照的に、YOASOBIがバズらない理由は無かったのでは?と思うぐらいに工夫が盛り沢山だった。
1.トレンドを抑えたシンプルなアニメーションMV
毎年アメリカのパントン社が選ぶと日本のJAFCA(一般社団法人 日本流行色協会)が選ぶ「今年の色・来年の色」でトレンドカラーが決定します。
2020年のトレンドカラーは、パントン社(米)がクラシックブルー、JAFCA(日)がヒューマンレッドと発表。
色のプロ団体が流行色を発表した一方、日本のインスタグラム世代にバズり、去年から定番となったのはくすみカラー。
2020年の流行色の赤と青と、日本の若者で流行のくすみカラーを取り入れた、トレンドカラーMVなのです。
アニメーションもグレー→くすみカラー(ピンクの濃淡&青緑付近のカラー)→クラシックブルーメインと使った色は極限に少ないが、中盤からクラシックブルー周辺の色をふんだんに使って夜を表現し、ストーリーとリンクさせて深さを増してる。
特にサムネのカットのカラーバランスは非常に美しいと思う。
スカートの中を蛍光に近い水色を差し色にしたのが大正解。例えば映えやすい黄色だったら目立ちすぎるし、ショッキングピンクなら全体的にベッタリした印象になってしまうので、このシーンのカラーバランスはパーフェクト。
トレンドを抑えたカラーに加えて抜け感のあるテイストのイラストがティーン世代に刺さったのかなとも思ったり。
最近はアイコンもシンプルな線画とかがよく見かけるもんね。
2.軽快さとオシャレなピアノサウンド
ポップだからカラオケで歌っても盛り上がるし、私は筋トレ中のBGMでよく流しているのだけど、手拍子しやすいテンポと、軽快さでノリやすい。
特にピアノは馴染みのある音色なので、ギターよりかはピアノがメインの旋律だと誰でも聴きやすい。ピアノは幼稚園から生で聴いてるけど、ギターの音をきっちり聴くのは、おそらく中学や高校ぐらいからだと思うんだよね。
3.さりげない転調
1番の特徴といえば転調。軽快な4つ打ちポップで、聴いてると口ずさみたくなるけど、実際歌ってみるとかなり難しい。同時にikuraさんの歌唱力を痛感する。
拍子が1曲のうちに例えば4/4から3/4に変わることを変拍子といいますが、音階が変わることを転調と言います。音階はカラオケのキーのことですね。
こちらの記事でかなり詳しく解説されており、とても説得力があります。
ラストサビ前に1度キーを下げてからサビでキーを一気に上げてますね。
同じテンポで同じ拍子でもサビだけキーを変えるだけで、高揚感を演出しクライマックス感が強く出て、ドラマチックな印象を与えます。
カラオケで歌う→難しい→練習するの再生回数のループで、再生回数が伸びたのかとも考えられますね。
転調が印象的な曲といえば、彗星の如く現れ日本の音楽シーンをかっさらったKingGnu「白日」と、ボーカロイドの名曲164P「天ノ弱」でしょうか。
白日/King Gnu
天ノ弱/164P
4.「THE FIRST TAKE」チャンネル「THE HOME TAKE」への出演
バズアーティストの登竜門となったYouTubeの一発録り人気チャンネル「THE FIRST TAKE」シリーズ、宅録のプライベートスタジオからの「THE HOME TAKE」への出演。
ボーカルのikuraさんは音源さながらの歌唱力で実力を証明し、ティーン世代から一気に幅広い世代へブレイク。
5.小説ファンからの流入
ボカロPのAyaseさんは既にボーカロイド層から支持されていることにプラスして、原作小説を音楽にしたことで音楽層以外の読書層からも流入。
音楽から入った人は”小説読んでみよう”となるし、小説を読んでいた人は”音楽聴いてみよう”となるのは、触れる芸術の幅が広がるしwin-win。
今までは交わりづらかった”音楽”と”小説”、それぞれのジャンルに生息する人間がクロスした結果、爆発的人気という化学反応を起こしたのではないのかなと思う。
バズ曲の共通点①切ない歌詞
この3曲には、一見共通点が無い。
人数構成:ソロアーティスト、4人組ロックバンド、2人組ユニット
ジャンル:ギター弾き語り、ロックバラード、打ち込みポップ
MV:本人出演、リリックビデオ、アニメーション
そんな何もかもバラバラなこの3曲の共通点は、切ない歌詞。
「香水」は失恋、「夜永唄」は死別、「夜に駆ける」は自殺。
「夜に駆ける」に関しては今年は著名人の訃報が多く、情勢と原作小説が重なったためバズったのかなと。
そして「香水」と「夜永唄」に該当する、切ない歌詞に共通したのは”香り”。
”君のドルチェ&ガッバーナのその香水のせいだよ” 香水
”金木犀の香りが薄れていくように” 夜永唄
香りを嗅ぐことで記憶が蘇ることをプルースト効果と言います。
香りは「海馬」と呼ばれる部分に直結しており、香りは思っている以上に記憶に残ると脳科学的に証明されている。
だから香水の香りで元恋人を思い出してしまったり、金木犀の香りで好きだった人を思い出してセンチメンタルになることは、人間にとって当たり前のことなのです。
バズ曲の共通点②PVに歌詞を付けている
今回紹介したバズソングでは、「夜に駆ける」「夜永唄」が該当。
単純に歌詞があった方が曲を覚えやすいし、映像と歌詞がリンクして曲の深みを増す効果もあるんだけど、ヒット曲のMVには歌詞がついてる傾向があるんですよ。
ワタリドリ/[Alexnadros]
アルクアラウンド/サカナクション
かわE/ヤバイTシャツ屋さん
上記ピックアップしたなかでも、歌詞をメインに一発撮りしたサカナクションの「アルクアラウンド」はいくつも賞を受賞しているほど、評判の高いミュージックビデオですね。
そして最近はオンラインイベントが増え、耳が不自由な聴覚障害者が見ると想定してリアルタイムで字幕を表示するなど、字幕が当たり前になるバリアフリーな方向へ時代がシフトしていることも、1つの要因かなと少し思ったりします。
バズ曲の共通③明朝体
3曲ともMVに使われているフォントが明朝体。
明朝体が習字のように文字に緩急のある細いフォント。教科書や小説などの読み物によく用いられ、誠実で高級感のある印象を与えます。
代表的なものでは新海誠監督の大ヒット映画「君の名は。」「天気の子」のタイトルロゴに「モリサワ A1明朝」という明朝体が使われてますね。
ゴシック体は角ばっていて均一のフォント。読みやすいのでスーパーのポップや看板などによく使われ、大衆的でカジュアルな印象を与えます。
お馴染みのヒラギノシリーズで比較。
同じ「エモい」の言葉でも、明朝体の方が儚い大人な美しさを強く感じるかなと思います。
3曲とも歌詞が素敵な楽曲なので、小説などの読み物に使われやすい明朝体がぴったりハマったのかなと。
たまたま感あるけど、これがゴシックだったり、手書き風のフォントを使っていたら、曲の印象が全く違っていたと思う。
フォントって色と同じくらいに受け手の印象を左右するほど大事な要素なんです。
バズ曲の共通点④みんなで作る音楽
二次創作を含め”みんなで作る音楽”重要だったのかなと思います。
作詞作曲、歌唱、MV制作、グッズ展開など自分の手で全て行う”セルフプロデュースの元祖”といえばニコニコ動画出身の米津玄師。
最近であればポルカドットスティングレイ、秋山黄色、湯木慧がアツイですね。
セルフプロデュースとは対照的に、様々な得意ジャンルのクリエイターが各々の力を発揮した”みんなで作るの元祖”もニコニコ動画。
私もその世代なのだけど、ボカロPが曲を作り、絵師がイラストを描いたりアニメーションを作り、歌い手がカバーし、踊ってみたや弾いてみたが発生する。
見ず知らずのクリエイターが、見ず知らずのクリエイターの作品に加わる。こう見るとニコニコが作ったインターネット発ブランドは強いね。
そんな今年のみんなで作る音楽といえば星野源さんの”うちで踊ろう”。
これは3曲にも言えますね。
「香水」はチョコプラが再現MV、狩野英孝はクセアレンジ。
「夜永唄」はTiKTokでよく使われてバズ、当初リリースしたリリックビデオからリスナーのエピソードを元に人気俳優を迎えてMV制作とこちらも多様に発展。
「夜に駆ける」小説が原作で既に二次創作。さらに著名人の歌ってみたから、エクササイズやダンス動画のBGMに使われるなど、多様に発展。
セルフプロデュースをして一際異彩を放つシーンから、様々なクリエイターとコラボレーションして化学反応を起こすシーンに移行している感覚。
インターネット中心の世界になり、簡単に発信出来る時代だから出来ることなのかなと思う。
まとめ:なぜバズったのか考えるのも面白い
「なんで流行ってるの?」が口癖だったけど、解剖すると流行る理由ってあるなと思った。
1. 切ない歌詞
2. MVに歌詞を付けている
3. 明朝体を使っている
4. みんなで作る音楽
例えミュージシャンがこの特徴を捉えて曲を作ったり、MVを作ったとしても、2021年にバズるとは限らない。その予測不能さが、ティーン世代のバズ曲の魅力かなと思います。
ちなみに私がバンドが売れる偏見は「ボーカル以外がMC担当のバンドは売れる」です。
それにしてもバズ曲解剖楽しかったな。