【ライブ】凛として時雨 TOUR2024 「Pierrrrrrrrrrrrrrrrrrrre Vibes」@ ZeppDivercity 2024.8.22
今回のツアーはドラムのピエール中野加入20周年ライブとなる。個人的に今年初凛として時雨である今日はZepp Diver Cityに参戦。今回は後ろの柵を取って、お酒を嗜みながらゆったり見ることにした。
そしてこのライブで起こったことを、私が見た限りで記そうと思う。
ライブレポート
客席照明が落ち場内が暗転すると入場SEが流れメンバーが登場…と思いきや、SE曲が途中で止まるハプニングが勃発。
客が歓声を上げたり、再度曲が流れるまで繋ごうと拍手を起こすも流れる気配は無く、結局ステージに明かりが付き無音のままピエール、TK、345が手を振りながらフランクに登場と、珍しいパターンで幕を開ける。
この日は幸いにも暑さが落ち着いた曇天だったお台場だが、トップバッターは「Sadistic Summer」、続けて「想像のSectiry」と初期ナンバーを連発。TKがシャウトする度に呼応するかのように歓声が湧き上がる。
「凛として、時雨です」とTKが軽く挨拶を挟み、早速20年近く前の初期アルバムからの曲から最新曲「Trrrrrrrrrrrrrrrrrrrue Lies」へタイムワープ。
「Virtual Eyes〜」のTKパートでは音源同様のグロウル寄りのローボイスと巻き舌でボーカリストとしての表現力の幅を見せつけつつ、ブルーとイエローの照明がサイバーパンクっぽさを彩り、フロアの”犯罪係数”を一気に上昇させる引き金となる。
メタリックな冷徹なアルペジオが鳴れば「Metamorphose」、衝動のまま力づくで打ち付けるような凶暴性に四方八方から銃を向けられているようなスリリングさと、轟音が空間を歪ませるかの如く彼らが織り成すアンバランスの手玉に取られた。
個人的に最後に聴いたのは2015年の「es or s」ツアーだと記憶しているため実に9年ぶりの「SOSOS」は、TKの窒息死しそうなほどの緻密に炸裂するギターが鼓膜に突き刺さり、大きな龍が真っ向から低空飛行してくるような圧巻の大迫力にとてつもなく膨大なエネルギーを食らう。
TKがアコースティックギターに持ち変えると「Tremolo+A」、ギターの音色が変わるだけで曲の印象がかなり変わるなと凛として時雨の形態だからより思う。345のベースの音がウッドベースっぽく感じたのは1つの楽器の音色が変わったせいかもしれない。
より一層緊迫感が増す「Dynamite Nonsense」の雷撃のようなドラムに脳天から喰らえば、ラストのフレーズでは345の最高音ハイトーンがトドメを刺す(直近の楽曲を含むと不明だが、この曲が345の最高音域に当たるらしい)。
屈指のキラーチューン「DISCO FLIGHT」は突然345のベースが鳴り出す同じ入り方、そして初期の雰囲気を思い出させる最小限の照明と変わらぬ同じ演出だからこそ、テンションが一気に上昇する。「またこの曲か」と思わず同じ熱量で拳を上げられる曲も希少だと思う。
この時点で想定の裏を読まれたような予想斜め上のコアなセットリストに大満足しているが、暗闇で獰猛な動物に目をつけられたかのような不穏なドラムとベースが鳴れば「mib216」。個人的に演奏するとは思わなかった曲リストを上げるなら確実に上位にランクインする予想外の曲に静かに衝撃を受けた。
曲が商売として世に出ている時点でデットストックにはならないものの、ライブを多くするミュージシャンにとっては「ライブでよくやる曲は偉い」「やらない曲は偉くない」となってしまいがちだが、やっぱり古となっていた曲を生演奏を聴くと”曲に命が芽吹いている”と感じる。
ここまでほぼぶっ通しで曲を演奏し続けていたスタミナと集中力に驚愕しつつ、ピエールのドラムソロからスティックの代わりにマイクを持つと、珍しくピエールのMCタイムと345の物販紹介が同時に行われる。
昨年末のワンマンライブも行けなかったため、お預けされていたネットフリックスのアニメ版「陰陽師」の主題歌である「狐独の才望」をようやく回収。
そう言えば以前歌詞考察を書いたが、歴史というか古事記オタク要素がかなり含まれているな。
「アレキシサイミアスペア」では冒頭からTKの歌い出しがなく不自然に思っていたらTKが「やり直します、イヤホンが多いので整理します」と言った後はピエールの即興ドラムで曲間を繋ぎ、マイクチェックを軽くする。
ここまで順調に思えていたパフォーマンスが、一気に崩れ出す。
特に2番辺りから、TK自身は声は出るはずなのに歌ったり歌わなかったり、ギターもズレていると感じる箇所も多々あり、PA席辺りの後ろから見ててもはっきりと分かるぐらいにTKのパフォーマンスが不安定なのだ。今まで豪速球で打ち付けていた轟音が急に自信を無くしたように迫力が半減した。
おそらくTKのイヤモニからギターも自分の声も聴こえていなかったと推測する。そのため音程やリズムが取れなかったのだろう。
これまでTKを中心に両隣で支えるように345とピエールが演奏する形だったが、不安定なTKをよそ目に345とピエールは木組のようにバッチリとハマっていたため、逆にTKが2人に合わせるようにおそるおそる不安そうに演奏していたのだ。
それまで彼らの轟音の爆風に打ちのめされてきたフロアだが、次第に見守るような真剣な眼差しに変わる。
こんなときどう曲に反応すればいいのか。この日は拳を強く高くあげる者と、静かに見守るようにしていた者と大きく二極化したように思う。
私は祈るように見守ることしか出来なかったが、声を上げて手や拳を突き上げてその不調をカバーするように客が普段以上に盛り上げたって、「こっちは大丈夫だよ」「頑張れ」のジェスチャーは本人の邪魔にならなければ何だっていいと思う。
「Telecantic Fake Show」でもTKの機材トラブルは続く。
Cメロでは丸々歌わない、いや歌えず、たまたま機材トラブルが起こってしまった曲が百戦錬磨の曲だったことが救いかもしれないが、身体が覚えているのかサビでは力を振り絞るように長年の感覚をフルスロットルで思い出しているように感じた。それでもTKのボーカルパートは半分も歌えていなかったし、TKの出せた本来の実力は50%も満たなかったように見えた、おそらくこのライブが初見だったとしてもそう思うぐらいには。
そんなTKを345とピエールが音で救う。TKのギターはかろうじて鳴っている、時折歌も入れる、そんな思うように演奏出来ずにもがくTKを音で守るように覆い被せるように力づくで支えていたのだ。
345がTKのパートを歌わなかったことに強い信念を感じた。今までなめらかなベールのように会場を包んでいた345の芯の通ったしなやかで柔らかいハイトーンのクリーンボイスが、ラストの自分のパートあたりで「TKの代わりにやってやる」と言わんばかりに、普段は見せないシャウトに近いがなり声を意図的に出しだのだ。
TKの機材トラブルは治らないままだが、ドラムで繋いで最後は「nakano kill you」。
正直大黒柱の調子が悪いのならこの曲をやらずにこのまま終わっても良かった。この曲の流れで爆発的な熱量を保ったまま終わりたかったんだと悟ったが、なんとか逃げ切るように演奏仕切った。"逃げ切る"という表現はよくないかもしれないが、どんな状態でも「最後までやり遂げる」ことに生々しい美しさを感じた。
とあるバスケ漫画の名将は言った、「諦めたらそこで試合終了だよ」と。どうして大好きな漫画なのに忘れていたんだろう、他人のことは”諦めてはいい”ことにならないのに。
バンドは生物
曲の入りが上手くいかなかったり、曲のチューニングを間違えてやり直したりなど些細なトラブルに遭遇したことはあるが、正直ここまで機材トラブルに惑わされているTKは初めてみた。
そしてあそこまで目に見えるほど必死に力を合わせている凛として時雨も初めてだった。絶体絶命の状況でどう乗り切るか、音楽を生業にするプロだと思うと同時に、20年と計り知れない信頼と重みがあってこそ乗り切れたのだと思った。
そう思うのは2回目の「アレシキサイミアスペア」を中断せずにそのままやり切ったことが物語っていたと思う。彼らにとって3回目をやることはプライドが許さなかったのだろう。
他のバンドであれば「代わりに歌ってほしい」と客席にマイクを向けることもある。そもそも業界屈指のハイトーンかつシャウトの多い難易度の高い曲を歌うことは観客側にとって無謀なのだが、時雨は「ライブは客と作り上げる」より「最大限で最高のパフォーマンスを魅せる場所」として認識しているように思う。
「完全な状態で曲が聴けなかったのは残念だ」と文句を垂れるより「TK本人が一番悔しいだろうな」と真っ先に思ったのは、彼らが毎回完璧なライブを目指す職人だからだと思う。
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ここから完全に個人の意見だ。
私はリハーサル通りの一切のトラブルも無く完遂した完璧なライブだけが「ライブ」とは思わない。今日のようなトラブル続きのインパーフェクトなライブだってライブのひとつだ。だから今日のライブのことは私が見た限りの"真実"を書いた。
ライブを作る側の「ミスがあってはならない」はプロとして当然かもしれないが、数ある音楽家でもロックバンドが一番感情的で人間味のあるライブをする。
バンドのライブは「音楽を聴きに行く」と言いつつ、「音楽に乗せた人間のむき出しの感情」を浴びに行っているようなものだ。「不調があっても文句を言わない」と言っているのは、ファンとしての甘えではなくて、本気でそう思っている。
こう思うのは別に時雨に限った話ではない。ロックバンド、いや舞台に立つ表現者全員に対して思ってる。たった一瞬でも、一生懸命使命を遂行しようとしている人に文句を言う筋合いは私には無いんだ。
だから決して安くは無いチケット代を払っていても、どんな絶好調でも、絶不調だったとしても、私がこのバンドに時間に捧げた時間は2時間は変わらない。だからただ受け止めるんだ。失敗は成功のもと、悔しさは次のライブの糧に、今回の件は他のバンドの教訓にしてくれればいいさ。
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機材トラブルは起承転結の「結」で起こってしまっただけであって、「転」までの曲は完璧だった。それはこのライブを見た人の共通認識だと思う。
今日のライブは”呪”とするか”伝説”とするか、その紙一重はこのライブを見た者に問う。
私は”妖の悪戯が多かったライブ”と同時に、”試練に負けなかった伝説のライブだった”とも答える。
セットリスト(外部URL)
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