●ヒューマン・ポジション●
満たされているはずなのに空洞を感じる。
目に映る光景は美しく、足りないものもとりわけなく、悪意さえもそばに感じないはずなのに、どこか空虚を感じてしまう。
ノルウェーで最も美しい街と称されるオーレンス。
新聞社に勤めるアスタは休職から復帰したばかり。クリエイティブなパートナーと子猫とともに穏やかな生活を送る。
しかし心のどこかになんとなく空虚を感じている。
どこを切り取っても絵葉書のような美しさの中、私たちが感じている時間とはまるで速度が違うように、ゆっくりゆっくり全てが流れていく。
個人的な喪失と、取材で出会った過去の事件、パートナーとの時間、それらがゆっくり混じり合い、やがて日が暮れるようにゆっくりアスタの心の色を変えていく。
ラスト近く、パートナーのライヴからのある贈り物が心に明るい色を塗る。
観ている私たちの心も同じ色に染まる。
とても美しい映画だけれど、美しいだけでなく、虚しさや不安はどんな場所にだって等しく現れるということを感じさせる。
しかしそこから歩いて行けるということも同時に思わせてくれる。
余談だけれど、劇中に登場するメディアは新聞とラジオだけ。
テレビもスマホも手放して、こんなふうに生活してみたいと思ってしまう。きっと時間の流れが違うだろうなと想像する。