●ジョイランド 私の願い●
生まれながらに私たちは、ゆるく薄い布に包まれている。
布の色や大きさはさまざまだけれど、誰しもが何かしらをまとっている。
厳格な家父長制、大家族制度が色濃いお国柄のパキスタン。大都市ラホールに暮らすハイダルは失業中。メイクアップアーティストである妻のムムターズが家計を支え、ハイダルは兄夫婦の子供たちと父の世話、家事をしている。
世間体が重要視されるパキスタン社会、ハイダルがなせねばならぬことは決められている。仕事を見つけて子供をもうけること。
そしてそれは妻のムムターズの生きがいである仕事を諦めさせることでもある。
知り合いのつてで仕事を得たハイダルは、ダンサーであるトランスジェンダー女性のビバと出会い恋をしてしまう。ビバの強さや生き方は、温厚で気弱なハイダルに初めての心の自由を与える。
そしてそれは、それまでの保守的な家族の均衡を少しずつ傾けていき、それぞれの心の自由、願いを浮き彫りにしていく。
パキスタンのような伝統を重んじる文化が色濃い国はもちろん、個人を尊重する社会に変化していっている国でも「自分らしく生きる」ということはまだまだ難しかったりする。本当に自分らしく自由に生きている人はどれくらいいるのだろう。
親が願う子供の幸せと、子供自身が願う幸せはきっと違う。親子のみならず恋人や夫婦間でもきっと違う。その願いは薄い布がまとわりつくように相手の自由を覆う。覆うだけでなくゆるやかに締め付け、気づかぬうちに奪ったりもする。
タイトルの「ジョイランド」とは作中に出てくる遊園地のこと。
家庭内に押し込められているムムターズと義姉ヌチが、夜の遊園地で絶叫マシンに乗って歓声を上げる時、その時だけは締め付けられている布を剥ぎ取って心を解放しているように見える。それがとても美しい。
ネオンカラー、カラフルな祝祭、熱と埃を感じるパキスタンの空気。
そしてなんといってもラスト5分。
あの回想シーンはずるい。