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●心の休憩時間●

喫茶店の何が好きかって、そこでしばしの時間を過ごすと晴れやかな気持ちになることだ。
キリのいいところまで本を読んで充足を感じたり、解決とまではいかずとも考え事が進んだり、どういうわけか急に妙案が浮かんだり、書き物が捗ったり、ただコーヒーの香りに包まれて幸福を味わったり、と席に着く前にはなかった晴れ晴れしさを持って帰りのドアを開けられることだ。

これはおそらくだけど、心が休まったということなのではないのだろうか。
喫茶店で過ごす時間というのは、単純に飲食をするだけとは違う、別の種類の充足感が加わっているように思う。そしてそれはなかなかに稀有であるとも思う。
大前提として飲食店であるにも関わらず、喉を潤す腹を満たすに加えて別種の何かが満たされる。それは他の飲食店にはない稀有な体験だ。

心の休憩場所なのだと思う。
ちょっとひと休み、ちょっと一服、といった肉体的な休憩とともに、心のひと休み、心の一服という精神的な休憩になっているのだと思う。
だからきっと少し心が軽くなって、晴れやかな気持ちになるのだろう。

ところでこの「心の休憩時間」は人それぞれ必要な時間が違うようだ。
さっと食べて飲んで短時間で十分な人もいれば、ゆっくりじっくり派という人もいる。
私はというと、いつもだいたい小一時間くらいがちょうどいい。なので自店で短時間派の方と出会うと「えっ、もうお帰りになるの。まだゆっくりしていらしたらいいのに」なんて、まだしっかり温かいカップを片付けながらお節介にもそう思ってしまう。そして何か居心地が悪かっただろうかと気にしてしまう。でも違うかもしれない。つい自分と比べてしまうけれど、短時間派の方はそれがちょうどいい時間なのかもしれない。

時々、長居してすみませんと頭を下げるお客様がいらっしゃる。でも長居だと思ったことはほとんどない。なぜなら当店は滞在の目安をしっかり明記しているからだ。お待ちの方がいない時は2時間を目安に、それ以上のご滞在は追加をいただいているので、気にせずゆっくりしていただきたい。
ちょっと申し訳なく思うのは、満席になると皆さんそそくさとお帰りになってしまうこと。満席になること自体あまりないのだけど、たいてい一時的なことが多く、そうなってもそのあとしばらく誰も来なかったりする。もし気を遣って早めに切り上げているのだとすればとても申し訳ない。
なぜなら珈琲と衛星は「誰かにとってのもうひとつの居場所」であり、「自分の時間を楽しむ」喫茶店だからだ。ぜひ存分に心の休憩にちょうどいい時間を過ごしてほしいと思う。
誰かにとってそんな場所であることが何よりうれしいし、それでこそ「珈琲と衛星」であると思う。

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