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●どうすればよかったか?●

家族という目に見えない蜘蛛の巣。同じ蜘蛛に生まれればその巣の上を自由に動き回り、行く先に自分の巣を作ることができる。
しかし別種のものに生まれてしまえば、足を取られ自由な動きを奪われてしまう。もがけばもがくほど糸は絡み、大きな声を上げ、糸を切る道具を手にできない限り抜け出せない。

医学の道を歩んでいた姉が、ある日突然夜中に滅裂なことを叫び出した。そこから家族は長い間、大きな闇を抱えることになる。これはこのドキュメンタリー映画の監督の家族に起こった話である。
統合失調症。今でもわからないところの多い病だが、彼女が発症した90年代にはほとんどの人に知識はなかっただろう。しかし、そろって医師であり研究者である両親にはその病について理解はあったはずだ。それでも彼らは見ないふりをした。問題ないと装った。どうしても娘を「自分たちの思う娘」のままにしておきたかった。病気を認めたくなかった。

実に長い間の記録。我が家の25年は統合失調症の対応の失敗例、と語る監督。
彼にとっては優しく賢い姉。それがある日から別人のようになってしまった。元の姉に戻すために解決策を探れども、両親という鉄壁に跳ね返されてしまう。

どうすればよかったか?
彼女にはきっと人生の楽しみや、やってみたいことがたくさんあったはずだ。しかし奪われてしまった。何年もの間、自宅に閉じ込められたままだった。
家族という見えない蜘蛛の巣に絡まれ、縛りつけられてしまったのだ。他人事ではない。自分の家族、自分自身にも起こりうることだ。それは病だけの話ではない。あらゆる夢や希望、自由についての話だ。観て、考えるのだ、自分のために。

個人的に気になったところがある。自費出版をするほど占星術を研究していた彼女と、占いを否定する母の姿。自分の好きなものを家族に否定されることくらい辛いことはない。それが病に関係あるのかどうかはわからないが、心はきっと痛かったに違いない。

また、症状が落ち着いた頃の映像。弟のカメラにピースサインを送る姉。片足をぴょこんと上げてピースをする彼女の時間は、弟と過ごした楽しい時代で止まっているかのようだ。その姿が胸を打つ。なくしてしまった時間の分だけ切なくなる。失ってしまった彼女の心と希望がとてもとても大きくて、それがとてもとても悲しい。

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