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●愛を知る生き物●

私は家に寝に帰るようなものなので、猫と過ごす時間は半日もない。一緒にいる時間が短くなったからか、猫が老齢になったからかわからないけど、とても甘えん坊になった。
もともと甘えん坊な性格だけど、輪をかけて甘えるようになった。とにかく自分を見てくれと言ってくる。とにかく触ってくれと要求する。人間の歳に換算すると私の年齢を追い越しているのに、いつまでも3歳児のようだ。
私は私で、猫といる時は存分に匂いを嗅がせてもらう。なんとも言えない幸福な匂いがする。ふかふかの布団のような、小鳥のような、大福餅のような、そんないい匂いがする。あちこち嗅がせてもらうけど特に頭の匂いがお気に入りだ。
全身で喜びを伝えてくる小さな生き物の、生きている証の匂い。心が震えるほど愛しい。
そして不思議なことに、心から愛しいという気持ちで接すると、猫にはちゃんと伝わる。
いい子だと、大事だと、いてくれてありがとうと心から思って伝えると、大変に満足そうな様子でうっとりと喉を鳴らす。
そしてまた不思議なことに、片手間で撫でたり、口先だけでかわいいかわいいと言っても、心がこもっていないと見透かされてしまう。不満気に鳴いて訴えてくる。気を引くためにいたずらをしようとする。猫には人の心が見えているのかもしれない。

反対に、猫が伝えたいこともなんとなくわかる。帰りが遅い、待っていたと叫んでいることも、なんだか落ち着かないぞと唸っていることも、今から寝るとわざわざ宣言していることも、その声から伝わってくる。
うちの猫は思ったことはなんでも口に出すタイプだから余計にわかりやすいのかもしれないけれど、きっと心をそのままぶつけてくれているから気持ちがわかるのだろうと思う。

心と心で会話をしようとしてくれる。表面に見えているものだけでなく、一番深い部分で繋がろうとしてくれる。
なんと愛しい生き物か。うちの猫だけでなく、きっとすべての猫がそうなのだろうと思う。猫とはそのようにおしなべて、優しく、強く、美しい心を持っているのだ。

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