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●君と同じ形の影が揺れる、それがとてもうれしい●

15年前、まだサブスクなんて浸透していなくて、聞きたい音楽を聴くにはCDを買わなきゃいけない時代だった。新しい音楽との出会いを求めて、今はなきPIVOTの7階タワーレコードの試聴機によく通っていた。
その頃出会ったバンドの一つがandymoriで、再生ボタンを押して流れたイントロですぐに恋に落ちた。それからずっと聴き続けていた。
解散してからも小山田くんのソロをちょろちょろ聴いていたりしたのだけれど、数ヶ月前から急激にグッときて繰り返し聴いていた。なんというか、アーティストとリスナーの波長が合う時って時差が生じる時がある。リリース直後はそんなに惹かれなくても、ある時急にバチンと心に響く。それが今だった。
そんな時に弾き語りツアーの告知。弾き語りのライブは行ったことないけどどうかな、行ってみようかな、いや今がその時、行くしかないと決めた。

一曲目が始まり、一節でそのギターの音と声に、もはや満たされた。
なんてこった、andymoriの曲もやってくれるのかと、あのころ試聴機で恋した時と同じように、すでに心震えて掴まれに掴まれた。弾き語りとはいえサポートもつくのでは思っていたのだけど、完全に一人、ギター一本。その一本のギターの音だけなのに、なんて豊かなんだろう。声が伸びて、響く。それだけでなんて十分なんだろう。

小山田壮平はおそろしく歌が上手い、と私は思っている。ロックな歌い方なので一聴では気づかないけれど、ものすごく難しいメロディをするする歌い、ピッチも正確。そんなに音楽に詳しくない私でも、ああこの人は上手いんだとわかる。内包する音楽センスが素晴らしいのだと思う。

大丈夫だと、心配ないと彼は歌う。目に映るものがどんなにくだらなく、汚く、悲しくても、君は大丈夫、心配ない。美しく、楽しく、素晴らしいものだってたくさんある、だから大丈夫、心配ない。そういうことを歌い続けているのだ、彼は。
それがどんなに心強いか。一曲一曲、ありがとうという気持ちになった。歌いに来てくれてありがとうと、壁に映る彼と同じ形の影が揺れるのを見ていた。

一番聴きたかったマジカルダンサーを浴びながら、忘れたくないと思った。声の響きも影の形も心の震えも忘れずにいたい。
すぐそばに深い暗い穴が見えていても、音楽はそんなふうに明るい場所に引き上げてくれる。


◯余談◯
15年前、andymoriとの出会いを「試聴機で恋して」というタイトルの日記に書いた。
LINEなんてまだなかった頃、友達と複数で繋がるにはmixiだった。私が日記のようなブログのような文章を書いていたのはその頃だけで、今はきっとアカウントももうないのだろうな。(一定期間ログインしないと消えると聞いた)
インターネットの海の藻屑になった文章はもう読めないけれど、断片だけは案外自分の中に残っている。

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