「可愛い」の威力【中編】
私は高校2年生になった。
担任の先生は身だしなみに厳しく、他クラスの生徒は皆開けている第1ボタンを開けていると、うちのクラスだけ担任に毎回注意された。
でも、私は第1ボタンを毎日開ける。
注意されるのが面倒で、第1ボタンを常に閉めるようになった子もいた。
だが私はここでなぜか意地を張った。
ダメと言われることをやりたくなる年頃だったのだ。
第1ボタン以外にも校則を破り、小さな反抗を重ねた。
結ばなければならない髪の毛も下ろしたし、
切らなければならない爪も伸ばして、綺麗に透明マニキュアを塗った。
今になって、なんでそんなに意地を張っていたのかと考えると、
やはりそれは成績が下がっている劣等感から来ていたと思う。
私は全国民的に見れば、勉強が出来ないわけではなかった。
だが、その時のクラスの席順は成績順で、東大を目指すクラスの中で私の席はいつも後ろの方。
常に「お前は馬鹿なんだよ」と言われている気持ちだった。
他クラスの子もたまに教室に遊びに来ることがある。きっと私の席の位置なんて気にしていなかったが、その頃の私は
あ〜あの子も私の事、馬鹿だって思ってるんだ。
そう思わずにはいられなかった。
じゃあ勉強すればいいじゃないか。私も今そう思うし、あの時だって、わかってはいた。
でも、どう頑張ればいいのか分からなかった。
私はその頃にはすでに東進で失敗していたので、(「東進との苦い思い出」にある通りだ)
かなり精神的に病んでいた。
傷ついた私は、また勉強で失敗して傷つくことを恐れたのだ。
勉強ではクラスの皆に勝てない。私はもっと可愛くなる。
当時の私はそう考えた。完全に頑張る方向性が違うが、今言っても仕方のないことである。
美容は、頑張った分だけ私の評価として返ってきた。他クラスのあまり話したことがない子も可愛いと言ってくれるようになった。
その頃、可愛いと言われることに最高の喜びを感じていた。
でも、何かがおかしかった。
私は可愛いと言われたいはずなのに、こんな言葉を掛けられるようになっていった。
「ほんと女子力高いよね〜尊敬するわ〜」
…女子力?確かに、私の努力が評価されるのは嬉しいが、女子力を高くしたい訳ではない。
そもそも、女子力ってなんだよ。
文化祭の時も「女子力」の高い私は、クラスの女子の髪の毛をセットする係にいつの間にか就任していた。
そういえば文化祭の日の朝、担任に「○○さん化粧してるでしょー!!!」ってクラス中に聞こえる大声で言われたな。
あの時はふざけて返事したけど、「頑張ってる」人みたいで、すごく恥ずかしかった。
もう1つ、おかしな事があった。
こんなに頑張っているのに、私は全然モテない。
気になっている男の子と行事のたびに写真を撮ったり、1回だけ遊びに行ったりしたけど、それも自分が起こしたアクションだ。
男の子から声を掛けられることも、ちやほやされることもない。
冷静になった今では、容姿に恵まれていればモテる、という法則が必ずしも成り立つ訳ではないことを知っている。
でも学校という小さな世界で、可愛い子はみんなモテていたのだ。
私ってやっぱり、可愛くないんだ。
可愛くなるために必死な私を、女の子は褒めてくれていたのだ。
じわじわと確かなものになっていくその気づきから目を背けたくて、
インスタには顔の原型を留めていない、プリクラしか載せなくなった。
そんな私に、転機が訪れた。
そわんわん
との出会いである。
高校3年生になる私は、彼女との出会いによって大きく変わっていった。(中編おわり)