料理の本を有効に使うひととの会話
嫁ちゃんが料理の本を買った。
しかも二冊。
ぼくは思わず、嫁ちゃんに声をかけた。
「嫁ちゃんってさ、すごいよね」
「え、何が?」
「料理の本を買ったじゃない」
「うん、買ったけど?」
「ちゃんと作るよね」
「え?」
「料理の本に書いてあるレシピ通りにさ
ちゃんと料理を作るじゃないか。嫁ちゃん」
「ん?・・・そりゃ、作るけど」
「すごいよねー」
「あのねぇ夫くん」
「はい」
「料理の本は、料理を作るために買うんだよ?」
「いいや違うね」
「ええっ?なにそれ。何言ってるの夫くん」
「嫁ちゃんは何もわかってないな」
「何、何、私がおかしいの?どういうこと?」
「ぼく達みたいなフツーの人はね
料理の本を買っただけで満足するんだよ」
「何言ってるのかわかんないんだけど」
「だからね、ぼくが料理の本を買ったらね
“よしこれで料理を覚えたぞ”って気になるの。
まだ一度も作ってないくせに、だよ」
「もう作った気になっちゃうってこと?」
「そう、心だけはプロの料理人になるんだ」
「本を買っただけなのに?」
「本を買っただけなのに」
「えっ、夫くんってヤバい人なの?」
「たしかに、ぼくはヤバい人かもしれない。
でもね、ぼくみたいに料理の本を買っただけで
満足してしまう人ってのは一定数いるんだよ」
「ええー・・・そうなの?」
「そうなの」
「積みゲーみたいな感じなのかな?」
「それそれ!その表現が一番近い!それだよ」
「へえ・・・」
「だから、嫁ちゃんはすごいんだよ!」
「へえ・・・どうも」
「ちゃんと美味しそうなのピックアップして
たくさん作るしさ、慣れたらアレンジするし」
「そりゃ、まあ、そのための本だしね」
「いやいや、君は物凄い才能を持ってるんだよ」
「料理の才能?」
「料理の才能。冗談抜きに天才だと思うよ」
「うへへ。まあ料理を作るのは好きだけど」
「料理が好きなだけの人ならごまんといる。
でも君は、作る料理全てが美味しいという
異世界転生主人公も真っ青の能力を持ってる」
「ああ~、そんな料理系のアニメも観たね」
「いや今は君の現実の話だよ」
「まあ、でも、いいことじゃない?」
「なにが?」
「私が、料理の本を買うことが」
「うん、とってもいいことだと思うよ。
ぼくは最初からそう言ってるじゃないか」
「え、あれ?そういう話だったっけ?」
「そういう話だよ」
「そっか。じゃあ明日、何食べたい?」
「そうだね、ぼくが食べたいものは・・・」