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「女性のみ銃を合法化」に関する私見

はじめに



 「女性のみ銃所持を合法化」という意見があるようだ。

 どういう文脈でこうした発言がなされるかと言うと、女性は力が弱く男性に狙われやすいので、銃のような強力な武器を所持することで自身の身を守ることができるということだ。最も、「銃は女性を守る」ということは一部のアレなアカウントのみが主張しているわけではなく、アメリカのフェミニズムの文脈で真剣に議論されている話題でもある。

 とは言え、(解釈問題はあれど)憲法で銃所持の権利を保障しているアメリカと、原則で銃所持を禁止している日本では事情が異なる部分も多い。治安の違いというのもあるだろう。そこで、今回は「日本の女性に銃所持を解禁する」ことについて、筆者の私見を述べていこうと思う。


論点1:技能的観点


 筆者が個人的に気になっていることとして、技能の観点がある。これは簡単に言えば、銃を用いて標的に当てる技術のことだ。映画や漫画では当然のように銃を標的に当てているシーンが目立つが、実は標的に対して正確に射撃を行うことは案外難しい。これには様々な要因が関係している。

①銃の重さ

 正確に様々な種類の銃の重さを把握しているわけではないので詳細は割愛するが、銃は持ってみると案外重い。ライフルであれば4kgほどであり、ハンドガンであれば500g~1kg程度だろうか。日本で競技向けに所持が許可されている空気拳銃は1kgほどであるが、片手で保持すると男性でも腕が震え、照準が定まらないということは十分ある。

 最も、銃の重さは種類によってまちまちで、中には女性でも保持できるタイプのものもある。だが、射撃における難しさは銃の重さだけではない。

②発射反動

 
 銃は基本的に火薬を爆発させた力で弾丸を発射するので、発射の際にその反動(リコイル)が発生する。訓練を重ねた人であればこの反動を制御しつつ正確な射撃を行うことができるが、経験の浅い人であればこれはかなり難しい。反動を制御できなければ、発射時に照準のブレが発生し、狙いを外す可能性も高まるだろう。

 さらに、経験のある人であっても銃の反動により正確な射撃を行えなくなることがある。これは反動そのものというよりも「反動を処理しようと筋肉に力が入る」ことによるものであるが(いわゆる「フリンチング」)、経験者であってもこういうことは起こり得る。反動のある銃を扱うということはそれほど難しいことなのだ。

③照準の難しさ


 射撃における基本的な技術である「照準」も、意外と難しい。

 例えばハンドガンの場合、どのように狙いを定めるかというと、


https://www.military-channel.jp/serial/04_01_all-about-gun

このように、銃口付近のフロントサイトと手前側のリアサイトを合わせて狙いを定めることになる。射撃を行う側の目線で見ると、


https://accu-labo.com/?p=1153

 このように、リアサイトの凹部分の中心にフロントサイトが来るように保持し射撃を行うのが正しい狙い方になる。

実際に狙うとこういう感じになる↓

https://armsweb.jp/report/958.html


 これだけを見ると、なんだ簡単ではないかと思われるかもしれないが、実際に銃を持って狙ってみると案外難しい。というのも、正しいやり方で銃を保持しないと(例えばグリップの握り方がおかしかったりすると)、照準を正しく維持することができないのだ。細かい照準のズレであっても、距離の離れた標的上ではかなり着弾が変わってしまう。さらに、例えば競技射撃であれば時間をかけて正確に狙いを定めることができるが、戦闘場面ではどうだろうか。サバイバルゲームなどを経験している人であれば分かると思うが、ゆっくりと狙っている時間はなく、瞬時に射撃を行う必要がある。これを難なくこなすためには相当の訓練が必要だろう。

④引き金の難しさ


 皆さんは「引き金の正しい引き方」をご存じだろうか。ただ引き金を引けば銃弾が発射されるというイメージをお持ちの方も多いのではないか。

 正しい引き金の引き方は次のような形になる。


https://accu-labo.com/?p=92


 引き金の引き方としては、このように「人差し指の第一関節の中央で、真っすぐ後ろに引く」のが正しいやり方である。では、引き金に対し斜めに力を入れるとどうなるか?


https://accu-labo.com/?p=92


 引き金を斜めに引こうとすると、このように銃に対して余計な力が加わってしまい、発射の瞬間に銃が動いてしまうことに繋がる。

 トリガーによる着弾のズレはこんな感じ。


https://accu-labo.com/?p=1134

 このように、射撃時における「引き金」は、正しい引き方をしないと間違った射撃に繋がってしまう。先述したが、手元では小さなブレであっても、離れた標的上では大きく着弾がズレることも珍しくない。そのため、簡単に見える引き金も、正しく扱う必要があるのだ。


なぜ技能的観点を考える必要があるのか


 ここまで、銃を扱う上での技能的な部分について検討してきた。射撃を行う上では他の難しさもあるが、分かりやすい部分を挙げたつもりだ。では、なぜ射撃の技能の話をしたのか。それは、実際に銃を扱う場面において、不正確な射撃というのは極めて危険だからである。

 競技射撃やエアガンのシューティングでは、細かいミスがものすごく危険であるというわけではない。射撃場にある標的を外したとしても、せいぜい後ろの壁に当たって壁に傷ができる程度だ(跳弾リスクもあるので容易に外していいわけではない)。一方、普通の生活空間で射撃を行う場合、標的から外れた弾丸は他の「当たってはいけないもの」に当たるリスクがある。種類にもよるが、銃弾は車のドア程度であれば貫通するため、外した先が人間ではなくともリスクはある。

 これは銃を用いた狩猟においても言われていることで、実際に次のような事例もある。

・共猟者らとイノシシの有害鳥獣駆除に従事中、公道上を横切ろうとするイノシシを発見し、散弾2発を発射したところ、測量業務従事中の被害者右手に被弾、軽傷を負わせた。
・イノシシ狩猟中、イノシシを発見しライフル銃を発射させたところ、イノシシ後方で猟犬回収中の別狩猟グループ員に命中、死亡させた。

一般社団法人全国指定射撃場協会発行『猟銃等取扱いの知識と実際』より


 人が多く密集している市街地ではない場所であってもこうした事故が発生するのだから、比較的人が多くいる場所で銃を使用した場合よりこうした事故の可能性は高まるだろう。仮に自身の身を守るための発砲であっても、無関係の第三者に当ててしまった場合、その罪は許されるものではない(今後女性の権利のために許される可能性がないと言い切れるかというと言い切れないが)。

 こうした事故を防ぐためにも、現在の日本で許可を得て銃を扱う人間は、相応の経験を積むことで技能を高めているし、練習を行うことも義務付けられている(とは言え猟銃においては、具体的に何時間練習しなさい、みたいな決まりはないので難しい部分ではあるが)。猟銃所持者であれば実際に狩猟を行うことで経験を積み技能を高めることができるし、競技射撃者は競技会に出場することで技能を高めることもできる。警察官などは必要性に迫られない限り「本番」での使用はないが、いざ「本番」が発生した時のために訓練を行っている。

技能的観点を踏まえた上での私見


 仮に女性に銃所持を認めたとすると、実際の使用場面において事故が起きないよう、射撃練習を行うことは必須となるだろう。しかし、これは言うまでもないがそう簡単な話ではない。まず、今の日本において銃を撃てる射撃場がそこまで多くないのだ。県によって数は異なるが、例えば埼玉県だと、火薬式の銃を撃つことができ、かつ一般公開されている射撃場は二つしかない。日本の首都東京に至っては、火薬式の銃を撃つことができる射撃場は存在しない(※)。他の県だともう少し多い所もあるが、大体山の中なのでアクセスが良くなかったりもする(火薬の銃を撃てる射撃場は広いスペースを必要とするので、基本的に山の中になる)。こうしたことを踏まえると、仮に日本の女性に銃所持を許可したとして、彼女らが射撃技術を高める場所を十分に確保するのは難しいと言わざるを得ない。

※一般公開されていない射撃場を含めればゼロではない。例えば警察学校の射撃場、射撃競技の日本代表施設、大学射撃部の射撃場などは「一般公開されていない射撃場」になる。しかし、こうした射撃場を「女性向け射撃訓練施設」として開放するのは様々な点から不可能だろう。

 加えて、射撃練習の時間を確保するのも難しい。現在許可を得て銃を所持している人は、基本的に好きでやっているだけあって割と多くの練習を行っている。平日仕事で忙しい人であっても月一回くらいは射撃場に足を運んで練習しているし、人によっては休みのたびに練習に行ったりもしている。同様の時間を、「護身用として銃を持っているものの特に銃が好きなわけではない女性」が確保できるだろうか。忙しいから練習に行けませんという言い訳は通用しない。誤射をすれば無関係の命が奪われる可能性もあるのだから、厳しい練習をクリアしてもらわなければ困る。休日遊びに行く用事もある程度は我慢してもらうことになるだろう。

 こうしたことを考えると、正直ほとんどの女性にとって定期的に射撃訓練を行うことは困難であると言わざるを得ない(男性も同様だろうが)。場所もなければ、定期的に練習に行くほどのモチベーションも維持できないだろう。なので、仮に女性にのみ銃所持を許可したところで、結局は一部の意識の高い女性のみが銃を所持し、それ以外の女性は銃は持たないということになる。これでは銃所持を認める意味はあまりなくなってしまうと言わざるを得ない。

 

論点2:法律的観点


 前章では、射撃の技能的観点に焦点を当て、「女性にのみ銃所持合法化」について検討してきた。この章では、法律的観点に焦点を当てて考えていく。

※尺の都合上法令に関する説明はある程度ざっくりとした形にするので、詳しい法令に関してはこちらを参照のこと


 

銃刀法について ~現行法で銃所持が認められている人とは?~


ご存じの通り、我々の住む日本においては、基本的に銃(定義については法令を参照)を持つことはできない(銃刀法第三条)。しかし、第三条にはこう書かれている。

第三条 何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、銃砲若しくはクロスボウ(引いた弦を固定し、これを解放することによつて矢を発射する機構を有する弓のうち、内閣府令で定めるところにより測定した矢の運動エネルギーの値が、人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値以上となるものをいう。以下同じ。)(以下「銃砲等」という。)又は刀剣類を所持してはならない。

 

 
 これによると、ある特定の条件を満たした人は、日本でも銃を所持できるらしい。前章でもちらっと触れたが、これについて考えていこう。

 第三条における各号には次のようなものがある。と言ってもかなりの数の規定があるので、重要なものをピックアップして説明する。詳しくは全文を参照頂きたい。

 法令に基づき職務のため所持する場合

 これは分かりやすいだろう。警察官や自衛官、海上保安官などが該当する。

 

 第四条又は第六条の規定による許可を受けたもの(許可を受けた後変装銃砲刀剣類等(つえその他の銃砲等又は刀剣類以外の物と誤認させるような方法で変装された銃砲等又は刀剣類をいう。以下同じ。)としたものを除く。)を当該許可を受けた者が所持する場合

 この「第四条」というのは、「一般人が許可を得て銃を所持する場合」に関する決まりである。このnoteにおいては割と重要なので、第四条について見ていこう(第六条は省略)。と言ってもこれもかなりの数の規定があるので、代表的なものに限って説明する。

第四条 次の各号のいずれかに該当する者は、所持しようとする銃砲等又は刀剣類ごとに、その所持について、住所地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受けなければならない。

 狩猟、有害鳥獣駆除又は標的射撃の用途に供するため、猟銃若しくは空気銃(空気拳銃を除く。)又はクロスボウを所持しようとする者(第五号の二又は第五号の三に該当する者を除く。)

 一号に書いてある用途は狩猟、有害鳥獣駆除、標的射撃とある。狩猟と有害鳥獣駆除はイメージがしやすいだろうが、標的射撃はイメージしにくいかもしれない。
 標的射撃は、簡単に言えば競技射撃である。射出されたクレーと呼ばれる皿を散弾銃で撃つ「クレー射撃」や、固定された標的をライフル銃やピストルを用いて射撃し命中精度を競う「ライフル射撃」が代表的な競技射撃となる。クレー射撃もライフル射撃も、オリンピック種目として正式採用されている立派なスポーツである。


 他にも銃所持が認められる人は存在するが、比較的メジャーな所持者に関して言えば第一号に該当する人と言って良いだろう。そして残念ながら、法律では「護身用」として銃を所持することは認められていない

 さらに言うと、第四条の用途であってもすべての人に所持を認めるわけではない。法律では、「銃を適切に扱うことが難しい人」については第四条の用途であっても所持を禁止している。本noteにおいては重要な部分であるので、少し詳しく説明しよう。

銃刀法について ~現行法で銃所持が認められていない人とは?~


 仮に法的に正当な用途であっても、銃を正しく扱うことが難しい人は銃砲の所持は認められない。では、法律で「銃を正しく扱うことが難しい人」とされる人はどのような人なのだろうか?一部代表的なものを紹介しよう。

第五条 都道府県公安委員会は、第四条の規定による許可を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合又は許可申請書若しくはその添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けている場合においては、許可をしてはならない。

一 十八歳に満たない者(空気銃の所持の許可を受けようとする者で、国際的な規模で開催される政令で定める運動競技会の空気銃射撃競技に参加する選手又はその候補者として適当であるとして政令で定める者から推薦されたものにあつては、十四歳に満たない者)

三 精神障害若しくは発作による意識障害をもたらしその他銃砲等若しくは刀剣類の適正な取扱いに支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものにかかつている者又は介護保険法第五条の二第一項に規定する認知症である者

四 アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者

五 自己の行為の是非を判別し、又はその判別に従つて行動する能力がなく、又は著しく低い者(第一号、第三号又は前号に該当する者を除く。)

六 住居の定まらない者

 まず一については年齢制限だ。火薬を使用する銃に関しては、18歳未満の人は例外なく所持が認められない。競技に使用する空気銃であれば、特別な手続きを経て14歳から所持できる。

 三における「政令で定めるもの」とされる病気は、「銃砲刀剣類所持等取締法施行令」という政令によって次のように定められている。

第八条 法第五条第一項第三号の政令で定める病気は、次に掲げるものとする。

 統合失調症

 そううつ病(そう病及びうつ病を含む。)

 てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害がもたらされないもの及び発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)

 前三号に掲げるもののほか、自己の行為の是非を判別し、又はその判別に従つて行動する能力を失わせ、又は著しく低下させる症状を呈する病気

 その他、銃刀法第五条では、銃を所持する上でふさわしくないと判断される人に関する様々な取り決めがなされている(いわゆる「欠格事由」)。

 

銃刀法について ~現行法で所持が認められない銃とは?~


 銃に関しても、どのような銃でも許可がもらえるというわけではなく、厳しい制約がある。これについては先ほどの政令で次のように定められている。

第九条 法第五条第三項の政令で定める基準は、銃砲にあつては機関部又は銃身部に、クロスボウにあつては引いた弦を固定し、これを解放することによつて矢を発射する機構又は発射する矢の方向を安定させる機構に危害を発生するおそれのある著しい欠陥がないこととする。ただし、法第四条第一項第三号及び第八号から第十号までの銃砲等については、この限りでない。

 法第四条第一項第一号の猟銃又は空気銃に係る法第五条第三項の政令で定める基準は、前項に定めるもののほか、その構造又は機能が次に掲げる要件に適合することとする。

 連続自動撃発式でないこと。

 構造の一部として内閣府令で定める数以上の実包又は金属性弾丸を充塡することができる弾倉がないこと。
→内閣府令(銃砲刀剣類所持等取締法施行規則)では、ライフル銃は6発、ライフル銃以外の猟銃は4発と定められている


 口径が内閣府令で定める長さを超えないこと。
→内閣府令では、ライフル銃の口径は10.5mm、ライフル銃以外の猟銃の口径は12番と定められている。ただし、熊などの大型獣の捕獲(殺傷)に用いる猟銃の口径については、国家公安委員会規則によって、ライフル銃は12.0mm、ライフル銃以外の猟銃は8番と定められている。

 銃身長及び銃の全長が内閣府令で定める長さを超えること。
→内閣府令では、猟銃の銃身長は48.8cm、全長は93.9cmと定められている。ただし、標的射撃専用のライフル銃の全長については83.9cm、空気銃は79.9cmと定められている。

 構造の一部として内閣府令で定める消音装置がないこと。
→内閣府令では、「専ら発射音を減殺するための装置」とされている。

 2の一の「連続自動撃発式」とは、要はフルオート式銃のことであり、引き金を引きっぱなしにしていると自動で弾が発射され続けるような銃を指す。

 このような決まりは、基本的には「治安を著しく悪化させる銃はだめだよ」というものであり、例えばフルオートだったり弾が多く装填できるタイプの銃などは犯罪利用されると厄介なので禁止されている。銃身長や銃全長は指定の長さを「超える」ことが条件とされており、でかい銃は危険なはずなのになぜと考える人もいるかもしれないが、これは要するに「小さい銃はカバンとかに隠して持ち歩いたり、取り回しが効きすぎたりして犯罪利用しやすい」ということだ。従ってけん銃は基本的には許可されない(ただし、競技用に限り銃刀法第四条四で許可される)。

 といった感じで、一応法律では特定の用途に限り銃所持が認められているものの、正しく扱えない人には所持許可は認められず、危なすぎる銃も同様にダメということになっている。しかし、「女性のみ銃解禁」の議論においてなぜ筆者がこの論点を出したのか。それは、女性のみ銃解禁としたときに少なからず法改正の必要が生じ(当然だが)、その改正範囲については必ず議論する必要があるためだ。では、どのような部分が問題になってくるだろうか。


 

「女性のみ銃解禁」で問題となる法律


  女性にのみ銃所持を解禁した場合、銃刀法において問題となるのはどういった部分だろうか。

 まずは第四条であろう。日本において、銃所持が認められる用途の中に「護身用」という項目はない。従って、第四条に「護身用(ただし女性のみ)」という項目を加えることになる。

 銃所持の許可を与えるのだから、当然射撃練習に関する条文についても考える必要がある。狩猟や競技目的で銃を所持している人とは違い、護身用で銃を所持する場合必ずしも使用機会があるわけではない。従って、射撃練習に関する厳しい決まりを設けないと、使用機会がないため技能は向上しない。そのような状況で突然使用機会が訪れた場合、当然事故のリスクは高くなるだろう。

 では、現状の射撃練習に関する法律はどのようになっているかというと、

第十条の二 狩猟の用途に供するため第四条第一項第一号の規定による猟銃の所持の許可を受けた者は、狩猟期間(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律第二条第九項に規定する狩猟期間をいう。以下この項において同じ。)ごとに、当該狩猟期間内において初めて当該猟銃を使用して狩猟を行う前に、指定射撃場において当該猟銃による射撃の練習を行うよう努めなければならない。

 前項に定めるもののほか、第四条第一項第一号の規定による猟銃の所持の許可を受けた者は、猟銃による危害の発生を予防するため、猟銃の操作及び射撃に関する技能を維持向上させるよう努めなければならない。

とある。現状、射撃練習に関しては「努力義務」となっており、明確な基準がないということだ(一応3年以上使用実績がない銃は「眠り銃」とされ許可を抹消される可能性はある)。
 正直現行法による規定も少々甘いのではと思うことはあるが、女性に護身用として銃所持を解禁した場合にはまず間違いなく射撃練習に関する法律は改正する必要がある。特に狩猟や射撃が好きで所持するというわけではないのだから、明確な規定がなければ積極的に練習に行くことは期待できない。規定としては、一定時間の練習ができない場合は所持を認めない、という形になるだろう。

 
 他に、そもそもなんの銃を持たせるのかという懸念点も出てくる。さすがにライフルを持ち歩くのはしんどいだろうから、当然けん銃ということになると思われるが、けん銃は先述した通り治安の観点からはかなり危険な代物だ。加えて扱いも難しいので、そのあたりは慎重にならざるを得ない。

 
 しかし、個人的にはもう少し考えるべき点があると考えている。それは、「現行法において銃所持が認められない人たち」の扱いである。第五条では「銃を正しく扱うことが難しい」人には銃所持は認められないよ、ということが書いてあるが、女性にのみ銃所持を解禁した場合、こうした人の扱いはどうするのか。

「判断能力が低い人」に銃を持たせない場合どうなるか


  「銃刀法について ~現行法で銃所持が認められていない人とは?~」の項目で挙げられているのは、概して「判断能力が低い」と考えられる人たちである。例えば年齢が低かったり、精神的な病気を患っていたりする人は、判断能力が低いために銃を正しく扱えないというリスクがあるため所持許可は認められないということになる。

 これを踏まえた上でまず考えるのは「女性にのみ護身用で銃所持を認めるが、第五条は現状のまま維持する」とした場合のシナリオだ。つまり、「女性にのみ銃所持を解禁するが、判断能力が低い女性は例外」とした場合についてである。

 女性にのみ銃所持が解禁されたが、判断能力の低い女性は例外となっている世界に生きる性犯罪者の視点になって考えてみよう。原則女性には銃所持が認められているので、うかつに女性に手を出すと自分の身が危ない。しかし、法律上「判断能力が低い」女性は銃を持つことが許されていない。例えばうつ病を患っている女性や年齢の低い女性は、銃を持っていない可能性が高い。知的障害を患っている人も銃所持については怪しいだろう。そうした女性であれば、ターゲットにしやすくなる・・・グヘへ


・・・というように、「女性にのみ銃所持が解禁されているが、判断能力の低い人は例外」という世界においては、判断能力が低いとされる女性(未成年、うつ病患者など)は言ってしまえば恰好の的になるのである。もちろん現状でもそうした女性はターゲットになりやすいかもしれないが、一般女性が銃という強力な武器を所持している状況ではますます無防備さが際立つことになる。


「判断能力が低い人」に銃を持たせたらどうなるか

 

 女性にのみ銃所持を解禁したとして、判断能力の低い女性に所持を認めないのであれば、そうした女性がターゲットになってしまう。では、そうした女性を守るために、第五条を改正して判断能力が低く手も銃を所持できるようにしよう・・・とした場合はどうなるだろうか。

 当然、判断能力が低い人に銃を持たせるのだから様々なリスクが付随する。第一に考えられるのは、不適切な使用により自己または他者を傷つけるということである。考えやすいところで言えば犯罪利用というのもあるだろうし、うつ病患者であれば自殺用に用いる可能性もある。銃で頭を撃ち抜けば即死であるため、自殺用としてはかなり魅力的だ。実際、所持許可を得た人であっても自殺に銃を使ってしまうことはあり、猟銃自殺事例は残念ながら一定数存在する。

 Twitterランドには一定数「自殺擁護主義」の人がいるので、銃が自殺用に使われることの問題点を理解できない人もいるかも知れない。自分で自分の人生に終止符を打つのだから、その自由はあって然るべきといった意見の人もいるし、勇気を出して他の人の自殺を止めた人が批判されることもある。

 しかし、銃が自殺用として使用された後のことを考えてほしい。使用者が銃で自らの命を絶った後、残された銃はどういう状態になるだろうか?当然、死体のそばに誰の管理下にも置かれていない銃が落ちているということになるだろう。第一発見者が善良な人であればまだいい。銃に触れることなく、すぐに警察に通報するだろう。絶望の中で世を去った個人を悼むこともあるかもしれない。それでは、現場を発見した人が善良な人ではなかったら?その銃は善良でない人によって持ち去られ、善良でない使われ方をするかもしれない。誰の管理下にも置かれていない銃が放置されるというのは、それだけ恐ろしいことなのだ。

 自殺などでなくとも、「うっかり」で銃を放置してしまう可能性もある。うっかり銃をどこかに置き忘れた、弾をどこかに忘れた、などの可能性は、判断能力の低い人であれば十分に考えられる。これは残念ながら現状の銃所持者においても確認されている事例である。

【事例12】猟銃と実包を積載していた自動車ごと盗難に遭った事例

 早朝キジ猟に出発する予定で、前夜、自動車の後部座席に散弾銃1丁と実包約200個を積み込み、銃と実包は布団で覆い外部から見えないようにし、自動車に施錠し、自宅駐車場に止めておいた。翌朝、猟に出発する際に自動車ごと盗まれていることに気付いた。

一般社団法人全国指定射撃場協会発行『猟銃等取扱いの知識と実際』より

 

【事例13】帰宅途中、立ち寄り先で自動車ごと盗難に遭った事例
 射撃場で練習後、ケースに入れた競技用のライフル銃1丁と実包を車両の後部座席に置いたままパチンコ店に立ち寄り、6時間後に同所を出て来たところ、自動車ごと盗まれていることに気付いた。

一般社団法人全国指定射撃場協会発行『猟銃等取扱いの知識と実際』より

 

 両事例とも控えめに言ってアホなのかと思ってしまうような事例だが、銃所持者でもちょっとした気のゆるみでこうしたことが起きてしまうというということである。判断力に欠ける人であれば、なおさらこのような「うっかり」をしでかすリスクも高い。「うっかり」によってどのようなリスクがあるかについては・・・言わなくともわかるだろう。

 他にも色々なリスクが考えられる(例えば暴発とか)が、いずれにせよ銃は正常な判断ができない人に持たせるとかなり危ない。従って、仮に女性に銃所持を解禁させるとして、判断能力が低い人に持たせる場合はここで挙げたようなリスクは覚悟しなければならないだろう。




法律的観点について(まとめ)


 ここまで、主に今の日本の銃刀法に焦点を当て、女性のみ銃所持を解禁した場合について検討してきた。ここまでの論を見て分かると思うが、ぶっちゃけ筆者は女性にのみ銃解禁には反対の立場である。が、仮に女性にのみ銃を解禁しよう!とした場合には、こうしたことはしっかりと考える必要があるだろう。


まとめ


 ここまで、主に「技能的観点」と「法律的観点」に焦点を当て、「女性にのみ銃所持を合法化」という意見について検討してきた。正直な感想を述べると、「女性にのみ銃所持を合法化せよ」と言っている人は、銃というものについて甘く見すぎているのではないかと感じざるを得ない。銃は非常にリスクの高い武器であるため、その使用については厳しく考えなければならないだろう。

 「技能的観点」「法律的観点」以外にも検討すべき事項はある(例えば、銃は結構高いので経済的な面はどうするのか、など)。本気で女性に銃を持たせたいのであれば、そうした部分についても是非考えてみてはどうだろうか。




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