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麻雀AIから我々は何を学べるか
こんにちは。小江戸緑です。
私は麻雀AI・NAGAを利用しています。
NAGAとは、天鳳や雀魂で利用可能な、麻雀AIによる打牌選択の解析サービスです。
NAGAのサービス開始は2021年8月で、それ以降に誕生した天鳳位は4人いますが、その中で継続してNAGAを利用し続けているのは、私だけかもしれません。
そのため、私は「AI世代」初の天鳳位と言えるかもしれません。
本noteでは、NAGAを活用して天鳳位を獲得した私が、NAGAをはじめとした麻雀AIとどのように付き合っていくべきか、という持論をお伝えします。
具体的なNAGAの活用場面は次回の記事で説明する予定であり、
今回はNAGAを含む麻雀AIの価値について、私の考えを述べたいと思います。
抽象的な内容が多く、牌図などはあまり登場しないため、本記事は全文無料としています。
本記事は私の麻雀観に関する内容も含むため、麻雀AIを使っていない人でも、もし興味があれば読んでみてください。
麻雀における"損得観"
麻雀は「期待値を追うゲーム」だと言われます。
選択Aと選択Bを比較し、どちらがより多くの得点をもたらすかを判断するというものです。
「期待値を追う」という言葉の響きに反して、実戦でプレイヤーが何らかの具体的な計算を行うことありません。
重要なことは、このような選択の比較は通常感覚的に処理されます。
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簡単な状況では、「相手のリーチに押したときの和了率と、ベタ降り時のツモられ率を概算」し、選択の損得を比較することは可能です。
しかし、強者でも判断が分かれるような比較においては、そのような計算はできないことがほとんどです。
結局、麻雀が強くなるということは、損得を判断する感覚(損得観と呼ぶことにします)を磨くことに他なりません。
何もなければ、損得観は自身が手探りで探求するしかないでしょう。
強くなるのに「打数は正義」と言われるのはこのためです。
「過去に同じような状況でリーチを打ったら成功(失敗)した」などの数多くの体験が、意識的にしろ無意識的にしろ、打ち手の現在の選択の教材となります。
麻雀AIの役割
戦術本と麻雀AIの違い
一から手探りで損得観を調整するには、よほどセンスのある人間を除いて、非常に多くの時間を要します。
そこで多くの人たちに対して指針を示してきたのが、戦術本(最近では動画教材)です。
戦術本の主な役割は、主要なケースにおける選択のメリットとデメリットを解説することです。
その上で、「この本に書いてることを実践すると、うまくいく可能性が高い」という指針を示します。
一方で、戦術はあらゆるケースに万能ではあり得ず、損得観の微調整にはプレイヤー自身の経験が必要です。
実際、「いまここにある何切る」に対して、戦術本が直接その解答を示すことはありません。
「座学」だけでは強くならないということです。
その点で、NAGAなどの麻雀AIサービスの台頭は、革新的なものであったと思います。
なぜなら、麻雀AIは「いまここにある何切る」に明確な回答を示すからです。
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AIの打牌選択理由を解釈する
NAGAは、天鳳位などの強者の牌譜を参照し、打牌選択を行います。
自己対戦型のAIは、膨大な数の自己対戦経験から、打牌選択を行います。
両方を融合したAIもあるかもしれません。
いずれにせよ、麻雀AIは打牌理由(すなわち戦術)を示しません。
麻雀AIが示すのは損得観だけです。
麻雀AIは、膨大な数の経験から類似状況を参照した打牌選択をしており、そこに明確な意図はありません。
しかし、麻雀AIサービスを活用して自身のスキルアップを図る場合には、そこに意図を見出す必要があります。
この作業は、既存の戦術に則ってAIの選択を解釈をする一種の翻訳作業と言えます。
(もしも意図が不明な選択があれば、それはバグか未知の戦術の存在を意味します)
そのため、麻雀AIを効果的に活用するには、基本的な戦術をしっかり理解している必要があります。
幸い、麻雀において、基本的な戦術を理解しておくことは、それほど大変ではありません。
戦術とはたとえば、「平和ドラ1は基本即リーチ」とか、「安牌がなければ暗刻を落として凌ぐ」などの基本的なメソッドです。
これらはある程度語られ尽くしているので、いくつかの戦術書を読めばほとんど網羅できます。
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麻雀AIで"損得観"を磨く
損得観の提示は、特に「麻雀の基本的な戦術をほとんど知っている」中級者以上にとって、非常に有用です。
麻雀AIの登場以前は、数多くの試行錯誤を通じて体感的に損得観を磨くしかなかったのに対し、AIはそれを数値として示してくれます。
たとえば、以前話題になった以下の局面。
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NAGAにきいてみます。
比較的私に選択が似ていると感じるガンマ(守備型)と、ニシキ(バランス型)の2タイプを参照しました。
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・ガンマ 「3p切りと8p切りでトントン。3p切り時はダマ(※)」
・ニシキ 「3p切りリーチ一択」
(※)
(ガンマの打3p時のリーチ推奨バーが表示されていないのは、ガンマは正確には打8pを推奨しているため、打3p時のリーチ推奨度は不明です。
対面の河の6sを6pに変えるなど、3pを切りやすい状況を編集し、ガンマに聞いたところ、3p切りダマを推奨しました。
したがって、この局面でもガンマは打3p時はダマを選択すると考えられます)
まとめると、
「3p切りリーチ・3p切りダマ・8p切り降り」はどれも優劣つけ難い
ということになります。
私がこの例で言いたいのは、どの選択が本当に最良なのかを明らかにすることではありません。
麻雀における強さとは、自身の損得観が常に最適なバランスにすり合わされている状態です。
すなわち、上記3択のどれも甲乙つけ難いというバランス感覚を持っておくことが真に重要なことであり、それを示してくれるのが麻雀AIの素晴らしい点です。
今回の問題に類似した状況は、たしかに遭遇することはあります。
そのたびに「3p切りリーチ」「3p切りダマ」「8p切り降り」のどれかを試して、牌譜を確認し…という作業を繰り返し、どれが最良の選択かについて確証を得ようとするには、1回の人生では足りないかもしれません。
その点、自己対戦などの経験が豊富なAIが、おそらく過去の似た状況と照らし合わせて「どれも甲乙つけ難い」と言っているのです。
言ってみればAIの提案はめちゃくちゃ長生きしてる長老のアドバイスみたいなものです。
私はAIについて全幅の信頼を置いているわけではなく、むしろそれなりに怪しい提案をしてくることもあると思っています。
その点も含めて、「AIの意見は長老の意見」くらいの認識がちょうどいいのではないかと思います。
結局のところ、麻雀は勘
まとめると、麻雀が強くなるために必要なステップは大きく分けて2段階です。
① 基本的な戦術(=とりうる選択の方針)を全て理解する
② 損得観をすり合わせる
この段階②にめちゃくちゃ時間が掛かるので、ダイレクトに損得観を提示してくれる麻雀AIが有用であるということです。
損得観は、最終的には感覚、つまり「勘」として身につくものです。
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私はわりと完璧主義な性格なので、昔は「100回打って100回同じ選択ができる再現性が大切」と考えていたことがありましたが、結局のところ麻雀は感覚で打つものなので、これは無理なことだと悟りました。
むしろいまは、良い意味で、その場のノリを楽しむゲームだという認識です。
再現性はなくてもいいです。
「よくわかんないけど、リーチ!」で上手くいったら喜びましょう。
大事なのはリーチかダマかの損得がボーダーの時にそれを正しく認識できる能力であり、あとはその場の流れに身を任せて結果に一致一憂するのが、麻雀の楽しいところだと思います。
今回の記事では、麻雀AIがどのような点で革新的であり、有用であるかについて書きました。
次回のnoteでは、私がNAGAをどのように利用してきて、NAGAのどこに信頼を置いているか、という点について、具体的な牌図とともに見ていきたいと思います。