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自由に生きるために、学ぶ。未来の「学び」に向き合うCEO・後藤正樹の思い【前編】

コードタクトのCEOであり、主要プロダクト「スクールタクト」の開発者でもある後藤正樹。自らが教育の現場に立っていた経験もあり、現在は教育哲学者や文部科学省・デジタル庁とも関わりをもちながら、未来の「学び」のありかたについて探究し続けています。
 
後藤の「学び」に対する哲学は、コードタクトのミッション・ビジョンにも色濃く反映されています。コードタクトの事業についてよりよく知っていただくために、後藤がコードタクトの事業、そして「学び」について、今抱いている思いをひもとくインタビューを実施しました。

プロフィール
後藤 正樹 / 代表取締役 CEO
指揮者 / 未踏スーパークリエータ / 教育心理学
東京大学大学院総合文化研究科で複雑系を学びつつ、並行して洗足学園大学指揮研究所も卒業。起業後に早稲田大学教育学研究科博士課程に入学し、満期退学をする。大手予備校にて物理科講師、教育系企業でのCTOを経て、現在、株式会社コードタクト代表取締役、株式会社スタディラボ取締役、また、デジタル庁にて非常勤国家公務員として教育のデジタル化を進める。
これまでに総務省プロジェクトマネージャーや教育委員会の委員なども務める。またエンジニアとして、情報処理推進機構(IPA)より未踏スーパークリエータに認定、指揮者としては琉球フィルハーモニックオーケストラ指揮者などを務める。

人生に「学び」が必要なのはなぜだろう?

—コードタクトのミッションは「『学び』を革新し、誰もが自由に生きる世界を創る」。カギ括弧で括られた「学び」という言葉が重要なキーワードですが、そもそも「学び」とはどういうことだと考えているのでしょうか。
 
後藤:「学び」とひとことで言っても語義は多様です。なにか試験のための勉強といったイメージを抱く人も多いでしょう。しかしここで掲げている「学び」は、試験などのために知識を習得することだけを指しているわけではありません。ではなんなのか、というのをお話しするために、少し視点を広げてみます。
 
日本国憲法では基本的人権の一つとして「幸福追求権」が保障されています。一人ひとりが個人として尊重され、幸福になる権利がある。そして少なくとも現時点では、幸福であるためには「自由であること」が最も相関が高いだろうと言われています。
 
何が幸福かは多様で定義がしがたく、たとえばおいしいお菓子を食べられたら幸せという人もいれば、食べたら体重が増えてしまうと気に病む人もいる。何を選ぶかは人それぞれですが、自分で選ぶ権利がある状態、つまり自由であることが一番幸福に近いと言えるわけです。
 
—つまり、自分がやりたいように生きられればそれでよいということになるのでしょうか。
 
後藤:その点をどう考えるかが、まさに重要です。今ここで自分が選ぼうとしていることは、短期的には最適な答えに思えるかもしれないけど、人生という長期で考えると、もっと良い答えがあるかもしれない。将来にわたって選べる選択肢が多くある状態にすることが大切なんです。そこで学びが必要になってきます。自分が自由であり続けるためには、環境に合わせて自分を刷新し続けることが必要で、それこそが学びだと、私は考えています。
 
たとえば狩猟時代に生き延びるには足が速い、筋力が高いといった身体能力が重要でしたが、現代ではもっと生き延びるための能力は多様化していて、AIを活用して成功する起業家もいればほかの可能性も多々あります。自由でいるために必要なことは、当然環境に応じて変化するわけです。

また、病気や失職など生活で困難が生じたときに、行政のケアを受ける権利があること、受ける方法を知っているかどうかでその先の立て直しに大きな差が生じる場合もあります。さらに言えば、知っているつもりでも誤解や偏見が自分の中にあれば、それが適切な支援を受ける妨げにもなる。こういうことはほかにも世の中にたくさんあって、私は非常に残念なことだと思いますし、できる限りなくしていきたいんです。
 
—身につけた知識が少ない、あるいは歪みがあることで、自分の人生が縛られることもあるわけですね。
 
後藤:その通りです。基本的には、なるべく多くの選択肢をもっていて、そこから絞り込むプロセスをとることができるのが良い状態です。自己決定を広げる力も、また絞り込み選び取る力も、ともに学びによってこそ得られるものなのです。

一人ひとりが自然と学び、よくなっていく「場」を創る

—個人が自由でいられるためには、自分を刷新し続けること、つまり学びが必要であると。そういう「学び」をサポートするために、コードタクトは事業を通して、社会にどんな働きかけをしているのでしょうか。
 
後藤:ビジョンには「個の力をみんなで高め合う『学びの場』を創る」と示しています。ここで「場」という言葉を用いているのが重要で、場をデザインしてITの技術で実現したものがスクールタクトであり、チームタクトです。
 
—「学びの場」について掘り下げて聞かせてもらえますか。「場」とはなんでしょう?
 
私は大学院で物理学を研究していたので例に出しますが、物理学において「場」というのはすごく大事な概念です。私たちが今生きているこの空間は、重力場です。空間には何もないと思われるかもしれないですが、何かモノが出現するとその瞬間に重力が生まれます。何もないのだけど何かがある「雰囲気」があって、実際にモノがあると力が生じるということが「場」なんです。
 
より良い「場」があれば、人間は自然に自己調整してより良くなっていくものです。アフォーダンスという概念では、動物は環境に合わせて適合した行動をとるとされます。たとえばペットボトルのデザインは、明示的には書かれていませんが自然と持つ部分が定まるように、デザインによって暗に導かれています。
 
スクールタクトでは協働学習モデルとして「内省・対話・探究」の3つのキーワードを定めています。使う教員や子供たちが意識しなくても、内省・対話・探究が自然に進む場。この実現をめざして、プロダクトを設計しています。

教育におけるAI活用は、生産性向上ではなく「より考えさせる」ことを目的に

—授業支援クラウド「スクールタクト」の開発において大切にしているのはどんなことですか。
 
後藤:コードタクトのビジョンでも述べていますが、社会課題が多様化、複雑化する現代では、多面的に見ること、様々な価値観の人たちと交わりながら物事を進めていく力が求められています。スクールタクトは、みんなで学び合う「協働学習」をサポートするためのツールです。
 
そのために様々な機能を開発していますが、現在進めている機能を一つご紹介します。それは、ディスカッションの際に、AIを活用して教室にいる子供とは異なる意見を紹介できる機能です。
 
学校に通って集団で学ぶ意味の一つは、多様な学びをすることです。一人で勉強するなら家でもできるところを学校に行くのは、いろいろな子供がたくさんいて、その中で経験をして学び合うことに意味があるのです。ただ公教育の場面では、近隣の地域で同学年の子供を集めるのが現実的です。

居住エリアが同じということは比較的生活環境も似ていて、多様といっても同質性が高い集団になります。出てくる意見も同質性が高くなるのはどうしても避けられません。そこで、AIを使って属性の違う人の意見を入れ、議論の幅を広げるAI機能を開発中です。
 
授業で、街の公園はどんなものがあるとより良くなるか、という問いを出したとします。子供たちはもっと遊具がほしい、球技ができるように広いスペースがほしいといった意見を出します。一方で60代の人が公園に求める価値は、健康の維持増進や憩いなど、子供たちのそれとは異なるわけです。こういった意見をAIを使えば意図的に匿名にして子供たちの意見に混ぜることもできます。

このように異なる意見を目にすることで、子供たちはなるほどと思い、それが「選択肢が増える」経験に繋がります。国内だけでなく、多様な国の価値観を取り入れることもできます。こうして「内省・対話・探究」の中でも「対話」の幅が広がることで、内省や探究がさらに高まっていくようになります。
 
—教室にいながらにして、子供たちの経験が拡張していくのですね。
 
後藤:今、AIは業務アプリなどでも活用が進んでいます。それは生産性向上のためで、つまりいかに人間が脳のリソースを使わずに済ませるかという方向に用いられる。私は、教育におけるAIはその逆で、それによっていかに考えさせるかという方向に使わなければいけないと考えています。

今、学校でも子供たちにパワポやエクセルなどの業務アプリだけを使って授業をする流れもありますが、正直、私は反対です。教育DXにおいては、世の業務効率化の流れと「学び」のためのIT活用は明確に分けて考えるべきです。
 
—ビジネスと教育では、技術の使い方が異なる。そこにコードタクトの独自性が表れているといえるでしょうか。
 
後藤:そうですね。たとえばドリルアプリにおけるAIの活用というと、足し算引き算をどうやって最短で習得するか、というのが目的で、それは業務アプリの設計と近いかもしれません。それはそれで必要なものではあります。一方で、私たちはいかに遠回りをするか、つまり選択の幅を広げていくかを考えていきたい。そこがコードタクトの独自性といえます。人間、省力化したいのは性ですから多くがそちらの方向に進むと思いますよ。でも、みんながあまりやりたがらないところを、うちがやるのがいいんじゃないかなと思っています。


後編インタビューもお楽しみに!
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