森林を守るために一部の木を伐り、光りを届ける
木材を使うことは、森林のもつ機能の発揮に繋がる
森林が、土砂崩れを防ぐ・森林が水を溜める・洪水を緩和し、水を綺麗にしているなどの多面的機能を発揮するために、木を「植える→育てる→使う→植える」というサイクルを作り、健全な森林を保つ必要があります。また、サイクルを回すことで、森林が「若返る」ことができるのです。
自分の目で見て森林を学びたいと思い、2022年12月12日に東京の森で開催されたエコツアーに参加しました。私たちが参加した「東京の木・多摩産材エコツアー」は誰でも参加することが可能です。林業に詳しくない一般の人々でも、日本の森林を身近に感じ、体験できます。
山に登り、見て、体験して、学ぶことがある
エコツアーで私たちが登った東京都の檜原村(ひのはらむら)グリーンサンタの森という山。
秋川木材協同組合エコツアーガイドの髙濱 謙一さんに案内していただきました。
細い急斜面の山道を上の方まで登りました。グリーンサンタは他の山と違うことがあるそうです。私には一体何が違うのか、わかりませんでした。写真は、山の上部、足元の写真です。
他の山と違って、山の上部エリアは間伐(かんばつ)を30年ほどしていませんでした。
森林の成長に応じて、一部の木を伐採する間伐という作業があります。なぜ、檜原村グリーンサンタの森は間伐を行っていないエリアがあるのでしょうか。
人工林は間伐を行わないと、山が崩れてしまうことを知ってほしい
その理由は、間伐を行わないとどのような状況になるのか、目で見てわかるようにするためです。
間伐を行っていなかったエリアは、たくさんの木が密集して生えたままで、それぞれ木の葉っぱが生い茂っていました。地面から見上げてみると、空が見えず、葉で覆われている状態になります。したがって日の光が森林の中まで入らず、地面まで光が届きません。森林全体が薄暗い印象を受けました。
人工林についての記事はこちら
写真を見てもらうとわかりやすいと思うのですが、たくさんの落ち葉や枝があり、下草が生えていました。落ち葉の上を歩くのはとても滑りやすく、大変でした。
下草がたくさん生えると、そこに動物たちが隠れ、土が固まらず土砂崩れのような状態になり、いずれは山が崩れてしまうそうです。
森林整備の作業の中に下刈り(したがり)があります。下刈りは、たくさん生えた下草を刈ることで、山が崩れるのを防ぐことにつながるのです。
森林の多面的機能「土砂崩れを防ぐ」ために、間伐や下刈りなどといった、人の手をかける必要があります。
木を育てるだけでなく、販売できる木材として管理もしないといけない
間伐を行っていないエリアから木材生産のためのエリアに移動し、1本1本のスギの木を見ながら、具体的な森林整備のお話を聞かせてもらいました。
木の高さが25メートルほどの場合、16メートル売れればよい
木の上部分は細くて売れないので、枝打ちしなくてもよい
日当たり、傾斜、栄養土で太さが変わってくる
年輪を綺麗にするため、間伐は少しずつ行う
作業中に、斜めになっている木が倒れてくる危険性がある
暗くなると作業できないので、朝早くから行う
夏はとても暑く、塩を舐めながら作業する
台風や雪で木が二股になり、二股になったら売れない
一本一本丁寧に、何十年かけ育て管理しても、台風や雪、日当たりといった自然現象で売れなくなる木ができてしまう厳しい現状を知りました。
雨が水を作り、ミミズは山の土を柔らかくし、水を吸収しやすい状態にしてくれている
登った山道は前日に雨が降った後なので、少しぬかるんでいました。ぬかるむと歩きづらく、移動や作業が困難になると感じました。
しかし、山に雨が降るのはとても大切なことです。その理由は、森林には多面的機能の1つ「水源涵養機能(すいげんかんようきのう)」があるからです。
ぬかるんだ土は滑り危険ですが、その一方で森林の多面的機能である水源涵養機能が働き、雨水を吸収し貯留しています。また、私たちが登った山にはミミズがいるそうです。ミミズは、土を柔らかくし、土がたくさんの水を吸収しやすくします。
雨が降り、土に吸収された水に含まれるリンや窒素などの物質は、土壌の中に保留され、植物に吸収されます。そして、土壌の中に含まれるミネラル成分が水に溶け出し、おいしい水が作りだされます。
エコツアーで実際に雨の翌日に山を登ったことで、水源涵養機能やミミズの役割を実感しました。
木を販売する市場がある
山を降り、車に乗って原木市場(げんぼくいちば)と言う市場へ移動しました。正式名称は、原木市売市場(げんぼくいちうりしじょう)です。
市場に運ばれてくる原料や材料に使う木を、原木(げんぼく)と言います。
私たちが訪れた日は市場が開かれた数日後だったこともあり、原木の本数がいつもより少なかったようです。それでも積み重なっているいくつもの木の山を見ると、迫力がすごかったです。
木はせりにかけて販売する
原木市場ではどんなことを行っているのでしょうか。
原木市場の主な流れ
伐った原木を運んでくる
一回のせりで、約700立方メートルの量の原木がここに運びこまれる伐ってきた山林、樹種、会社、用途ごとによって仕分ける
仕分けた原木を太さでもわけ、三角のピラミッド型のかたまりにまとめる
仕分けたものを販売する
三角のピラミッド型を一つの山というそうです。
並べた後の木の管理は、どこの会社のものかわかるように伝票を使います。
原木は、製材所の方たちがせりで購入します。
せりの流れは下記のようになっています。
30社ほどの製材所の方が参加し、せりを行う
基本的に1山での販売。太いものは、1~3本で売る
せりが終わり次第、原木をそれぞれもって帰る(後日でもよい)
せりで売れ残りがあることはないそうです。
木は丸い形だが、円柱ではなく立方体で計算し金額を決める
原木の山を近くで見られる場所に移動し、見学させてもらいました。
まずはじめに、スギです。スギは樹液が溜まって真ん中がとても赤く見えます。これを赤身(あかみ)というそうです。周りの白い部分は白太(しらた)と言います。白太の部分だけ欲しいという業者の方もいるそうです。
せりで選ばれやすい原木は
伐った小口(こぐち)ができるだけ正円なもの(小口とは切り口のこと)
効率よく板や柱がとれるため節が外に出ていないもの
無節・節なし木材がとれるためあまり赤身が黒くないもの
伐り旬(きりしゅん:あまり水を吸っていない時期)の木材の方がよいため
そのような原木を買うために、せりが行われる何日か前に製材所の方が下見にきます。デザイナーの方やプランナーの方はせりで原木を買う権利がないので、製材所の方と一緒に下見に来た段階で、「この原木を買ってほしい」とお願いし、購入するといった流れになります。
原木を1〜3本で売る場合の販売方法は、原木1本の単価ではなく、大きさ㎥(立米:りゅうべい)です。
立方メートルと同じ1m×1m×1mの立方体の体積を指します。
例えば、直径30㎝長さ4mの木の場合は、0.3×0.3×4という計算です。
原木の直径の直方体で計算するということは、画像の緑の部分も購入していることになります。
「木は丸いのに、原木は直方体で計算して購入します。木でなく空気の部分も買っているのは不思議ですよね」というお話をされていました。
原木の小口を見て、林業家の方たちの丁寧な仕事ぶりを感じる
写真の左側の原木は、小口を見ると枝があった形跡があり、外側に枝が出ていないので、枝打ちされたことがわかります。
写真のように年輪を綺麗にするためには、色々な方角から木に太陽光が当たるのが理想です。したがって、木や地面に光りが届くようにするための間伐はとても重要なことがわかります。
右側の写真の「多」の文字は、多摩産材マークです。また、58と書かれた紙は、購入した人が誰かわかるようにするためのものです。緑色の数字の8は、サイズを表しています。
多摩産材の出荷の話を聞かせていただきました。
多摩産材は出荷証明があります。出荷証明とは、いつ、どこの製材所から多摩産材をどういった寸法で何本出荷したか分かるようにするものです。
秋川木材協同組合では、産地証明もだすそうです。
産地証明とは、
何年何月にどこの森林組合が、どこの番地の森で伐った木なのか
いつ開催されたセリで、どこの製材所の方がセリ落としたものなのか
製材所ではどのような寸法で加工し、出荷したのか
が分かるものです。
これをできることが多摩産材の強みだといっていました。
ホームセンターなどで木材を見る機会があっても、原木を見る機会は滅多にないので、貴重な体験になりました。原木市場の後に、製材所にも連れて行ってもらったので、続きの記事をまた更新したいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
私たちCODESIGN TOKYOが、
子どもたちが育つ未来のためにできることはないかな?
子どもたちの笑顔につながる事業を興したいな。
そんな想いがきっかけで、「日本の森林のこと」「東京の木」について
自分たちで調べ、学び、体験したことを発信することにしました。
「日本の森林のこと」「東京の木」についての、「cocomoku-子どもたちの未来のために-」シリーズとして記事を更新しています。
シリーズの記事はこちら