国際法の国内法における地位とその可能性
国際法の国内適用の問題は、国際法の「国内的効力」と国際法の「国内適用可能性」に区別される。前者は、国際法は国内で法としての効力を持つか、という問題であり、後者は、国際法は国内で直接または間接に適用されうるか、という問題である。国際法の「国内的効力」は、それぞれの国の国内法が決める。国内法が国際法に抵触する場合、その国は国際法に違反しているとして国家責任を問われる。しかし、国際法は自らの力で当然に国内で法としての効力を有するわけではなく、山本草二によれば、国内法と国際法上の義務との適合性を達成するためにどのような方法を選定するかは、各国の国内管轄事項に属するとされる。
国際法が、国内法の階層秩序の中でどこに位置づけられるかという、「国内的序列」の問題も、国内法が決める問題である。日本では、憲法第98条1項が憲法の最高法規性と憲法違反の法令等の無効を定めるとともに、第2項で「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要する」と規定している。「確立された国際法規」とは慣習国際法を指すという。芹田健太郎によれば、砂川事件判決などの判例法上、日本では、憲法、条約、法律といった位階制が成立しているという。
国際法の「国内適用可能性」については、国内裁判所が特定の事案に国際法を適用するに際して、「直接適用」と「間接適用」という二つの方法がある。「直接適用」可能な規定とは、新たに立法や行政措置を待たずにただちに裁判所で適用可能な国際法の規定を指す。主観的要件としては、少なくとも、締約国の意思によって直接適用性が否認されていないことが求められる。さらに、客観的要件として、直接適用が可能なほど十分に明白で詳細な規定になっていることが必要である。
しかし、国内法における国際法の「直接適用」が否認されたとしても、「間接適用」の可能性がのこる。たとえば、小樽入浴拒否事件では、自由権規約や人種差別撤廃条約が、不法行為に関する民法の規定の「解釈にあたっての基準の一つとなりうる」と判示されている。とりわけ、人権条約が、国内法の解釈基準となる「間接適用」の事例があるようである。憲法、条約、法律の位階制が日本国内法で確立されているならば、憲法が許容する範囲で、法律の人権条約適合的解釈の可能性が、人権条約の「間接適用」によって、開かれうるだろう。
<参考文献>岩沢雄司『国際法』/芹田健太郎・薬師寺公夫・坂元茂樹『ブリッジブック国際人権法第2版』/山本草二『国際法新版』