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決裁

あかりは、企業に勤めている。長年営業企画の部署にいる。そこであかりは、契約の決裁や、営業用のイベント企画にかかる費用の決裁など、諸々の決裁処理の担当をしている。その仕事を希望していたわけではないが、入社時に先輩社員から引き継いで以来ずっとそれが彼女の仕事のひとつとなっていた。

実は悩みがある。諸々関係部署や法務などの課長、部長の承認をもらわないと決裁が完了しないのだが、そこに、尋常じゃない時間がかかることだった。通常7,8か所の押印欄が全て埋まらないと社長までいきつかない。だいたいが自分たちの仕事優先でこちらの書類を持っていてても、数日待たされる。全部が終わるのに、通常1ヵ月。

時代が変わり押印が実際の印から電子承認に変わっても、状況は同じだった。急ぎの案件のときは、各部署に出向いて行って催促するのが仕事のひとつになっていた。飲み会の席で、あかりは隣の部署の山田部長にぼやいていた。「この仕事、もう、本当に嫌になってきました。みんなから煙たがれながら、、法務からあそこが悪い、ここが悪いと言われながら。。やって当たり前で。感謝されることもない。。。」黙って聞いていた山田部長は言った。「なるほどなあ。俺が説得してみてもいいぜ。他の部長たちに。」


山田部長と話した後、また急ぎの決裁案件がやってきた。今度こそ、あっという間に決裁が終わっているに違いない。と、思ったのはただの希望的観測だった。今回は、最後に社長にいきつくまでに1ヵ月と3週間という、最長記録を樹立した。

事態は一向に変わる気配すらなかった。仕方ない。世の中なんて、そうそう変わるもんじゃない。と、あかりは、思った。いつもと変わらない日々が今日も続いていく。


そんなある日、また、急ぎの案件がまたやってきた。今週中に決裁をとらないといけないという決裁である。


あかりは、「あー、どうせまだ決裁終わっていないだろうなあ。。また、今日もお願いにまわらないといけないのか。」と憂鬱な想いで朝目をさました。


出勤して、パソコンを立ち上げ、決裁用の画面をみた。すべての決裁が終わっていた。


「え。すごい!」


すると、、決裁を見ながらある違和感が。

いつも見慣れた山田部長のサインがない。

山田部長は、先月末付けで退職していたことを、あかりは、その時初めて知った。

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