長谷川貞夫さん「最初の視覚障害者用ワープロからの初めての反応」
●最初の視覚障害者用ワープロからの初めての反応、高橋しのぶさん。
この直前まで点キーの便利さについて書いてきましたが、ここで初めての点字ワープロに話を戻します。
1981年12月19日にワープロ第1号機を作りました。
年が明けて1月の事でした。和光小学校四年生で全盲の高橋しのぶさんを連れてお母さんが筑波大学附属盲学校を訪ねてきました。用件は、最初のワープロをしのぶさんに使わせて欲しい、と言う事でした。なぜワープロ第1号機が出来た事を知ったのか?と不思議でした。それはお父さんがロゴス図書館の有名な高橋秀治さんだから、と分かりました。私は初めてのワープロを付属盲学校の児童か生徒で使って貰おうと思っていましたが、あいにく冬休みで児童や生徒はいませんでした。早速ワープロに取り掛かりました。まず、点字の456の点が付くと『新』や『進』のように音に『うん』が付く物と教えました。そうして『新』や『進』を書いて貰いました。その次にこちらが言う漢字を書いて貰いましたが、スラスラとしのぶさんは書いてしまいました。これからは、漢字2文字の熟語が良いなと思い『しんりん』と書いて下さいと伝えました。するとしのぶさんはきちんと『森林』と書いてくれました。私が良く出来ました、と褒めるともっと他に『しんりん』はありますよ、と言って『深林』を書きました。私は全く感心しました。そして、ワープロの作り方に自信を得ました。その高橋しのぶさんは、それから37年経ち今は都立八王子盲学校の英語科の教員をなさっています。また、毎週ある代々木公園での視覚障害者と走るランニングの会では『しのぶちゃん』の名前で出ています。
●『熱烈歓迎 中国印刷代表』と最初のワープロで書いた。
1982年の2月頃、日本点字図書館の本間一夫先生から電話がありました。用件は、明日中国のお客様が来るので何か見せて頂けますか?との事でした。本間先生には、まだワープロ1号機の話はしていませんでした。私はあのワープロをお見せするのが良いな、と思いました。そこで、はいお伺いしますとお返事しました。当時の日本点字図書館の三階にあった特別録音室に、中国からのお客様を6、7人ご案内して頂きました。私は中国印刷代表の皆さんの前で『熱烈歓迎 中国印刷代表』と書き、すぐプリントボタンを押しました。ジーッ、ジーッと言う印刷の音が終わると共に印刷された紙を送り出しました。そして中国の方にお渡ししました。すると、この印刷の紙をお読みになって拍手を頂きました。私は中国のお客様から拍手を頂き、とても嬉しかったです。あれから37年経ちました。あの方々はIT技術でアメリカに並び世界をリードする今の中国で、どのような指導者になっているかととても気になります。
●富士通の最初のパソコンFM8(
エフエムエイト)のコマーシャルは、点字ワープロ第1号機で。
ある時、富士通から学校にいる私に電話がかかってきました。電話の内容は、私が何故パソコンのFM8を4台も買うのか、と言う事でした。
私は全盲の視覚障害者で盲学校に勤めていますが、あのFM8で視覚が無くても漢字の入った日本語文を書くワープロをつくる為です。と答えました。
するとすぐ、富士通の方が実際のワープロを見学にきました。その後です。会社でこれをTVコマーシャルに使おうと言う事になりました。そしてそのコマーシャルの撮影は、日本点字図書館で行われました。コマーシャルの出演者は、当時日本点字図書館の職員だった全盲の岩上義則さんと、図書館の人ではありませんが、同じく全盲の大坪みちこさんでした。コマーシャルの内容は点字キーボードで岩上さんが画面に文字を書き、大坪さんが『パソコンは、このように目の不自由な人の福祉に役立つのですね』のような事でした。このコマーシャルは、1982年3月から1年以上TVで流れました。視覚障害者がTVコマーシャルに出たのはこれが初めての事だと思います。
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