ヒトノキモチハヒトノモノ

本当のところは知りたくない。

僕が楽しいと思ってるときに、彼女がきゅうっと音を立てて息を飲み込んだ。顔はまるで嘘とは思えない笑顔で、とても楽しいと言った。本当に?と追い打ちをかけることはしない。彼女が言っていることは嘘だ。心臓がばくばくと音を立てる。僕には彼女が言っていることが本当か嘘かわかる力が宿ったらしかった。

彼女とセックスをした。今日は3回、いったフリをしていた。彼女は僕を求めるように抱きしめて、3回いったふりをした。本当はいってないよね?と聞くことなんてできない。そういうことはしなくていいとも言えない。鎮まる僕の熱を感じながら彼女が隣で寝息を立てるふりをする。抱きしめることしかできないのがますます心苦しい。

彼女の嘘がわかるようになってからの僕は、彼女に話しかけるのが億劫になった。何を聞いてもそこには嘘か本当かしかないのだ。ラーメンを食べたいと言って、それいいねと答えてくれるのも、プレゼントをあげるとみせる驚いた表情も。
繰り返し聞いていた、僕のこと本当に好き?という質問は、喉を通る気もない。その答えを聞くのが怖くて、でも彼女に好きになってもらえるような努力も何も思いつかない。何をするにもただ怖かった。

1ヶ月後僕は彼女に別れを告げた。
なんで?と聞く彼女は本当に困惑していたけれど、納得もしていた。きみと一緒にいるとつらい、と伝えたら、最近つらそうだったね、と言って黙った。私はきみのこと好きだよ、という彼女の言葉が本心なことがわかった。でも僕は彼女といることで続くこの緊張感には耐えられようもない。ありがとう、というと彼女は少しだけ泣いた。今までありがとう、と僕は言ったけど、彼女は、さよならだね、と目を伏せた。

彼女は僕と別れてすぐ違う人と付き合い間も無く結婚した。僕と付き合いながら、他の人とも懇ろな仲であったらしい。
僕にはもう彼女の本心はわからない。君はこれでよかったのか?
きっと時が忘れさせてくれる。きっと時が

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