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【あとがきのようなもの】兎穴に落ちた人々
本職の作家でもないのに、一丁前に「あとがき」なんて書くのはこそばゆいのですが、ひとまず物語を書き終えたので挨拶をさせていただきます。貴重なお時間を割いてこの物語を読んでくださったみなさま、本当にありがとうございました。
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短編『アリスのための即興曲』は、私にとって習作であり、同時にパンドラの箱のようなものでもありました。敬愛する村上春樹氏に少しでも近づきたいあまり、文体が引っ張られすぎていて、自分でも恥ずかしくなります(もちろん村上氏の優れた作品に遠く及ばないことは言うまでもありません)。それでも、美大生が美術館に通って好きな作家の作品を模写するように、真似でもいいから練習のつもりで書き上げようと思いました。はじめはだらだらしていて定期的に書いていなかったのですが、後半は心を入れ替えて毎日書きました。そんなこんなで、かれこれ2年半ほどかかってしまいました。
それから、「兎穴」に落ちた人々のことを理解したいという気持ちもありました。誰の人生にも、一度や二度は避けて通れない大きな闇のようなものが訪れると思います。この物語では、たまたま恋愛というかたちを取らせていただきましたが、ひとによってはそれが生まれ育った境遇だったり、不幸な事故だったり、あるいは宝くじに当たるという出来事だったりするかもしれません(皮肉なことですが、大金を手にして以来、人生がぎくしゃくしてうまくいかなくなってしまうということもあるそうです)。そのように、何かわけのわからない暗闇にいきなり突き落とされてしまった人々のことを、「兎穴に落ちた人々」と表現させていただきました。
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私は昔から、なぜか相談事を持ちかけられることが多いのですが、そのような人々の話を聴きながら色々なことを考えました。「兎穴に落ちる」現象は偶発的なのか、それともこの世界の掟に従って起こるのか。エディプスが神託を厭い、自らの人生を切り開こうとしたその試みが心ならずも予言通りになってしまったように、人間は運命から逃れることはできないのだろうか。
ひとつわかったことがあります。それは、ひとは誰かを救うことはできないということです。少なくとも私には無理でした。ただ、兎穴の底に落ちてしまったひとと一緒にいて、ただただ話を聴くことしかできませんでした。そして本人が這いあがるのを黙ってじっと見ているだけです。それでも這い上がれたひとは幸せだと思います。
それから、とても不思議なことですが、世の中には「兎穴の底に留まっていたい人々」も存在するのだと学びました。兎穴から這い出るためにはおそろしい量のエネルギーと、深い知恵と、精神力が必要です。だから「抜け出たい」と口ではいうものの、またずるずると戻ってしまう。兎穴の底は決して居心地がいい場所ではないと思うのですが、それでも身も心もずたずたになって外の世界に出ていくよりはましだと、その人々は本能的に悟っているのでしょう。そうした人々を無理に引っ張り上げてはいけない、ということも学びました。繰り返しになりますが、私にできることはどのみちとても限られているのです。
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たぶん、ひとには元々備わった力みたいなものがあり、それは本人も気が付かない、奥深いところで眠っているのだと思います。自分のことをどんなに「弱い」と思っていても。春になればチューリップが地中から芽を出すように、目覚めのプロセスは、おそらく自然にやってくるのだと思います。私は小さなじょうろを手に持ってちょろちょろとお水をやるくらいしかできないけれど、やがてくる春をそっと祝うような小説が書けたらいいな、と思っています。
それにしても、あまり明るいとはいえない小説を長々と書いていたので、今度はもっとさわやかな短編小説かエッセイでも書きたいなと思っています。が…まだ『黄昏のアポカリプス』が終わっていないのでした。マイクロチップのバグをテーマにした、近未来SF小説です。どこまで書けるかわかりませんが、頑張って続きを書きたいと思います。もしご興味がありましたら、ご一読いただければ幸いです。
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