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【掌編】ぼくとおねえちゃん

ベテランパイロット、マイケル・スペンサー(仮名)の証言
「確かに俺は見たんだ。あいつがあぐらをかいて、大あくびしていたのを!」


ぼくには大好きなおばちゃんがいる。でもおばちゃんって呼ぶと怒るからおねえちゃんって呼んでる。おねえちゃんは、ママの作ったディナーをとても美味しそうに食べる。ぼくが残してしまうキャロットも、隠れて食べてくれる。テレビゲームがとても下手で、UNOと7ならべがとにかく強い。

おねえちゃんはよく笑うし、とても優しい。だから、もっと一緒にいたいけれど、ぼくが朝起きるといつもいない。ぼくは、忙しいパパとママの代わりにベースボールの試合を応援しにきてほしい、とおねえちゃんに頼んだことがあったけど、肩をすくめて「それはできない相談ね」と断られてしまった。

ぼくはおねえちゃんのお仕事を知らない。ただ、ママが言うにはとても大変なお仕事らしく、スタミナを維持するためにもママの作る美味しい夕飯が大切みたいだ。

ある日、ママが風邪をひいてしまった。パパは国際線のパイロットで、この日も家にいなかった。おねえちゃんがやってきて、寝込むママを見るや「OMG!」と手をとって泣いてくれた。大げさだけど、おねえちゃんはやっぱり優しい。

ママが夕飯の支度をできないので、ウーパーイーツをぼくが注文した。デジタルネイティブ世代のぼくだ、それくらい朝飯前だ。いや、今は夕飯前か。ところが、おねえちゃんは浮かない顔をしている。

「ハリー、いい? どんなことがあっても、Don't cry」

おねえちゃんはそういうと、悲しげな表情でカツ丼をかっこんだ。


ニューヨーク州上空、高度28,000フィート、視界良好。見下ろせば、ちょうど視界に自由の女神像が今日もこの世界を見守ってくれているかと思いきやあぐらをかいて大あくびしてやがる——! by マイケル・スペンサー(仮名)

立ちっぱなしはさすがにキツい。だから夜な夜な、美味しいものを食べてエネルギーをチャージしていたけれど、カツ丼だけでは体力はもたないし胃もたれするしで、限界だ。さよなら、ハリー。


ぼくは大学生になって、JAPANという国に留学をした。ホストファミリーの家でテレビを観ていると、「ニューヨークに、行きたいかー!」とアナウンサーが叫んでいる。

画面には、確かにおねえちゃんが映っていた。

よくぞここまで辿りついてくれた。嬉しいです。