【社内研修レポート】パプアニューギニア海産 武藤北斗さん「エビ工場の争いのない組織づくり」
こんにちは。ここにあるでインターンをしている加統文菜と申します。
ここにあるでは、月に一度、社外の経営者や組織開発パーソンなどに来ていただき、研修を実施しています。
研修は社内のメンバーからも「学びが多い!業務にも生かせる!」と好評ですが、研修の意義はそれだけではありません。ここにあるでは各メンバーが自ら問いを立てて考えることを大事にしていますが、研修では、テーマ(問い)を組織として共有し、メンバー全員で考える大事な機会だと捉えています。
5月17日に行われた研修では、パプアニューギニア海産の代表取締役である武藤北斗さんをお招きし、「争いのない組織づくり」をテーマにお話しいただきました。出勤日も働く時間も自由だというユニークな制度を導入した背景や、組織づくりで大事にされていることについて、ここにあるメンバーも興味津々で聞いていました。
初参加の研修にドキドキしていましたが、武藤さんの語る思いやストーリーに引き込まれ、あっという間の3時間でした。そんな5月の研修の様子をレポートしていきます!
「従業員をいかに管理するか」から「無断欠勤OK」に
パプアニューギニア海産は大阪にある天然エビの加工会社。「家族や友人に『食べてもらいたい』と思える食べものをつくる」という理念のもと、獲れたてのまま船で凍らせた鮮度抜群のエビを使っています。価格だけではなく、品質や味にもこだわることで、パプアニューギニアのエビ漁師の方々と30年以上にわたってパートナーとして続けられいているそう。
今でこそ従業員の働きやすさを大切にされていますが、以前は「いかに従業員を管理し、思い通りに動かすか」を考えており、独裁的であったと語る武藤さん。監視カメラを設置して常に従業員を監視するなど、従業員を厳格に管理していた結果、従業員の不満も募り争いの絶えない職場だったんだとか。
元々は宮城県に会社を構えていた中で、2011年の東日本大震災をきっかけに大阪に会社を移転。それに伴って従業員は全員解雇せざるを得ない状況の中、1人の社員が大阪まで追いかけてきてくれて、引き続き働いてくれたんだそう。新たにパートの従業員を雇い直し、大阪で工場をスタートさせたそうですが、人が入って辞めての繰り返し。そんな中、2013年に宮城にいた頃から苦楽を共にしてきた社員から「辞めたい」という言葉が漏れ、退社されました。
「ギスギスした雰囲気の従業員の管理を社員に任せ、大きな負荷をかけていたことを初めて認識したんです。」
この出来事をきっかけに、働きやすさを重視する会社にすべく、会社の改革がスタート。十数名の従業員が憎しみ合っている状況で、まずやるべきことはひとりひとりの声を聞くことだと考えたんだそうです。武藤さんは従業員と面談を重ねていき、どうしたら働きやすくなるか聞いていくと、たどり着いたのは「休みやすい会社」でした。
そこで、2週間で20時間以上働けば、出勤・退勤時間も休む日も自由で、無断欠勤OK。むしろ休む時は連絡禁止という斬新な「フリースケジュール制度」を導入。例えば子どもが急に体調を崩してしまったときにも、会社へ連絡する手間も精神的な負担もなくなり、従業員が自分の生活を大事にしながら働くことができるようになったようです。
フリースケジュールにして本当に会社として成り立つの?という疑問が真っ先に浮かびますが、働き方を変えたことはむしろプラスの変化をもたらしたと武藤さんは語ります。
離職率は下がっていき、3年間誰も辞めない期間があったほど。これは水産加工会社としては奇跡に近いことなんだそうです。ベテランのパートさんばかりが働き続けることで生産性は上がり、人件費も大きく削減することができたといいます。
追求したのは「争いや苦しみのない職場」
その後も従業員の働きやすさを追求するため、様々なルールを導入していきましたが、判断基準となったのは「争いが起きるかどうか」というシンプルな考え方。
人は争う生き物だと前提を置きながら、組織のリーダーとしてどうしたら争わない職場がつくれるかを追求していったとお話してくださいました。争いが起きて人間関係が壊れるくらいなら小さな効率は捨てる、人が働きやすい職場には結果として数字がついてくると信じていたそうです。
「ある時まで、従業員には平等に作業を行ってもらうことが良いと思っていましたが、それぞれに好き嫌いがあることに気付いたんです」と話す武藤さん。従業員の争いや不満を生まないため、「やりたくないことはやらない」という考えに立ち返ることにしたそう。そこで作業を一覧にし、嫌いな作業項目に✕をつけてもらう「作業好き嫌い表」を導入し、バツをつけた作業は思い切って禁止にしてみたそう。
できないことができるようになるのも仕事の醍醐味では?と思うかもしれません。しかし、従業員は毎月「作業好き嫌い表」を記入するため、嫌いな作業を一生やらないことも、向き合うことも自分で選択する余地があります。
社交不安障害を持つ方が働かれていた時、挨拶をすることが負担で辞めたいという申し出があったんだとか。挨拶をするのは当たり前だと思っていた武藤さんにとって驚きの出来事でしたが、嫌い表の項目に「挨拶」を追加すると、なんと4人もバツをつけた方がいたそうです。彼が声を上げたおかげで、他の3人の負担も取り除くことができたのです。
ここにあるでも「できないという余白が、周囲の人の関わりしろを生む」という考え方を大切にしていますが、この表のように誰かの嫌いや苦手が可視化される仕組みがあったら、
もっと関わりの余白が広がっていきそうですね。
メンバーからは「ファシリテーションをする中でも、グループで感想のシェアは大事だと思ってやっていたけれど、ある時ひとりで考えたい人もいると気づいたんです」という感想が。
多様な価値観の人が、安心感を持って参加できることを大事にしながら、場づくりをしているここにあるらしいエピソードですね。普段当たり前にやっていることを問い直し、選択肢を用意することが、組織づくりのみならず、豊かな場をつくることにも繋がるのかもしれません。
また、一見リスクの高そうな改革を次々と進めていったことに、思わず「失敗が怖くないんですか?」という質問が。
「みんなから意見が出てやり取りしてる時点で成功なんです。付いてくる結果はおまけでしかない。みんなの意見を聞かないことが失敗だと思っています。」
大切にしていたのは現場で働く従業員の意見。ひとりひとりと面談をする時間を取り、聞くだけで終わりにせずきちんと答えを返すことで、従業員が信頼を持ちながら全員の意見が反映できる仕組みをつくっていかれた背景が感じられます。
頼りにしていた社員が離れてしまったことをきっかけに始まった「争いのない組織づくり」。ここまでにご紹介いただいた制度やルールそのものというより、それが出来上がるまでの従業員の意見を言いやすい環境や、それを会社が聞いて応えてくれるとプロセスを大切にしておられたことが、組織づくりのカギだったんですね。武藤さん自身が経営者として、本気で働く従業員の苦しみを取り除くことに向き合ってきたことが感じられますね。
排除しない組織や社会は豊かである
パプアニューギニア海産では「誰かを排除しない組織づくり」に取り組まれています。
「人を排除しない組織や社会って豊かになるし、その空間というのは自分も排除される可能性がないので、安心感になるんですよね」と語る武藤さん。
先ほどの挨拶が苦手だった彼を含め、パプアニューギニア海産では、障がいを抱えていたり働きづらさがある人も雇用されています。障害をかかえている人が初めて職場に来たときは、パートの方は始めは驚くものの、半年程すると障がいのない人と何ら変わらず、一緒に働くことが普通になっていたそうです。結局は慣れていないだけで、誰かから聞いたり社会に蔓延するイメージから想像上の恐怖を抱いて排除してしまうということも少なくありません。
ここにあるは様々なまちづくり・コミュニティづくりに取り組んできましたが、「誰かを排除しない」という組織像は地域コミュニティの在り方に通ずるものがあります。そんな中で挨拶の話をしているとあるメンバーが「でも挨拶がない地域・まちって寂しいよな~。豊かじゃない気がする。」とポロっと。
すると武藤さんが「コミュニティはコミュニケーションができる人が強い立場になることが多いですよね」と。
核心を突かれた我々はハッとなり言葉を失いました。完全に挨拶をなくすのではなく、挨拶ができない人もいる前提で、どんなコミュニティにできるのかを皆で考えていくことが重要とおっしゃっていました。
ちなみにある調査によると自殺希少地域(自殺が少ない地域)のコミュニティは「つながりつつも縛らない」という特徴があるみたいです。武藤さんは「本来あるべき距離感を保つことが大切」とおっしゃっていましたが、職場だけでなく地域においても正にこのような考え方が重要になってきますね。
(参考)"自殺が少ない地域" の「生きづらさ」を減らす仕組みを探して〜精神科医・森川すいめいさんに聞く
ここにあるでは何ができる?
そんなこんなで、みっちり3時間の研修が終了。
武藤さんの嘘のない正直なお人柄を一貫して感じ、またそんな武藤さんがお話しされるからこそ、心にずっしり響く言葉がたくさんありました。
武藤さんは「今日の話はあくまで一例であって、制度や方法をそのまま真似しても意味がない。大事なことはきちんと背景をくみ取って、それに沿った取り組みを実行すること」と何度もおっしゃっていました。
メンバーからも、「みんなの意見を聞きながらルールをつくっていくプロセスを真似したい」という声が複数上がっており、今回の研修での大きな学びの1つになっています。
パプアニューギニア海産のルール達は「争いを生まない」という指針が基準となり、対話を重ねながら生まれてきたもの。ここにあるがルールをそのまま真似するのではなく、何を「指針」にしながら組織づくりをしていくか考えるのが、スタートになりそうです。
ここにあるでは普段から、この先の社会がこうなったら良い、こうしていきたいという思いを共有し対話する風土があります。そんな議論ができること自体がここにあるという組織の特徴であり強みであるとインターンをしながら日々感じています。
パプアニューギニア海産が「争いを生まない」であれば、ここにあるの組織内での指針や判断基準は何だろうと考えた時、私が思いついたのは「人が豊かになれるか」でした。抽象的ではありますが、「教育」「農」「福祉」と興味のある分野は違えど、現代社会や今の幸せの基準に対してどこか違和感を持つ人が集まっていて、それぞれの現場からできることを試しながらアプローチしていっています。この研修を踏まえて、それぞれが思うここにあるの指針を擦り合わせるのにも良い機会ではないでしょうか。
あるメンバーから、ここにあるでも「作業好き嫌い表」を作ってみたいという声が上がり、早速作成が進められています。ここにあるの場合はルーティン作業ではなく、作業の種類や期限が様々なので作成は難しいですが、みんなが納得する形を目指して一緒に考えられたらと思います。
それぞれのメンバーが学びを咀嚼していますが、今すぐできる取り組みから、少し時間はかかるけど組織として取り組むべきことまで、自主的に問いを持って考えていきたいと思っています。
株式会社ここにあるでは、「すべての人が楽しみながら、わたしとしての人生をまっとうできる社会に」をビジョンに掲げ、主にまちづくりや場づくり、コミュニティデザインの分野で活動をしています。スタッフやインターン、ボランティアなどさまざまな関わり方があります。少しでも興味をもった方はお気軽にお問い合わせください!